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コロナ時代の銀河

2021.09.07 公開 ポスト

第2回

誰も見たことが無いものを平然とつくった河合宏樹(映像監督)/古川日出男(作家)

朗読劇「銀河鉄道の夜」』の新作無観客野外公演として、震災から10年の節目の年、世界規模の厄災最中の2021年3月にYouTubeに発表された映像作品「コロナ時代の銀河」。活動の中心である作家の古川日出男と本作の監督を務めた河合宏樹のお二人が、作品に込めた思いを語る対談、第2回です。

*   *   *

その場で突然起きたことに反応し、記録する

古川 今回、映像作品をYouTubeで無料公開することに対して「お金を取りたくない」と言って誰が粘ったかと言うと、ぶっちゃけ俺だったよね。予算に関して困惑するスタッフに対して「うーん、何とか頑張って」とか言っちゃう人間だから俺は。

 

河合 それは最初に銀河に関わった頃から一切変わってないですね。古川さんのものづくりの姿勢は一貫してそうです。だからこそ僕は今も汗水たらしながら自分の映像を見つめ続けられているというか、ふんだんに予算があって、それでやってくださいではなくて、自分の身体を駆使することで、最先端な
機材やそういうものに頼らずに、純粋なものづくりというのをやり続ける。

古川 そこは大きいよな。だから映像の河合君も写真の朝岡(英輔)君も音声を録ってくれたRIMEの川島(寛人)君もそうだけど、現場は、その瞬間に起きることに反応しなくちゃいけない。その場で反射神経でやるしかない。キャストの方も、自分のことを例に挙げれば、自分がどう動くかなんて全く分からない。あの日に風が吹いてグランドの土が舞って、俺が動くと校庭そのものが一緒に踊ってくれると思ったから、もう身体が動き出した。そういうふうに、たとえば全部シミュレーションして準備してリハーサル通りの演技をして収録っていうのじゃなくってさ、その場で突然起こったことにどう反応するの? と。それを記録に留めて凝縮して人(受け手)に観せるということ。

河合 当初は、2回実演するタイムテーブルが制作からきていたのですが、基本的に実演撮影は1回になるだろうと僕も思っていました。僕は、残すことよりもその場で生で起こってしまったことの方がとても重要だと思っていて、

古川 映像として収録しきれないものが気配や雑味としてはみ出る。

古川日出男氏

河合 そう。そこがあるからこそ、僕は約10年、古川さんを追いかけていますけど、続けられている。ものづくりもそうですけど、完成したと思うと、ゆらゆら帝国みたいに解散しちゃうというか(笑)そういうことが僕はずっとあってだからいつもでも完成しない。僕がずっと古川さんと一緒にいて常に勉強していることはそういうことです。

古川 (笑)

河合  あとは身体を使うこと。身体を使って責任をとるというか。限られた時間の中で、銀河も全員が限界にまで身体を持っていく瞬間、さらにその瞬間に、それぞれの立ち位置の人がそれぞれの吸収の仕方でものを作っていくというのは、朗読劇の作り方としても一番、重要なことですよね。でも今のお話にあった作り方や、そもそもなぜ朗読劇なのかというお話は、意外と公になってないですよね。

古川 人様から尋ねられることが無いからね(笑)

河合 でもこれとても重要で、お客さんは知らないで観ているじゃないですか。もしかしたら、お客さんも疑問に思っているかもしれない。だから我々、作り手の表現に対してその意図するところを公にするということは、大事なような気がします。

古川 話を先に進める前にちょっと戻せば、まず俺は小説を書いている時には、文章に残している以上のものがもっと見えていたり、触れていたり、解っていたり、多くのことをしているんだけど。文章に止めようとすると、その百分の一も残らない。だから河合くんが現場の全部なんか撮れないというのは、小説だって同じだよ。見えていて、解っていても撮れないんだよ。

