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医者が教える 正しい病院のかかり方

2021.05.29 公開 ツイート

消毒しない、乾燥させない…傷をきれいに治す意外なコツ 山本健人

ネット上にあふれる、さまざまな医療情報。ついググってしまいがちですが、その中身は玉石混淆なのが実情です。そこでオススメしたいのが、現役医師の「けいゆう先生」こと、山本健人さんが上梓した『医者が教える正しい病院のかかり方』。ちょっとした風邪から、がん、薬の飲み方まで、お医者さんに聞きたくても聞けなかった情報が詰まっています。中身を一部、抜粋してご紹介しましょう。

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転んで膝を擦りむいたり、手に小さな切り傷ができたりしたとき、どのように対処すべきでしょうか? 普段よく経験するような軽い傷であれば、以下のような対応が適切です。

(写真:iStock.com/kazuma seki)

(1) 消毒しない

以前は、転んで擦りむいたらマキロンやイソジン(ヨード液)といった消毒液を塗るのが常識でした。病院でも、手術後に毎日医師が回診し、傷に消毒液を塗りたくっていた時代がありました。この常識は10年以上前に覆され、現在は、病院でも傷の消毒を行うことはあまりありません

患者さんから時に驚かれますが、一部の例外を除き、手術を受けたほぼすべての患者さんが、手術後一度も傷を消毒されることなく退院します。理由は簡単で、消毒液が正常な組織を傷め、かえって傷の治りを悪くする危険性があるからです(ただし、手術する前や切り傷を縫う前は消毒が必要です)。

「消毒しないと化膿してしまうのでは?」と思った方がいるかもしれません。たしかに、傷に細菌が入り、そこで増殖すると化膿する、つまり傷の感染が起こります。

しかし、そもそも皮膚の表面や周囲の環境には、常にたくさんの細菌がいます。消毒液の作用で傷の部分の細菌が一時的に死んだとしても、その周りにいる細菌はしばらくすると傷に付着してしまうでしょう。また、消毒後に絆創膏やガーゼを貼ったら、そこについていた細菌も傷に付着します。

傷についた細菌を常にゼロにしようと思うと、全身の皮膚や、服、持ち物、家具など、周辺の環境にあるすべてのものに付着した細菌を根絶やしにしなければならなくなります。肉眼では見えない微生物を相手に、そんな芸当は到底できません。

では、細菌が付着していると傷が化膿するのか、というとそんなことはありません。細菌が「そこにいる」だけでは、「感染」とは呼ばないからです。

傷に感染が起こる(化膿する)のは、

・ケガをした後に異物(砂や泥、ガラスなど)が残ったままになっていた場合

・不潔な状態が続いていた場合

・糖尿病やがんの治療中などで免疫機能が低下した場合

といった、「細菌が繁殖しやすい条件が整ったときだけ」です。

(写真:iStock.com/nikkytok)

(2) なるべく乾燥させない

以前は、「傷は乾燥させた方が治りやすい」と信じられていました。傷が「ジュクジュクする」のは良くない、ということで、ガーゼを貼って乾燥させていたのです。滲出液が固まってガーゼに付着し、はがすたび痛い思いをする、というのを誰もが我慢していました。

しかし近年(もう10年以上前ですが)、「傷は湿った環境の方が治りやすい」ということが分かりました。最近では、傷に軟膏やワセリンを塗ったり、創傷被覆材を貼ったりすることで、傷を湿った環境にしておくことが推奨されています。

創傷被覆材とは、傷を密閉させ、傷から出る滲出液を吸収してゲル化し、湿った環境を維持できる製品のことです。キズパワーパッドという市販の商品がこれに含まれます(バンドエイドなど、従来の絆創膏はこれには含まれません)。

普通の絆創膏を貼るとしても、軟膏をつけて湿った環境にしておくのが大切です。病院では、ゲンタシン軟膏やアズノール軟膏などを使用するのが一般的ですが、湿潤環境にすることが目的なので、ワセリンだけでも問題ありません。

(「軟膏」とは「油脂性であるワセリンに薬剤を溶かしたもの」を指します。一方「クリーム」は乳剤性なので、創部に塗っては逆効果です。保湿用などのクリームと間違えないよう注意してください)

ちなみに、ワセリンをつけて調理用ラップで覆い、湿った環境を保つ「ラップ療法」という方法がありますが、調理用ラップは通気性が悪く、水蒸気が通りません。傷の表面の温度が上がり、細菌の繁殖を促すリスクもあるため、あまりおすすめはできません。

創傷被覆材であっても、密閉したまま長時間そのままにしていると、感染のリスクがあります。使用する際は、定期的に傷の様子を観察しつつ交換するなど、十分に注意が必要です。

(3) 抗菌薬(抗生物質)は必要ない

以前は、傷の治療後は抗菌薬(抗生物質)を処方するのが一般的でした。最近は、軽いすり傷や切り傷であれば抗菌薬は処方しません。効果がないためです。

前述の通り、細菌は傷の表面にたくさん付着していますが、増殖して感染を起こしていない限り、害はありません。単に付着しているだけの細菌を殺す意味はないのです。もちろん、すでに感染(化膿)を起こしているケースで抗菌薬が必要になることはありますが、感染を起こしているわけでもないのに抗菌薬を使用するのは適切ではありません。

では、感染を予防するにはどうすればいいのでしょうか?

最も大切なのは、「十分な量の水でしっかり洗浄すること」です。洗浄に使うのは一般家庭の水道水でまったく問題なく、生理食塩水や滅菌水などの特殊な水を使う必要はありません。病院でも、まずは十分な量の水道水でしっかり洗浄しています。泥などで傷が汚れているときは、石鹼を使用してもかまいません。

また、傷の中に砂や土、ガラスなどが入っているときは、これを取り除かなければなりません。感染のリスクがあるうえ、小さな砂でも残ったままにすると入れ墨のように傷跡が黒く残る可能性があります。

流水やタオルだけで取り除くことができなければ、歯ブラシを使ってもよいでしょう。清潔な歯ブラシで優しくこすり、異物が残るのを防ぎましょう。また、異物が取れない場合は、無理せず病院を受診してください。

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この続きは幻冬舎新書『医者が教える正しい病院のかかり方』をお買い求めください。

関連書籍

山本健人『医者が教える 正しい病院のかかり方』

世の中には様々な医療情報があふれているが、その中身は玉石混淆。命の危機につながる間違った情報も少なくない。そして病院に行ったら行ったで、何時間も待って診療は数分、医者に聞きたいことがあっても聞けない、説明されても意味が分からない等々、患者側の悩みは尽きない。私たちはどうしたらベストな治療を受け、命を守ることができるのか? 正しい医療情報をわかりやすく発信することで、多くの人から信頼される現役医師が、風邪からガンまで、知っておくと得する60の基本知識を解説した、医者と病院のトリセツ。

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医者が教える 正しい病院のかかり方

風邪からガンまで。命を守る60の選択を、外科医けいゆう先生が解説。

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山本健人

医師、医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営。Yahoo! ニュース、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。著書に『医者が教える 正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います』(共に幻冬舎新書)、『患者の心得 高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと』(時事通信社)ほか。

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