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はじめてのトライアスロン

2022.04.14 公開 ツイート

46歳まで運動経験皆無、52歳までカナヅチだった作家がハマった「体にやさしい」トライアスロンの世界 倉阪鬼一郎

46歳まで運動経験皆無、52歳までカナヅチだった作家の倉阪鬼一郎さんがなぜかハマったトライアスロン。トライアスロンは、鉄人レースばかりでなく、ハードルの低いレースもたくさんあるそう。3月に発売された新書『はじめてのトライアスロン』は、そんな著者による最底辺からの体験的入門書です。一部抜粋して、体にやさしいトライアスロンの世界をご紹介します。

2つのトライアスロン

「トライアスロンをやっています」と人に告げると、ずいぶん驚かれたり感心されたりすることがあります。

「すごいですね」と言われてまんざら悪い気はしませんから、あえてくわしい説明をしたりはしませんが、「ああ、何か誤解をされているな」と思ったことが何度もありました。

むやみに感心された方は、おそらく鉄人レースとして有名なアイアンマンのような長い距離のレースを思い浮かべたのでしょう。スイム(水泳)が3・8キロ、バイク(自転車)が180キロ、さらにラン(走り)がフルマラソンと同じ42・195キロ、これはたしかに過酷を極めます。

しかしながら、トライアスロンにはもっと短い距離の大会もたくさんあります。頂点に位置するアイアンマンがハード・トライアスロンだとすれば、こちらはさしずめソフト・トライアスロンでしょうか。

もう一つ、トライアスロンのスイムは必ず海で行われると思っている方も多いと思います。テレビで放映されるトライアスロンのスイム会場はおおむね海ですから(湖などのほかのオープンウォーター、すなわちプールのようなコースの区切りのない水泳会場の場合もあります)、これは無理もありません。

しかし、スイムがプールで行われる大会も少なからず開催されているのです。現に、わたしも3戦目まではスイムがプールの大会でした。

人間の限界にチャレンジするハード・トライアスロンは崇高(すうこう)な競技ですが、本書でまず目指すのはよりハードルが低くて親しみやすいソフト・トライアスロンです。まずその点をご承知いただきたいと思います。

体にやさしいトライアスロン

アイアンマンのような長い距離の大会はともかく、オリンピック・ディスタンス(オリンピックの公式距離)くらいなら、あまり体にダメージが残らないのがトライアスロンの美点の一つです。

スイム1・5キロ

バイク40キロ

ラン10キロ

これがオリンピック・ディスタンスの基本距離です。ロング・ディスタンスと対照させた「ショート」、あるいは「スタンダード」とも呼ばれています。

各競技がオリンピック・ディスタンスの半分の距離のスプリントの大会も多く行われています。メインがオリンピック・ディスタンスで、初心者向きのスプリント・ディスタンスが併催されている大会も目立ちます。

スイム750メートル

バイク20キロ

ラン5キロ

これがスプリントの基本距離です。

さらに、もっと短いスーパースプリントや、コース設定の特性によるイレギュラーな距離の大会もあります。また、キッズレースが併催されている家族向けの大会も増えてきました。

こういったオリンピック・ディスタンス以下の距離の大会では、フルマラソンなどより体にダメージが残りません。その理由はただ一つ、各競技で使う筋肉が異なるからです。

フルマラソンでは、それなりの時間、同じ「走る」という動きを反復しなければなりません。よってダメージが残ります。

フルを超える距離を走るウルトラマラソンではなおさらです。「どこかが痛くなってからがウルトラ」と言われます。体力もさることながら、不屈の忍耐力と精神力も要求されるのがウルトラマラソンです。

わたしはこれまでに、フルマラソンとウルトラマラソンとトライアスロンを通算で100回以上完走してきました。その経験に基づけば、体へのダメージの残り方は少ないほうから次のような順になります。

トライアスロン(オリンピック・ディスタンス以下)→フルマラソン→ウルトラマラソン

オリンピック・ディスタンスのトライアスロンのダメージは、ハーフマラソンとほぼ同じくらいでしょうか。3種目それぞれに異なる筋肉を使うトライアスロンは、一般に思われているよりはるかに体にやさしいスポーツなのです。

完走すれば喜びも3倍

トライアスロンのゴール写真を見ると、どれもいい笑顔になっています。「ああ、やりつくした」という満足感が伝わってくるかのようです。

もちろんフルマラソンでも満足感や達成感はありますが、トライアスロンではその喜びが3倍になります。

大会というのはピアノやバレエなどの習いごとの発表会のようなもので、そこに至るまでには長い練習の時間が積み重ねられています。トライアスロンは3種目ありますから、時間をやりくりしながらそれぞれの練習をこなしていき、やっと晴れ舞台に立ってゴールを迎えるのです。喜びもひとしおです。

次に、レースに即して考えてみましょう。

トライアスロンの実施種目の順番は決まっています。

スイム→バイク→ラン

オープンウォーターで行われるスイムが悪天候によって中止され、第1ラン→バイク→第2ランのデュアスロン形式(バイクとランの2種目)に変更されることはありますが、基本的にはこの順番は変わりません。

第1種目のスイムのスタート時は、どんなに経験を積んでいても緊張するものです。ことに海の状態が芳(かんば)しくなかったりすると、「果たして無事に戻ってこられるだろうか」という不安が高まります。

そんな不安をなだめてスタートし、無事完泳すると、心底ほっとします。スイムが終われば、トライアスロンの半分以上をクリアできたような気持ちになるものです。

次はバイクです。この競技にもリスクがつきまといます。レース中にパンクしたり、思わぬ故障が起きたりするかもしれません。あるいは、転倒したり、ほかの選手の落車に巻きこまれたりする危険性もあります。

そんなリスクのある2種目めのバイクを無事終えることができれば、いよいよ残るはランだけです。トライアスロンはおおむね夏に行われますから、暑さとの戦いになることもしばしばあります。

それを乗り切っていよいよゴールが見えてきたときの感動は、何物にも代えがたいものがあります。3種目をこなしてきただけに、喜びもまた3倍になるのです。読者のみなさんにも、ぜひその感動を味わっていただきたいと思います。

関連書籍

倉阪鬼一郎『はじめてのトライアスロン』

トライアスロンには2つある。1つは有名な「鉄人レース」で、水泳3・8km、自転車180km、走りがマラソンと同じ42・195kmのもの。これは「人間の限界」への挑戦で、過酷さと崇高さを極める。一方、トライアスロンのオリンピック公式競技は水泳1・5km、自転車40km、走り10kmだ。だが、もっと短い距離(水泳750m、自転車20km、走り5kmとかそれ以下)の大会も多数存在し、じつはオリンピック距離でも、体にあまりダメージが残らない。46歳まで運動経験皆無、52歳までカナヅチだった著者による、最底辺からの体験的入門書。

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倉阪鬼一郎

1960年、三重県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。作家・俳人・翻訳家。87年、『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。98年、『赤い額縁』を刊行後、ミステリー、ホラー、幻想小説、時代小説など多彩な作品を精力的に発表。『田舎の事件』『活字狂想曲』『怖い俳句』『怖い短歌』(いずれも幻冬舎)など二百冊を超える多数の著書がある。
46歳で運動経験なしでマラソンを始め、54歳からトライアスロンを始める。自己ベストはフルマラソン3時間39分00秒、ウルトラ100キロ11時間49分38秒。フルマラソン、ウルトラ100キロ、トライアスロンを合わせて100戦完走を達成。いずれも専業作家では村上春樹氏に次ぐナンバー2の記録を持つ。トライアスロンはデビュー以来すべて完走。

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