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ダチョウはアホだが役に立つ

2021.04.08 公開 ポスト

愛鳥の死と餃子の王将が人生の分岐点だった塚本康浩(京都府立大学学長、博士(獣医学))

新型コロナなど感染症予防に力を発揮する、いま注目の「ダチョウ抗体マスク」。

その開発者で京都府立大学学長、獣医学の博士でもある塚本康浩氏の新刊『ダチョウはアホだが役に立つ』が話題だ。

ここでは本書から一部を紹介する。世界から注目される研究者の人生を変えたのは、愛鳥の死と、餃子の王将だった!?

*   *   *

(イラスト:ミヤザキ)

ひたすら鳥に熱中した少年時代

最初に鳥に興味をいだいたのは、幼稚園のころやったと思います。たまたま近所でスズメの死骸を見つけたんです。内臓も出ていました。

「吸い寄せられる」という言葉がぴったりでしたね。なんでかスズメの死骸の前から動けんようになり、しゃがんでずーっと眺めていました。

こんなちっちゃい体で、なんであんなふうに空を飛べるんやろう。今見えてる内臓とか体の中にその秘密があるんやろうか。気になって仕方なかったんです。

小学校に入ると、鳥を飼い始めました。祖母がサクラブンチョウを買ってくれたし、セキセイインコ、ジュウシマツ、カナリヤなど、いわゆる小鳥をかたっぱしから飼いましたね。

ペットとして売っている鳥だけやなく、巣から落ちていたスズメやツバメのヒナをよく拾ってました。40年以上前だから許されたことで、今は一般の人が野鳥を飼うことは禁止されています

許可を得た獣医には野鳥飼育が認められている。ツバメとの交流は非常にまれなこと(提供:塚本康浩)

そんなこんなで、小学生の間に100羽くらいは鳥を飼ったんじゃないでしょうか

野生の鳥の場合、エサは何を食べさせたらええのか。小学生の頃は本で調べるという発想がなかったので、自分なりにずいぶんトライアル&エラーを繰り返しました。そうやって自分で探求するのが好きやったんやと思います。

文鳥やセキセイインコは、ヒナから育て上げることに興味がありました。ヒナが家にいてると、3時間おきにエサをやらなくてはあかんのです

母はパートに出ていて家にいないし、エサやりのために学校をいちいち抜け出すのも面倒くさいし、結局、学校なんか行っていられない。

学校に行きたくないから鳥を飼うてるのか、鳥を飼うてるから学校に行かれへんのか、自分でもようわからんようになってまう。でも両親とも鳥を飼うなとは言わなかったので、本当に助かりました。

そんな子どもやったんで、成績は悪かったですわ。相当やばい状態やったと思います。ただ、いつの間にか「鳥博士」とか「鳥といえば塚本」みたいな感じでまわりから認識されるようになっていました。

生き物を解剖した経験と愛鳥の死が原点

当時は縁日でヒヨコを売っていたので、それもよく買ってきました。

ヒヨコは団地のベランダで飼ってましたが、縁日のヒヨコはたいていオスなんです。4ヶ月もすれば大声で鳴き始めます。隣の家の人もよう我慢してくれたもんです。

昔はよく縁日でヒヨコが売られていた。(写真:iStock.com/AnaishaClicks)

立派な成鳥に育ったら、滋賀の祖母のところに連れていっていました。おばあちゃんがそのニワトリをどうしたかは、神のみぞ知るという感じです。

鳥が死ぬと、ベランダで解剖もしました。どうやって鳥が動いているのか、生き物が生きていくためにはどんな仕組みが必要なのか。その秘密を知りたかったんです。

虫やカエルの解剖もしました。ていねいに解剖すると、内臓がどうつながってるかとか、カエルの筋肉の様子などがしっかり頭に入ります。そうやって自分で手を動かしながら、生き物のことを理解していったんやと思います。

後々獣医の勉強をするようになり、子どもの頃の解剖のやり方がけっこう正しかったことに気づきました。

僕は学校に行けない子どもやったんで、時間だけはたっぷりあったわけです。だれにも教わらずに試行錯誤をしながら自分なりの方法論を見つけていったんですね。

ふり返ってみると、ひたすら鳥と戯れていたあの時間が今の僕の基礎を作った気がします。

でもつくづく、神様はイケズやと思います。どんなに大事に育てている鳥でも、死ぬときは死にます。それも、ほんまにかわいがっていた鳥、かしこい鳥ほど、先に殺しよるんです。

いちばんかわいがっていたのは、「クロ」と名づけたサクラブンチョウでした。

サクラブンチョウ(写真:iStock.com/Qju Creative)

よく慣れていたので、籠(かご)から出して肩に乗せたりして遊んでいたんですが、小学校6年生のある日、足元にいるのに気づかず僕は踏んづけてしまいました。

クロを抱いてペットショップに行くと、こう言われました。

「お医者さんに診てもらわな」

そのとき初めて、獣医という存在を知ったんです。クロが生きているうちに鳥を診てくれる獣医にたどり着くことはできませんでした。

自分のせいで、クロを死なせてしまった──。

あのときの気持ちは今でも引きずっています。踏んだときの感触もまだ覚えてる気がして、何かよくないこと、困ったことが起きると「あのときの天罰が下ったんや」という気持ちになってしまいます。

