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見つけたいのは、光。

2022.09.17 更新 ツイート

【飛鳥井千砂×藤岡陽子対談】人は自分が知らないことを考えるのが難しい。知ってもらうため、私たちは物語を紡いでいる。 飛鳥井千砂/藤岡陽子

四歳の男の子の母である飛鳥井千砂さん、大学三年の娘さんと中学三年の息子さんがいる藤岡陽子さん。仕事と子育ての両立がスタンダードの時代になったとはいえ、そこにはお二人を含め、当事者にしかわからない“生きにくい現実”がある。『見つけたいのは、光。』で、子どもを産んだ人と産んでいない人、それぞれの苦悩を掬い取り、さらに両者の間にある分断に厳しくも優しい眼差しをもって挑んだ飛鳥井さん。今年2月に刊行した『空にピース』で、公立小学校教師の視点から、救いの手すら届かない場所にいる子どもたちの現実を炙り出した藤岡さん。社会が問題として捉えられていないものを、物語で可視化したいという共通の思いを抱くお二人が、語り合ったこととは。

 

藤岡 育児に奮闘しながら、就職活動も、子どもを保育園に入れるための活動も、という物語のなかで亜希が辿っていくしんどい時代は、私にとって十年ちょっと前のことなのですが、ほんとうに共感しかなかったです。そしてまさに今、日本の女性が抱えている問題、苦しみが言語化されています。亜希も茗子も、子どもの頃からとにかく頑張ってきた人たちなんですよね。頑張って社会に出て、そこで苦しい状況にぶちあたっても努力し続けてきた女性たちが、人生の次の段階で再び社会という壁に阻まれ、苦しんでいる姿がすごくリアルで。でもこの物語によって、対岸にいる女性、分かり合えない女性たちが、ぎゅっとひとつの流れに乗れるんじゃないかなと思いました。

 

飛鳥井 ありがとうございます。藤岡さんに共感していただけて胸がいっぱいです。同時にそう思っていただけたということは、十年を経ても子育てを巡るしんどい状況はまったく変わっていないということでもあるんだな、と。育児や出産、一方で産まないという選択、生き方って、本当に個人的な話なんですけど、実は全然、個人の話ではないんですよね。それは作品のなかにも強く込めたのですが、個人の問題とされている部分って、実は社会の問題であることが多い。それが、私が今、一番問題だと思っているところです。

 

―『空にピース』でも虐待、貧困家庭など、子どもたちの家庭、個々のエピソードが登場してきますが、こちらも個人ではなく社会の問題ですね。

 

藤岡 その問題の最初にあるのは、知らない場所で生きている人たちのことを理解できないということだと思うんです。理解しようとしていないわけではなく、知らないことを人は理解できないじゃないですか。社会がなぜ動かないかというと、個人の苦しみ、問題を捉えきれていないんじゃないか、と。この小説で書いたような子どもたちの現状を、児童福祉施設の職員さんら、身近にいる一部の人は知っているけれど、一般の方、ましてや子どものいない方にはまったくわからない。飛鳥井さんの作品を読んで強く感じたのは、想像力を超えたところにあるその事実を、小説のなかで伝えたいという思いでした。やりたかったことは、二人とも同じだったのだなと。

 

飛鳥井 まったく同じです。私も『空にピース』を読んで、強くそう思いました。藤岡さんは現役の看護師さんでもいらっしゃるということで、今日は息子の話も少しできたらなと思っていたのですけれど、今、四歳の息子が生まれたとき、哺乳力が弱くて、生後九カ月まで経管栄養の医療的ケア児だったんです。恥ずかしい話ですが、自分の子どもがそうなるまで、経管栄養とか医療的ケア児というものを私はまったく知らなくて。小説家として十年以上活動し、いろんなことに視野を広げる意識は持っていたつもりだったのですが、自分がそこに入ってみるまで気が付かなかった。藤岡さんがおっしゃった、自分が知らない、そこに行かないと見えない現実は、私も今回、すごく書きたかった部分。でも振り返ると自分自身も見えていない側であることが多くて。書く側だけれど、自分も学んでいく側でもあるなと改めて思いました。

 

―お二人の小説を読むと、社会で可視化されていない問題を可視化していきたい、という思いを強く感じます。

 

藤岡 知らないから考えることができないという人たちがすごく多いと思うんです。物語を読むことで登場人物の気持ちになり、そこから知っていくことってあるんじゃないかと。そして、知ることで見えてくるものがある。『見つけたいのは、光。』で、私は亜希、茗子、双方の気持ちになったんですけど、物語の肝だなと思ったのが、後半で亜希と茗子が出会い、子どもを産んだ人、産んでいない人、それぞれの立場から互いの思いをぶつけ合うシーン。やはり現実では難しいんですよね。「子どもがいるからって、この人、なぜいつもこんなに早く退社していくの?」といったことを思っている人は、日本中の職場にきっといっぱいいる。でも、それを口に出してしまうと人間関係が壊れてしまうし、自分もしんどくなるので、ぐっと我慢しているところを、亜希と茗子は自分たちの思いを突き合わせていく。

 

飛鳥井 現実ではそうしてぶつかり合うことはなかなか難しいですよね。感情のぶつけ合いって、特に日本の風潮では良くないこととされていて、クールにやり過ごすのが、社会人として正しいやり方とされてきたところがすごく強いと思うんですけど、現実でもこうして具体的に何か動くことができたら、と思いながら書いていました。

”強くなければ、子供たちは守れない。”教諭のひかりは赴任先で衝撃を受けた。立ち歩き、暴力、通じない日本語ーー。

関連書籍

飛鳥井千砂『見つけたいのは、光。』

私たち、何を、 どこに向かって、 頑張ればいいの──? 亜希と茗子の唯一の共通点は育児ブログを覗くこと。 一人は、親しみを持って。一人は、憎しみを抱えて。 ある日、ブログ執筆者が失踪したことをきっかけに、 二人の人生は交わり、思いがけない地平へと向かう。 自分だけの光が見つかる、心震える物語。

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見つけたいのは、光。

小説幻冬(2022年8月号 ライター瀧井朝世)、本の雑誌(2022年8月号 文芸評論家 北上次郎)、日経新聞(2022年8月4日 文芸評論家 北上次郎)、週刊文春(2022年9月15日号 作家 小野美由紀)各誌紙で話題!飛鳥井千砂5年ぶり新刊小説のご紹介。

「亜希と茗子の唯一の共通点は育児ブログを覗くこと。一人は、親しみを持って。一人は、憎しみを抱えて。ある日、ブログ執筆者が失踪したことをきっかけに、二人の人生は交わり、思いがけない地平へと向かうーー」

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飛鳥井千砂

1979年生まれ、愛知県出身。2005年、「はるがいったら」で第18回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。'11年に上梓した『タイニー・タイニー・ハッピー』がベストセラーとなり注目を集めた。他に『君は素知らぬ顔で』『女の子は、明日も。』『砂に泳ぐ彼女』『そのバケツでは水がくめない』など著書多数。

藤岡陽子

1971年、京都府出身。同志社大学文学部卒業。報知新聞社勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。'09年『いつまでも白い羽根』でデビュー。著書に『手のひらの音符』『晴れたらいいね』『おしょりん』『満天のゴール』『跳べ、暁!』『きのうのオレンジ』などがある。

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