河合 確かにそうですよね……

古川 だから自分にしか残せない形で、百分の一だけれども、それでも他の人が残すよりはプラスαが絶対残っているという残し方をするのが、表現だと思う。「朗読劇『銀河鉄道の夜』」をやる時には、本当は百見えているけど、様々な制約もあって、一しかやれないのだけれど、その一が他の人とは全く違う形でアウトプットされているということを見せることであり、上演に触れるだけで納得させられるものを生み出す為にやっているんだよ。

河合 うんうん。

古川 もうひとつ。「演劇」にしない理由は、俺は演劇にしたいって衝動を抱える時もすごくあるんだけど、予算がないから最初からバジェットは削るしかない。俺みたいにできる限りお客さんから金を取りたくないという作り方をする人間は、やっぱり一番お金がかかるところは、最初からオミットしておくしかないなと思っていて、でも2018年9月に世田谷美術館の依頼で上演した時には、最初から音響も、照明も、舞台監督も、全部用意されるということがわかっていたから、チャンスだなと思って一気に演劇方向にシフトさせた。ただメンバーの中には、なぜここまで演劇なのかと、かなり戸惑った人もいたんじゃないかな。逆に俺は演出家として、あの時とてもやりやすかったし、スタッフも面白がってくれていたけど、普段は「朗読劇『銀河鉄道の夜』」というプロジェクトでは、そこを除外しないといけないという意識はある。

ロケハンから編集までの壮絶なリアルタイム

河合 僕も今回、映像作品で発表すると古川さんが言われた時に、一番そこを気にしていて。僕はどこまで風呂敷を広げて良いのか、そもそも風呂敷を広げる必要はあるのかということを考えました。具体的な内容が見えていなかった中で、会場のロケハンに行った時に、だからこそ一気に方向性が見えた。

古川 確かに、ロケハンで現場(奥多摩の廃校)に着いたら、そこまで温めていた自分のイメージが全部ひっくり返ったよね。俺は実際に現場に行くまでは校庭での撮影をイメージしていたんだけど、まず体育館に入った瞬間に、体育館というのは我々にとって、東日本大震災以降、いわゆる学校の体育館ではなくて、避難所であり、テントのあるところであり、コロナの時代になってもそれは変わらないわけだ。だから校庭だけじゃなくて体育館も、さらに教室も廊下も使うアイデアが生まれた。そうなれば河合君は、それをずっと長回しで撮るだろうなという意識は自分にあったよ。

河合 (笑)

古川 それとロケハンの日、俺はiPhoneのヴォイスメモを使ってアイデアを口頭で全て録っていたこともあって、その声を聞いてた残りのメンバー4人(河合、川島、制作の女性二人)全員が、自分のアイデアに意見を出してきてくれたことも大きかった。

河合 しかもまったく無駄のないレスポンスのスピードで、意見交換ができた。

古川 それでロケハンの後、これまでの「銀河」の作り方とは方法を変えて、演者とスタッフ総勢十数人の全員にメールを共有しながらアイディアを投げていって、例えば柴田元幸さんには宮沢賢治の短歌の英訳を、小島ケイタニーラブ君には何パターンかの音楽を、管啓次郎さんには新しい詩を作って欲しいと依頼をした。すると即座にレスポンスが返ってきて、それを素材に、2月21日だったかな、1日で脚本を書き上げ皆に送った。今度はその台本を元に小道具とか衣装などの相談に入る。つまりそういうプロセスを関係者全員がライブで見ていたんだよ。

河合 ロケハンの日で劇的に変わりましたよね。

古川 この「コロナ時代の銀河」では、誰も見たことが無いものを平然と作る姿勢でいて、ただしプロセスのどの段階でも一切手は抜かない。だから現場は、とてもピリピリしていたし、その後のポストプロダクションも物凄く大変だったよね。具体的に振り返れば、ロケハンは、2月16日の1日しかやってないし、撮影は2月27日の1日しか無くて、その後、3月1日から3月10日までの間に、編集、整音と作品の方向性を全部決めるって十日間。それは河合くんと俺と音響の川島くんを中心にして壮絶な作業があって。

