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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2020.11.15 更新 ツイート

第143回 鈴木さん いとうあさこ

以前、“映画撮影中”のコラムを書いたのを覚えている、と言う方はいらっしゃいますでしょうか? 二年くらい前、“独身のおばさん”役で「ノーメイクでいこう!」となっていたのに、直前になってまさかの鼻の下の溝のど真ん中にデキモノが。しかもメイクさん、モニターで見ていたら私の薄毛も気になったようで。結局、デキモノをコンシーラーで隠し、髪の生え際に焦げ茶のパウダーをパタパタ。メイクさんにお手数かけまくった話を書かせていただきました。

 

その時の映画がついについに上演されました。パチパチパチパチ。正直撮影から二年が経ち、もしかしたらもう世に出る事はないのかも、なんて思っておりましたら突然マネージャーから「11月2日に舞台挨拶あります」との連絡。「え? 舞台挨拶? どこで? ……え? 映画祭?」そうです。ま、ま、まさかの東京国際映画祭2020で上映される事が決まったのです。映画のタイトルは「鈴木さん」。内容はパンフレットの作品解説をまとめると「現人神“カミサマ”を国家元首に戴く某国某市。少子化対策の為、45歳以上の未婚者は市民権を失う条例が制定。45歳目前の未婚の中年女性ヨシコの元に身元不明の中年男性“鈴木”が迷い込む。ヨシコは“鈴木”と名乗るその男と結婚しようとする。一方、政府が逃亡した“カミサマ”を秘密裏に捜索していた。」。

私はこの“ヨシコ”をさせていただきました。ジャンルは“SF”になっていましたが、私はむしろリアリティがあるなぁ、と。もちろん現実社会ではありえない設定ですが、状況・感覚の面から見たら今の世の中のそれを少し大げさにしただけ。そんな感じを受けました。だから最初に台本を頂戴した時、わからない部分もありましたが、全体的に「そうそう」とうなずける部分も多かったのです。

そんな映画の監督をなさったのが佐々木想監督。初めて監督とお会いしたのは撮影の数ヶ月前、めちゃくちゃ暑い夏の午後。近所のカフェで待ち合わせ。ただその日、前の仕事が押してしまい、監督をお待たせしてしまうという大失態。すると監督、私とマネージャーが到着した時、まさかのカフェの外でずぶ濡れで立っていらして。あ、汗でずぶ濡れ、です。マネージャーはもちろん「中で先に何かお飲みになっていてください」と連絡はしていたんです。なのに監督ったら、外でずっと待っていらして。真面目な方だなぁ、が第一印象。

お店に入った後もほとんど目を合わさず、ボソボソと小さな声でいろんなお話をしてくださいました。当然映画の話もしましたが、監督の若い頃の失恋話などパーソナルなお話がめっちゃくちゃ面白く。あっと言う間に佐々木想と言う人間を好きに、いや、もうド“ハマり”。なんか謎の吸引力のある方です。

撮影現場は千葉の山奥。“廃ラブホテルを改装して作ったグループホーム”という設定の現場で、6~8畳くらいのシャワー付きワンルームの一軒家が何軒も立ち並んでいる場所。これがかなりの山奥で、コンビニや食事処など周りに何もない。私たちは本当にそこで寝泊まりをし、撮影をしました。一応携帯の電波は入りましたが、テレビは何故かBSの1チャンネルのみ。夜中にはゆっくり気球が浮かぶ映像と、周りに文字でニュースが出る、そんな画面だけが延々と。でもその世離れした空気感がこの映画の“某国某市”の感じにドンピシャ。そこにある日、一匹の猫がフラッと来るようになって。みんなで名前を付けて、休憩中に遊んだり、日なたで一緒にぼんやりしたり。

実際、役でもそこで暮らしている設定だったので、もう滲み出るリアリティ、なかなかだったんじゃないかしら。しかも撮影もホントにアットホームで。エキストラが足りなければスタッフさんも着替えて登場。当時の私のマネージャーも1シーン出演で、しかも「ちょっと!」なんて台詞までいただいて。夜遅くまでの撮影も多く、そういう時はおっきい寸胴に暖かい豚汁やおでんをたくさん作ってくださって。どれだけ寒さも気持ちも救われたことか。ただこんな濃い生活を山奥でしていると何日かに一度東京の自宅に戻る際、普通の町並みなのに「わあ! 近未来じゃん!」ってなるくらい、なんだかどっぷりな現場でした。

あれから二年。そんなわけでようやく観ていただける日が。東京国際映画祭2020では二日間、二回だけの上映。舞台挨拶当日は監督と私の他に、佃典彦さん、大方斐紗子さん、保永奈緒ちゃん、宍戸開さんの6人で登壇。佃さんはこの日の連絡を監督から直接連絡もらったらしいのですが、ほら。監督がさっき書いた感じの方ですから。東京国際映画祭だって伝えていなかったらしく、会場に着いてうちらと会って少し喋っている時に「え? 今日、映画祭なの?」と知るという。「知ってたらネクタイくらい締めてきたのに。」革ジャンでとても素敵だったのでまったくもって大丈夫でしたが、名古屋から出てきたままの格好で舞台挨拶へ。そんなエピソードもニヤニヤしちゃう座組でございます。

さすが“国際”映画祭だけあって舞台挨拶にも通訳さんが入っているし、映画も全て字幕付き。タイトルにも「Mr.Suzuki-A Man In God’sCountry」という英題がついていた。そして初めて大きなスクリーンで観る自分の映画。ノーメイクゆえの目の下のクマの濃さや、「皆さんがどう観るだろう?」という緊張でかなりドキドキしましたが、佐々木想の世界感満載の、厳かで美しくゆっくり奥に染みてくる。そんな映画でした。

更に上映が終わった後の監督のQ&Aもかなり面白く。「考案から映画の完成までで一番大変だったなぁと思うところはどこですか?」の質問に「えっと……私がなかなか……お金を集められないところ、ですかねぇ。」長めの質問をいただいた時には必然通訳が長めになっちゃって。そうしたらその間にわからなくなっちゃったみたいで「えっと……質問、何でしたっけ?」とにかく笑いをかっさらい、映画の後味、余韻を全て消す勢い。でもそんな魅力満載の監督が撮った映画「鈴木さん」。いつかちゃんと公開される日が来るといいな。あ、その時は私の“デキモノ&薄毛”は忘れてご覧下さい。

 

【本日の乾杯】

たまにやる“冷蔵庫キレイキレイ”運動。余っていたチンゲン菜・しめじ・ベーコンを炒めて、真ん中に賞味期限ギリギリの卵を2つ。スパイシーなウスターソースかければもう立派なおつまみ。冷たいビール、だな。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。

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