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富士山大噴火と阿蘇山大爆発

2020.08.19 公開 ツイート

富士山噴火よりも恐ろしい山体崩壊。泥流が湘南を襲う!? 巽好幸

1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。

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10メートルの津波を起こすことも

火山が噴火すると、多くの場合マグマが地表へ噴出する。従って噴出するマグマの量が多いほど大規模な噴火となり、その結果災害も大きくなる。

その一方で、全くマグマの噴出がないにもかかわらず、噴火に先立って大規模な火山災害を起こす現象がある。「山体崩壊」と、それによって発生する「岩屑なだれ」だ。

(写真はイメージです:iStock.com/vicnt)

1980年の米国西海岸のセント・ヘレンズ山が崩れ去る様子は、ネット上の動画で見ることができる。また日本列島でも、1888年の磐梯山、1792年の雲仙眉山の崩壊などが比較的最近の大規模な山体崩壊の例である。

磐梯山崩壊では岩屑なだれによって北麓の村々が埋没し、500人近い死者が出た。また後者では岩屑なだれが有明海に突入し、高さ10メートル以上の津波が発生した。これらによって約1万5000人の犠牲者を出したと伝えられている。「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる有史以来日本最大の火山災害である。

このような山体崩壊は、もともとの不安定な地形に加えて火山活動や熱水活動で緩んだ山体が、水蒸気爆発や地震によって一気に崩れるものである。

富士山でもこのような山体崩壊が幾度となく起こってきた。山体周辺の地層の中に岩屑なだれの証拠が残っているのだ。例えば約2900年前の御殿場岩屑なだれや、約8000年前の馬伏川岩屑なだれなどである。もっと古い時代にも山体崩壊は起こっていたようだが、発生時期がよく判っていない。

静岡大学の小山真人氏は、少なくとも1万年間に2回(御殿場および馬伏川岩屑なだれ)は起こっているので、富士山ではおよそ5000年に1回の割合で山体崩壊が起こると考えて備えるべきだと主張している。この推定は、富士山では過去2万3000年間に少なくとも4回の山体崩壊があったとする他の研究者の調査結果とも、ほぼ一致している。

一方で、山体崩壊は宝永噴火や貞観噴火のような溶岩流や火山灰の噴出を伴う噴火に比べると明らかに頻度は低い。そのためにこの火山現象は、富士山ハザードマップを作成する際に想定外となってしまった。

巨大地震で富士山が「崩壊」?

しかし、想定内の富士山噴火と比べると、山体崩壊の方が、遥かに多数の被災者を出す可能性が高い。すなわち、低頻度ではあるが高リスクの災害なのだ。これが小山氏の強調していた点である。

(写真:iStock.com/Torsakarin)

一般に(特に行政は)災害の頻度にばかり注目する。しかしそれでは、真の意味で防災・減災対策を講じることはできない。たとえ低頻度であっても、圧倒的に規模の大きな災害が予想される場合には、当然対策をとらねばならない。

ここで注意していただきたいのは、2900年前の山体崩壊は噴火が引き金ではなかったことだ。火山災害というと、噴火に伴う災害を考えてしまうのが普通だが、そうではない巨大火山災害も存在するのだ。

富士山のような成層火山の山体内部は、地層面に沿って変質が著しく進んでいる部分がある。そんな状況で地震が起きたために、変質部分に重なる山体が崩れて岩屑なだれとなり、さらに二次的に泥流が発生し現在の小田原や沼津まで達した

実際、地下構造探査によって、富士山の直下には深さ十数キロメートルにまで達する大活断層が走っていること、この活断層はM7クラスの地震を引き起こす可能性が高いことが明らかになっている。さらに富士山近傍には、南海トラフの延長と思われる断層がいくつも走っている。当然、これらの断層も地震を引き起こす可能性が高い。

つまり、富士山の山体崩壊に関してはいくら噴火に備えて観測を行っても、予測できないかもしれないのだ。もちろん地震を予知することは、現時点では不可能である。

 

山体崩壊によって発生する岩屑なだれと泥流の恐ろしさは、その規模の大きさである。そして、東斜面、北東斜面、西斜面が崩壊した場合の岩屑なだれと泥流の到達範囲には、それぞれ38万人、40万人、15万人もの人々が暮らしている。

たとえ富士山が崩れたとしても、湘南海岸を泥流が襲うなんて、多くの人は想像すらできないだろう。しかしその可能性は十分にあるのだ。

その一方で、この低頻度高リスク災害についての減災対策はある程度可能である。泥流の拡大を抑えることと、人々の避難計画をきっちり立てることが最優先であろう。

関連書籍

巽好幸『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』

3.11以降、日本の地盤が“激震”し続けている。2014年の御嶽山噴火、そして記憶に新しい熊本地震。300年以上も沈黙を続ける「活火山」富士山はいつ噴火するのか。そして、実は富士山よりも恐ろしいのが「巨大カルデラ噴火」だ。かつて南九州の縄文人を絶滅させたこの巨大噴火が阿蘇で再び起これば、数百度の火砕流が海を越えて瀬戸内海を埋め尽くし、大量の火山灰で日本中が覆われる。マグマ学の第一人者が、緻密なデータをもとに地震と噴火のメカニズムを徹底解説した、日本人必読の一冊。

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富士山大噴火と阿蘇山大爆発

1707年に起きた「宝永大噴火」以降、沈黙を続けている富士山。専門家の間では、「いつ噴火してもおかしくない」と言われています。もし本当に噴火したら、首都圏はいったいどうなってしまうのか……。いざというときに備えるためにも読んでおきたいのが、「マグマ学」の権威、巽好幸さんの『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』です。緻密なデータを駆使し、噴火と地震のメカニズムを徹底解説した本書から、一部をご紹介します。

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巽好幸 理学博士

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス発展研究プログラムディレクター。78年、京都大学理学部卒業。83年、東京大学大学院理学系研究科(地質学)博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授を経て、現職。2011年5月に幻冬舎より刊行された『パワーストーン 石が伝える地球の真実』を監修。

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