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【小説】ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ

2018.04.20 公開 ツイート

<無料公開>初めてチームを持つあなたへ

#19 いい組織やないと、楽しく働けへんねん 播摩早苗

数多くの大手有名企業でマネジャー研修を担当するコーチングのプロ・播摩早苗氏。そんな播摩氏が描く話題のビジネス小説『宿屋再生にゃんこ』では、部下の心に眠る仕事への情熱を引き出す方法が楽しくわかります。ここでは春からの新リーダーに向けて1章・2章を特別無料公開! 毎日連載でお送りします。 

◆STORY◆倒産寸前の地方旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、寮の居候猫が永理子に向かって語り始めて……。

◆19◆

「そなら訊きますけど、永理子さん一人がない知恵絞って、しょうもないやり方従業員に押しつけて、それでも従業員が思うように動いて、経費がどんどん下がって、お客がじゃんじゃん来るなんていうことが、実現する思ってはるん?」

 ジェニファーは、ベッドで居住まいを正した。私も背筋を伸ばして向き合った。

「永理子さん、あんた自身が人として、もっときちんとせなあかん。人のことを信じられへん人は、いい組織をつくられへんねん。いい組織やないと、楽しく働けへんねん」

「どうして?」

 ジェニファーの論理は飛躍していて私のなかでつながらなかった。

「部下を信じられへん人は、つい細々と小言言うねん。すると、監督されへんと怠けるモンが育つんや。そうゆうもんやろ」

「信じたら怠けないの?」

「そや。信じて待てば、自分で何とかしようと知恵絞る。それでいろいろ試す。楽しくて、怠けてる暇なんてあらへん」

 そのとき、ドアをノックする音がして、ちょっといいですか? と顔を見せたのは石橋だった。

「今日はありがとうございました。恩に着ます」

 私は、部屋に招きながら、礼を言った。

「オカミ、ここにいたのか」

(あたしは、ジェニファーやて)

 ムッとしたジェニファーの声は、どうやら石橋にはニャーとしか聞こえていないようだった。石橋は、ジェニファーの耳のあたりを撫でた。

「甲斐さん、あのあとうちの料理長と松田さんが会いました」

 松田はすぐに蛍雪園の料理長を訪ねたのだ。

「どうでしたか?」

「二人とも、熱くなってました。牛一頭を5軒の宿の価格に合わせてアレンジできそうです」

「そう。対立はなかった?」

「そりゃあ、どこもいい部位が欲しいでしょうけど。蛍雪園の価格帯ではヒレ肉のステーキをスタンダードメニューにはしにくいので、アラカルトにすれば取り合いになりません」

(任せれば、人はやるねん)

「よかった。肉の奪い合いを、心配していたの」

(永理子さんが従業員を信じてへんだけや)

「うるさいなぁ」

「えっ。何か言いましたか?」

「いえ、他の3軒も早く交えましょう」

 私は慌てて話を続けた。

「それは、松田料理長がやってくれるそうです。松田さんはプロですよ。僕、感心しました」

 私は松田の意外な一面を見た気がした。本来仕事好きなのかもしれない。

「……で、相談なんですが。このパターンをマグロや豚肉でもできないでしょうか?」

 もっともな話だ。

「大量に仕入れれば安くできますし、一頭料理は名物になります。ただ……」

 石橋は言いにくそうだ。

「保存が重要で、そこで活躍するのが、真空調理機なんです」

「真空調理機?」

「はい。下処理した食材を真空で保存するんです」

「へぇ」

「長期保存が可能です」

「そうなんですか」

「アイドルタイムに下ごしらえして、再加熱して提供もできるんです」

「シフトが楽になりますね」

 いいことずくめだ。

「いくらですか? その調理機」

「70万……」

「高い……」

 その出費は鳥楓亭では到底できない。

「蛍雪園に置いて、5軒に食材を配る形がいいのかと……」

 それでも、RSJ本部の決裁が必要だ。

「僕から本部に言いますから、甲斐さんバックアップしてもらえませんか?」

 真空調理機を導入することでさらなる大量仕入れが可能になり、購買価格が下がる。

「じゃあ、どの程度の経費削減に結びつくか、試算しましょう」

 私の得意分野だ。石橋と二人、急いで机に向かい、電卓を叩いた。

 

 

 

 

 

 翌日、伊勢谷に電話をして、真空調理機の件を説明した。

「試算表は、先ほどメールに添付しました」

「ああ、見たよ。高いね」

 私は緊張した。経費を減らすことはやってきたが、おねだりには慣れていない。

「真空調理機がどうしても欲しいんです」

「珍しいねぇ。甲斐さんが、再生先のために金を使おうなんて」

「長期的には、必ずコストダウンになります」

「ふむ。いいよ。買えば」

「いいんですか!」

「死に金を使わない甲斐さんが言ってるんだから、必要なお金なんでしょ」

「ありがとうございます!」

「聞いたよ。牛一頭料理フェアを5軒合同でやるんだって?」

「はい」

「赴任早々、動いてるじゃない」

 私は、言葉に詰まった。あれは瀧本のアイデアだ。伊勢谷はおおらかな笑い声を上げて、まぁ、頑張りなさい、と言って電話を切った。

 

 

 

 

 

 瀧本が招集したミーティングに石橋、木村、松田が再び顔を揃えた。

「熊本産のあか牛の一頭買いなら品質がよく、値段も手ごろだと分かりました」

 と木村は、ファクシミリで受信した見積り書をテーブルに広げた。胸を撫でおろした様子だ。

「肉の割り当てを早めに決めて、新しいメニューの撮影を兼ねて試食会をしましょう」

 瀧本が提案すると、松田が、

「俺は、料理人の取りまとめを行なうよ。試食会には、5軒全員の支配人にも来てほしいね」

 と、提案した。ついこの前の週まで料理人7人を引き連れて辞めると息巻いていたとは思えない変わりようだ。

「本部のカメラマンは、いい写真を撮ってくれますよ!」

 私がお茶を配りながら言うと、松田は大げさに腕まくりをして見せた。

「支配人、腕によりを掛けますよ。牛一頭だとね、脳みそもある。これは、絶品ですよ。癖がなくて、濃厚さはフォアグラの比じゃない」

 4人が、プロとして協働している姿がまぶしかった。その場面にジェニファーの「楽しく働く」という言葉が絡んだ。

 

 

 〈2章・了〉

つづきは『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』でお楽しみください!

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【小説】ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ

小説『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』(播摩早苗氏著)の最新情報をお知らせします。 

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播摩早苗 (株)フレックスコミュニケーション代表

北海道札幌市生まれ。HBC北海道放送にアナウンサーとして勤務後独立。コミュニケーション、心理学、自己表現、コーチングなどを学び、2001年フレックスコミュニケーション設立。第一三共、JR東日本、ネスレ、住友商事、昭和シェル石油、JALなど大手企業での活動実績をもつ。マネジャー研修、プレゼン研修、チームビルディング研修、女性管理職のためのコミュニケーションセミナーなどのほか、ラジオ、テレビ出演、講演なども活発に行なっている。『リーダーはじめてものがたり』『えっ、ボクがやるんですか?』『宿屋再生にゃんこ』(小社刊)など著書多数。

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