河合 はい。その格闘も完全にリアルタイムだったんで、撮影時と一緒ですね。ひとつの場として音響の川島さんに参加していただいて作り上げていったのですが、芝居を止めない、カメラを止めないようなある種のライヴ感覚が、ずっとありました。なぜなら編集とは、やろうと思えば、延々と続くわけです。でもその中でその日に見えたものがあるんですよ。その時にみんなが聴いた川島さんから出た音とか、僕がリアルタイムでその時間内で聴いてきた「あ、ここの音、こうした方が良いね」といった、閃きみたいなものを一番、重要視したってことは、僕はあります。

河合宏樹氏

古川 俺は、河合君と川島君とは自分が脚本を書いた段階の映像的な着地点は、少しズレていた。でも大事なのは、最終的には3人で編集したら、自分がやりたかった形ではなくとも、それより凄いところに行くべきだと思っていて、

河合 いや本当そうだと思いますよ。

古川 それが戦いだったよ。俺だって引きたくないもん。

河合 先輩方ともこうやって戦って、着地点をぎりぎりまで見つめるのがクリエイティブなものだなって。

古川 もうぶつかり合いながらも、絶対に3月11日午後2時46分にYouTube上で公開するって決まってる中で、お互いが持っているものを剥き出しにしてやるしかない。なおかつ、とことんやっていい、妥協しなくていいといったその矛盾の中で、注文仕事とは全く違うものを作る。なんかそれこそが可能性だと思ってやっていたよね。

河合 はい。僕としても、そんな古川さんのやり方が当たり前な世界だと思っていましたけど、意外と世間では理解されないということが、とてもあって。古川さんが、戦い続けていることが、ようやく地肌で感じるようになったからこそ、どんどん暴かなきゃいけないというのは強く思いますね。

(第3回に続く)


*編集・構成 森彰一郎
*写真 朝岡英輔

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コロナ時代の銀河

​『朗読劇「銀河鉄道の夜」』の新作無観客野外公演として、震災から10年の節目の年、世界規模の厄災最中の2021年3月にYouTubeに発表された映像作品「コロナ時代の銀河」。活動の中心である作家の古川日出男と本作の監督を務めた河合宏樹が、作品に込めた思いを語る。

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河合宏樹 映像監督

学生時代から自主映画を制作し、東日本大震災以降、ミュージシャンやパフォーマーらに焦点を当てた撮影や映像制作を続ける。2014年、朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を2年にわたり密着したドキュメンタリー作品『ほんとうのうた~朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って~』発表。2016年、七尾旅人が戦死自衛官に扮した初のライブ映像作品『兵士 A』、2017年、飴屋法水と山下澄人の初公演『コルバトントリ、』を監督。2020年、“ろう”の写真家、齋藤陽道の子育てを通じコミュニケーションのあり方にフォーカスした監督作品『うたのはじまり』が全国公開。gotch、七尾旅人、クラムボン、蓮沼執太、青葉市子、yakushima treasure(水曜日のカムパネラ+オオルタイチ)他のライブ映像を多数手がける。七里圭監督作品『あなたはわたしじゃない』に撮影参加。

古川日出男 作家

1966年生まれ。小説家。主な著書に『おおきな森』(講談社)、『女たち三百人の裏切りの書』(新潮社、野間文芸新人賞・読売文学賞)、『南無ロックンロール二十一部経』(河出書房新社、鮭児文学賞)、『LOVE』(新潮文庫、三島由紀夫賞)、『アラビアの夜の種族』(角川文庫、日本推理作家協会賞・日本SF大賞)、『馬たちよ、それでも光は無垢で』(新潮文庫)、『聖家族』(新潮文庫)、『ベルカ、吠えないのか?』(文春文庫)など。戯曲に『冬眠する熊に添い寝してごらん』(新潮社、上演版演出・蜷川幸雄)、現代語訳に『平家物語』(河出書房新社)。最新刊は初のノンフィクション『ゼロエフ』(講談社)。朗読劇では脚本と演出を担当している。

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