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フィンランドで暮らしてみた

2020.09.11 更新 ツイート

フィンランドで理想の家を探そう(ある女の予言篇)芹澤桂

(そろそろ紅葉が始まります)

話は少し遡って、今住んでいるテラスハウスを買ったときのこと。

引っ越したい、引っ越そうと夫婦で話しながらも半年ぐらいはいろんな物件を見て回っていた。

いろんな地域、いろんなタイプの物件。今思い返すと節操なしというか、もっと狭くターゲットを絞っても良かったような気もするけれど、自分たちの本当の希望がなんなのかを見い出すにはいい作業だった。

 

不動産の手数料がかからない方法

物件の探し方は日本と同じくネットがメインだ。

不動産検索サイトで条件を入れ、検索して、写真や説明を読む。少し日本と違うのは多くの物件のページに「この日のこの時間から内覧やってます」というお知らせが併記されている点だ。

つまりネットで気になったら不動産屋にではなく、その家の内覧会に直行できるのだ。

もちろん内覧日を設けていない物件や、指定の日時に行けない場合もあるので、そういうときには不動産屋の担当者に電話をかけて「この家興味あるんですけど」と内覧日を設定してもらうこともできる。

また、個人で家を売りに、または貸しに出している人もたまにいる。自分でそれなりに素敵に見える写真を撮って詳細を記し内覧に立ち会い買い手と直接値段交渉をする、というのは骨が折れそうではあるけれど、不動産屋の手数料がかからないというメリットはある。

「サウナ付き」は「追い炊き機能付き」と同じレベル

私たちが当時探していた条件は50平米以上、できればマンションではなく上下階のない平屋アパート、もしくは一戸建て。駅近。テラスかガラス張りのバルコニー付き。子育てをするのに平和なエリア。

私は特に気にしていなかったけれどもちろんフィンランドなので、サウナ付き、という条件もある。一戸建てなら大抵付いているものだけど、マンションやアパートに付いていると日本で言う浴室乾燥機付き、とか追い焚き機能付きと同じぐらいのステータスがある。

内覧会に行くたびにハードルが下がる

めぼしい物件を見つけたら内覧会に行く。

まだ人が住んでいるうちに内覧となるケースが多いため家財道具がある状態で中が見られるのは、内覧会のいいところだと思う。写真では広めに見えたダイニングスペースに実際は4人用のテーブルしか収まらなかったり、玄関を入って変な所に靴が置いてあって、ああ靴を置く充分なスペースがないのね、と気づかされたり。

内覧会はそうやって、肩透かしにあうことの方が圧倒的に多い。

サイトで見て良さそう、実際に見て良かったらもう買っちゃおうと話していても、絶対に何かあらが見つかる。

例えば駅近の広いアパートは、バルコニーから見える景色がパブだったり。

郊外の大きめの家は暖炉もあって素敵な内装だけれど、壁紙が圧倒的にタバコ臭かったり。

気に入ったから買いますと言ったら、突然売り手が「やっぱり誰にも売らない」と言い出したり。

そういうことを繰り返しているうちに、だんだん内覧会へと出かけるハードルが低くなる。少しでも気になったら見せてもらう、住む可能性をシミュレーションしてみる、それでダメだったらダメ。また次のを探せばいい。

ホームレスは避けなければならない

そんなことを何回か経て自分たちの希望もはっきりとしてきた頃、住んでいるマンションが売れてしまった。

私たちは本気で引っ越そうと思っていたので、次の場所を探すと同時に、住まいを売りに出していたのだ。

そして買い手は次の月の末には入居したいとのことなので、承諾した。

つまりその時までに新しい家が見つからなければ、ビバ・ホームレス!

というのは大げさだけれど、どうにか短期で貸してくれる賃貸を見つけて移って、狭くなるだろうから家具をレンタル倉庫に入れて、その間に買う家も探して、と手間が何重にもかかることこの上ない。

いよいよ本腰を入れて新居を見つけなければ、と焦りそうになったところに一軒、新しく売りに出されているテラスハウスの情報が入ってきた。

そこは、今まで候補に入れていなかったエリアである。

なんでかといえば評判の良くないエリアに隣り合わせているからだ。

しかし少し南に行けば一軒家が立ち並ぶ極めて平和で静かなエリアでもある。じゃあ肝心のそのテラスハウスはどうなのか。内覧に行くことにした。

オークションみたいに

最寄駅から10分、平坦で静かな住宅街を抜けていく。そのほとんどの家は一軒家で広い庭、ゆったりとした敷地を持った古い家か、新しく建て直された家かのどちらかだった。

テラスハウスへと続く道を曲がると、背の高い白樺並木が続いていた。季節は9月の終わり頃、黄色く染まった葉っぱがはらりと落ち始めており、その上を歩くとかさかさ、と乾いた音が耳をくすぐった。そのぐらい静かだった。

結論から言えば私たちは内覧でその家を気に入ってしまった。10組ほどの見学者がいて、ほとんどは思っていたより狭いとかで出て行き、私たち夫婦と、もうひと組の夫婦が買いたいと申し出た。

ここからがオークションのようで面白いのだけれど、その場でひと組みずつ順番に担当の不動産屋と話をして「いくらで買います」と宣言をする。

もちろん売り手のいくらで売ります、という金額は広告に出ているのだけれど、それよりちょっと値切るのが一般的なようだ。

「私には見えるわ」

私たちは庭に出て、その競合夫婦が先に「入札」するのを待っていた。庭の塀の蔦が赤く色付いていて、それでも芝生はまだ青く、空気は冷たく澄んでいた。テラスにはベンチ型のブランコがあり、そこに腰掛けてどうあってもしっくりくるこの家がいいなぁと夫婦で話した。

私たちの「入札」の番になったとき金額と入居希望日を伝えた。他にもどうやって払うか、現在は持ち家か、など経済状況の確認ももちろんされる。うちの場合はすでに持ち家が売れているので経済的に心配することはなかった。

担当の不動産屋の女性は、通常ならその2組からの入札額を持ち帰って売り手に報告し、最終的に誰に売るかを売り手が決めるところなのに、「私にはその子がこの家を歩き回っているのが見えるわ」とまだ生後数ヶ月足らずで私の腕に抱かれている第一子を指し、微笑んだ。

つまり私たちの入札額の方が良かったのだ。

帰り道、まだ家にも到着しないうちにまたその担当者から電話がかかってきて、私たちがその家を買えることになった、と報告してくれた。

その夜はお気に入りのイタリアンレストランでピザをテイクアウトし、夫の好きなワインを開けてお祝いした。

(このくらい広い裏庭と湖畔が理想的)
(家探し中に見つけた立派なお屋敷)
(お城みたいな家も発見! 住めないけど)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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