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『言ってはいけない宇宙論』を人気SF作家はどう読んだ?

2018.04.29 更新 ツイート

対談3

重力波観測装置にはぜひ星間戦争を見つけてほしい小谷太郎/藤井太洋

 現代物理学の未解決問題を楽しく紹介した最新刊『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』(幻冬舎新書)が話題を呼んでいる小谷太郎さん。今回は、X線天文学者で元NASA研究員でもある小谷太郎さんと、日本SF大賞を受賞した『オービタル・クラウド』や、『公正的戦闘規範』(ともにハヤカワJA文庫)などの著作で知られる人気SF作家・藤井太洋さんの対談の様子をお届けする第3回です。

 科学とは仮説を立て、その正しさを証明していく世界だと考えがちですが、実は科学者は「予想が間違っているほうがおもしろい」のだという小谷さん。いったいどういうことなのでしょうか?(構成:荒舩良孝)

小谷太郎さん(左)と藤井太洋さん(右)。

予想がはずれた時ほど物理学者は燃える

藤井  最近の科学研究の中では、LHCでのヒッグス粒子の発見がとても印象に残っています。

小谷 ヒッグス粒子は「理論的にこういう粒子がないとおかしい」という研究者の発想から出発したものです。予想通りの粒子が見つかるというのは、本当に快挙ですよね。

藤井 あれは本当にすごいと思いました。

小谷 ただ、実験物理学者としては、予想が間違っていた方がおもしろいなと思うんですよ。例えば、カミオカンデの実験は最初、陽子が崩壊するという予想のもとに観測装置をつくりました。しかし、より大きな装置のスーパーカミオカンデでも陽子崩壊は観測されていません。最初の理論は間違いだという結論になっています。
 ところがちょうど大マゼラン星雲で超新星爆発が観測され、カミオカンデはそこでつくられたニュートリノを検出できたわけです。手に汗握るとてもおもしろいイベントでした。その後は方針を転換してニュートリノの観測に舵を切っていきました

藤井 あれは本当にすばらしい結果だったと思います。こういう発見には刺激を受けます。特にヒッグス粒子の発見には、とても刺激を受けました。ヒッグス粒子がめでたく見つかったことで、私は、超ひも理論をすべて捨ててもいいのではないかと思うようになりました。

小谷 量子重力の先端の研究というのは、実験でまったく検証のできない部分を扱っているので、あと500年くらいは実験で、イエスともノーともいえないのではないかという不安があります。

藤井 だから、今の標準模型を理解することに努めた方が、実がありそうだなと考えています。

小谷 そういう気持ちも理解できますが、私は、2015年に重力波が検出されたことで、そのあたりの判断をもう少し慎重にしないといけないかなと思うようになりました。重力波の検出で、長い間、論争の的になっていたブラックホールの存在が決定的になりました。しかも、初の重力波信号は2つのブラックホールの衝突によるものでした。
 重力波の検出によって、強い重力環境下での一般相対性理論の観測的な研究ができるようになったのです。重力波観測装置がより本格的に観測を開始すれば、一般相対性理論では説明できない現象が観測され、私たちは新しい物理学理論を発明しなければいけなくなるかもしれません。私としては、そのような状況になることを期待しています。

重力波観測装置で星間戦争の痕跡が見てみたい

藤井 重力波の検出は確かに大ニュースでしたね。それこそ宇宙の構造に対する考察なんかが、始まるかもしれませんね。重力波から直接見つかって欲しいと思うのは、別の宇宙ですね。私たちの宇宙が別の宇宙と重なっていることが見つかるということを、ちょっと期待していますね。

小谷 それは、多世界解釈的な別の宇宙ですか。それともマルチバースのような多元宇宙でしょうか。

藤井 ビッグバン的に発生したマルチバースですね。そのような宇宙と私たちの宇宙が共存していたり、侵食しているところが見えてくるといいですよね。重力波で、解釈がすごく難しい宇宙の構造が見えてきて、その構造が別の宇宙との干渉によるものという仮説を唱える人が出てきて欲しいなと思っています。

小谷 解釈の難しい宇宙論的な現象は、現在も存在します。ダークマターやダークエネルギーです。宇宙論の研究者はこれらをどのように解釈したらいいか困っている状況です。
そもそも、私たちはこの宇宙が平らなのかどうかすら知りません。今のところ、私たちが観測できる450億光年くらいの範囲までは平らだということがわかっていますが、その先はまったくわかっていません。
 インフレーションが起きたと仮定すると、宇宙が平らであることは説明できます。しかし、インフレーションが起きると、子宇宙、孫宇宙がたくさんできて、マルチバースとなりますので、物理学者には、そこまで断言する勇気のある人があまりいません。

藤井 でも、そういうのがあると断言できると、私はワクワクしてきますね。重力波観測装置からは、もっと訳がわからない観測結果が出てきて欲しいですね。

小谷 それは絶対に出てきますよ。これまで重力波観測装置はまだ数か月しか連続運転をしていません。何年分も観測データがたまれば、奇妙な観測結果が報告されるはずです。

藤井 すごくSF的な発想としては、星間戦争とかの痕跡のようなものが見えたりするといいなと、思ったりします。

小谷 いいですね!

藤井 星が次々に超新星爆発を起こすと、重力源がすごく短時間のうちに変化するので、ブラックホールの合体とは違う重力波信号が発生する可能性があるなという気がしました。

小谷 私が『言ってはいけない宇宙論』で紹介した科学者は、クセが強く、人格的にひどいなと思う人もたくさんいます。どんな人でも言っていることが正しければ認められるところが科学の公平なところです。1人1人の科学者が研究に取り組む動機は非常に個人的なものが多いです。でも、全体として見ると、科学は人類の福祉を向上させています。1人1人の人間がベストを尽くすと、世の中がよい方向に向かっていくのではないかと思います。そういう雰囲気が藤井さんの小説からも伝わってきます。

藤井 私はハッピーエンドにしようと思って小説を書いている訳ではありませんが、結果的にそうなっていますね。私が書けるヒーローは、世界を信用している人なので。世界は悪いわけではないので、世の中の人には、希望を持って生きていって欲しいという想いは常にありますね。

 

元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!

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『言ってはいけない宇宙論』を人気SF作家はどう読んだ?

『言ってはいけない宇宙論』を上梓したX線天文学者の小谷太郎さんと、人気SF作家・藤井太洋さんの対談の様子をお届けします。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。最新刊『宇宙はどこまでわかっているのか』ほか、『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

藤井太洋

1971年奄美大島生まれ。2012年、ソフトウェア会社に勤務するかたわら執筆した『Gene Mapper』を電子書籍で個人出版。Amazon.co.jpの「2012年Kindle本・年間ランキング小説・文芸部門」で1位を獲得した同作は、大幅な加筆修正を施した増補完全版『Gene Mapper‐full build‐』(ハヤカワ文庫JA)として2013年に商業出版された。2013年4月に、9年勤務したソフトハウスを退職。2014年刊行の『オービタル・クラウド』(ハヤカワ文庫JA)で「ベストSF2014〈国内篇〉」第1位、第35回日本SF大賞受賞、第46回星雲賞(日本部門)受賞。第18代日本SF作家クラブ会長。

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