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渋谷で君を待つ間に

2022.01.12 更新 ツイート

なんとなく目覚めて、いつの間にか眠っている日々は - 亜蘭知子『Midnight Pretenders』 カワムラユキ

誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。

 

 

平日の夜は大人しい

目覚めたばかりのモグラのように、心底だるく覇気がなくて

ミッドライフクライシスの後には、ミドルエイジクライシスが訪れるらしいとか

辛気臭いネット記事が、適当な統計ばかりを知らせてくれる

なんとなく目覚めて、いつの間にか眠っている日々は、30%オフの冷凍食品にでもなった気分で

 

この醜い年老いた身体に何の価値があるのだろう?

誰かの役に立てるような特別な知識や、非凡なステイタスが添えられたキャリアがあれば

波乱含みの承認要求でも持ち合わせて、ほどよく傷つきながら生きてゆけたのかもしれない

 

週末が来る度に、新しいレコードを買っていた

古い記録を掘り起こして、荒野で金塊を見つけるように

利便性の奴隷になった現世に対して、みなぎる怒りで争うどころか、辟易しているわけでもない

容赦のない抑圧に、もはや観念しているだけ

偏見や差別がまかり通った、あの変な時代が恋しい人なんて少数でしょう

 

最近の新しい音楽には一切、興味が持てない君は

リビングの隅に置かれたターンテーブルに、再発になった1983年のレコードを乗せて

 

33回転で廻る円盤に輪廻転生を重ね合わせ、何度でも生まれ変われるとか

格言めいた言葉の一つも垂れ流せたら、明るい生き方に導かれる未来も描けたのかな

 

どんなにお金を使っても、地位も名誉も手に入れても

大切に想える人との時間や記録が、かけがえないものだったと息絶える前の走馬灯で思うのか

 

ただ単に惹かれ合うだけで、禁じられた恋に堕ちられた日々

上昇気流だけを真っ直ぐに背中へと感じられた瞬間とか、それは限られた者だけが見られていた景色

 

魔法や奇跡を信じていたり、願掛けや初詣を欠かさずに

定期的にお札やお守りを買い替えては、まだ見ぬ世界に期待することを辞めてはいない

生きていて良かったなって笑える余裕も、使い古された慣習のようなものでもなく、きっと新鮮に感じられるなんて

まだまだ僕の煩悩までは、値引きはされていないようだ

 

古いレコードには、出会えなかった景色を繋ぐ力があるような気がする

無限大の可能性に掠れた情熱を引火させて

まだ見ぬ恍惚、純白の天使が誘う快楽の高みを拝みたいとか

 

考えれば考えるほど、僕らのアイディアだけが古いレコードの上で滑り続けている

この苦悩も豊かな幸福だとして、一枚のレコードにしておけば

いつか誰かが発掘してくれる日が来て、魅力的な犠牲者になったとしても、報われる日が来るのかな

 

とりあえず考え過ぎて眠くなってしまう前に、君と僕とで踊ろうか

今という日を、今日を、週末を、レコードのB面が終わる前を

 

 

亜蘭知子『浮遊空間』(1983年、ワーナー・パイオニア)収録

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渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。

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カワムラユキ 選曲家、作家、プロデューサー

1978年8月21日、東京生まれ、幼少期を仙台で過ごす。
98年頃よりフリーランスのプロデューサーとして、ダンス・ミュージックのプロモートやイベント制作を経験。
2000年頃よりDJ、ライターとしての活動をスタート。
DJ活動の傍らヨーロッパ各国を周遊しながら、リラックスに特化した「Chill Out(チルアウト)」空間での音楽演出など、独自の活動を探求する。

2008年からは作詞家や音楽プロデューサーとして「NARUTO」「バクマン。」などのアニメ主題歌、「ラグナロクオンライン」や「CYBERPUNK 2077」などゲーム音楽、水曜日のカンパネラとのコラボ作品「金曜日の花魁」、多くのアーティストにカバーされたSam Smithのグラミー賞受賞曲「Stay With Me~そばにいてほしい」などの日本語詞を担当。
2010年には渋谷道玄坂にて、ウォームアップ・バー「しぶや花魁 shibuya OIRAN」をオープン。店舗運営と連動して、自身が主宰するミュージック・ブランド「OIRAN MUSIC」を発足。コンピレーションCDのリリース、リミックス・ワークの配信、アートや音楽フェスとのコラボなど、コンテンツ提供を活発に行っている。

現在、渋谷区役所の館内BGMの選曲に加え、コミュニティFM「渋谷のラジオ」第一月曜16時~、インターネット・ラジオ「block.fm」毎週金曜20時~、bayfm「THE SELEC-TONE」毎週日曜26時~など、レギュラー番組の選曲とナビゲーターを担当中。

Twitter: @yukikawamura821
Instagram: @yukikawamura821
Web: OIRAN MUSIC公式サイト

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