たったの(だいたい)31文字で、世界はこんなにも情けなく、こんなにもドラマチックに!「芸人歌人」による自由律短歌。
左手に見えますホストに座られているのが僕のスクーターです
知らない人に声をかけるのは苦手です。それがましてや、ホストの集団となると、そのあまりの眩しさに、すっかりお手上げで。
その夜、僕は仕事を終えて帰るために、自分のスクーターを置いた場所に向かっていました。嫌な予感はしていました。札幌が誇る歓楽街、すすきのの週末。人通りは多く、客引きのホストの方々も、やたら目についていました。スクーターの元に着くと、僕のスクーターには、1人のホストが座り、それを囲むように何人かのホストがいて、談笑をしていました。
その光景を見た時、僕は半分驚き、だけど半分は、ナルホドねと納得するような気分でした。僕だもんな。
起きてほしいことはほとんど起きなくて、起きてほしくないことはだいたい起こる、僕だもんな。
そうだよな。
そう思いながら、僕は自分のスクーターの前を、そこに自分のスクーターなんて止めてませんよ的な素振りで通りすぎました。
それから僕は、すすきのの歓楽街を、歩きました。時には、たこ焼き屋の前で止まり、買っていこうかどうしようかというフリをしたり、ゲームセンターの前で、さも待ち合わせをしているかのように、スマホをちらちらと見てみたり。僕は、まだ帰る気なんてないよ。まだまだ予定があるんだよ、という振る舞いを、1人続けていました。それは、誰かに見せるためではなく、ホストに声をかけることのできなかった自分をいなかったことにするための、自分を守るために必要な行動だったのです。
30分くらい経ったでしょうか。そろそろ状況は変わったのではないかと思い、僕はスクーターの元へと戻りました。状況は変わっていました。談笑は爆笑に変わり、周りを取り囲むホストの中に、何人かの女の子も加わっていました。
宴は、まだ終わりそうにありません。いいんだ、僕も、まだ帰る気はなかったんだから。
* * *
この連載の書籍化第2弾『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』発売中!
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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)
著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。
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