中学時代の夢は料理人だった

中学生になると、鳥の飼い方もだんだん高度になっていきました。本を読んで調べるという術も覚えたので、知識がぐんと増えました。

中学校には一応通っていましたが、僕は部活もやらず、相変わらず鳥を飼い、それ以外ではたまに釣りをしていました。

熱中したのが産卵させてヒナを育てるという飼い方です。産卵を促すためには、どんなエサを与えたらいいかの研究もするようになりました。

たとえば、小鳥のエサとして売られている粟(あわ)や稗(ひえ)に、卵黄を炒ったものを加える方法を発見しました。栄養分を高めるとよく発情するようになるといったことも、自分の手で確かめたりしました。

小学生時代はセキセイインコでしたが、オカメインコやボタンインコなどの中型インコも飼うようになりました。どんどん大きいもんがほしくなるんですね。そして将来、最大の鳥・ダチョウに行き着くわけですが……。

ボタンインコ(写真:iStock.com/BravissimoS)

中学を出たら料理人になるつもりでした。不登校時代、お昼ご飯はチャーハンなんかを自分で作ってたんです。けっこう才能があるんちゃうかと思っていました。

「中学出たら、料理人になろう思てんねん」

両親にそう言ったら、

「一応、高校くらいは卒業したほうがええんちゃうか?」

と、まぁ、当然の返事が返ってきました。

中学3年のときに滋賀県に引っ越したので転校しましたが、相変わらず鳥にしか興味のわかない毎日でした。

ところが親の希望どおり高校に行ったところ、なぜかあんまり勉強せんでも成績がよくなってきたんです。

理由は自分でもようわかりません。数学は公式を覚えたら何でもできる気がしたし、漢文や古文もオモロイといえばオモロイ。ついこの前までひらがなの「え」もよう書けんかったのに、急に勉強いうのはオモロイもんやと思い始めたんです。

ただ、脳の働きは相変わらず相当かたよってました。下駄箱の位置がどうしても覚えられへんのです。たぶん、空間把握がうまくいかないんですね。

下駄箱の位置がわかれへんのは幼稚園のときからでしたが、高校になってもまったく進歩がありませんでした。学校に来たときはなんとか見つけられても、どういうわけか帰るときは、いつまでたっても自分の下駄箱にたどり着かへんのです。

大人になってもまだダメです。この間も飲みに行った帰りに、自分の靴がわからんようになって、涙目になりました。

料理人の夢はどうなったかというと──家の近くに餃子の王将ができて、食べたらめっちゃおいしいんです。いやぁ、あれは衝撃でした。

食べた瞬間「自分が料理人になったとこで、こんなんにはかなうわけない」と悟りました。もう、完全敗北ですわ。

*   *   *

爆笑必至の科学エッセイ『ダチョウはアホだが役に立つ』好評発売中!

関連書籍

塚本康浩『ダチョウはアホだが役に立つ』

ダチョウはホンマにアホな鳥。でも地球を救ってくれるんです――。家族が入れ替わったことにも気づかないほど鈍感力が高いが、卵から取り出す抗体は感染症予防やがん治療、メタンガス削減に役立つとされ、世界中の企業が熱視線を送る。「ダチョウ博士」と呼ばれる著者が面白すぎる生態から抗体の最新研究までを説く、爆笑必至の科学エッセイ!

塚本康浩『ダチョウ力 愛する鳥を「救世主」に変えた博士の愉快な研究生活』

ダチョウの卵から作る抗体を染み込ませたマスクが注目されている。人類の命を救う素晴らしい研究のかげには、開発者・塚本康浩氏とダチョウとの笑いと涙の物語があった――。無類の鳥好きである塚本氏が世界最大の鳥・ダチョウ相手に格闘する研究風景を楽しく紹介。書き下ろし「電子書籍版あとがき」も収録。

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ダチョウはアホだが役に立つ

2021年3月17日発売『ダチョウはアホだが役に立つ』の最新情報をお知らせいたします。

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塚本康浩 京都府立大学学長、博士(獣医学)

1968年京都府生まれ。京都府立大学学長。獣医師、獣医学博士、ダチョウ愛好家。大阪府立大学農学部獣医学科卒業後、博士課程を修了し、同大学の助手に就任。家禽のウイルス感染症の研究に着手する。同大学の講師、准教授を経て、2008年4月に京都府立大学大学院生命環境科学研究科の教授となり、2020年より同大学学長に就任。1998年からプライベートでオーストリッチ神戸の牧場でダチョウの主治医となる。2008年6月にダチョウの卵から抽出した抗体から新型インフルエンザ予防用の画期的な“ダチョウマスク"を開発した。マスク以外にもダチョウ抗体をもとにガン予防、美容までさまざまな研究に取り組んでいる。「情熱大陸」「ガイアの夜明け」「激レアさんを連れてきた。」などTV出演多数。著書に最新刊『ダチョウはアホだが役に立つ』のほか『ダチョウ力』『ダチョウの卵で、人類を救います』がある。

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