「中国・韓国は敵だ! 憎き奴らは反日マスゴミ・朝日新聞とともに日本を貶めている!」 ネトウヨ的陰謀観に染まって右バネが暴発、むき出しの愛国ブログを綴り、習近平の来日抗議デモに繰り出すまでに至った普通の会社員・森本健太郎さん(32歳・仮名)<前回の記事はこちら>。 身近な女性から「森本さんのブログって全部マスコミが悪いんですね」とイタいところを突かれて客観性を取り戻し、無事ネトウヨ卒業と相成ったが、熱が冷めて目の当たりにしたのは同じくネトウヨ化していた父親の姿だった。
 

ネトウヨの言う「リアリズム」は、ただの現状肯定だった

「実は、井沢元彦氏の本を父の誕生日に以前贈っていたんです。それで父がネトウヨ感染してしまいまして……」

 父親は多少進む道が異なり、竹田恒泰氏にハマって愛読していたようだ。森本さんがネトウヨを卒業したあとも、最初のうちは親子でそれほど大きな意見の相違はなかった。ところが、ある時を境に完全に道が別れたという。

「脱原発です。父は、小林よしのり氏が脱原発に踏み切ったことを、『日本はエネルギーを輸入に頼っているのに、リアリズムのない、理想論だけの奴だ』と酷評したんです。これはネトウヨの特徴なんですが、彼らは自分たちこそがリアリズムで考えていると思い込んでいるんですよ。でも実際には、単に現状肯定することを『リアリズム』と称していて、脱原発のように本来やらなければならないけど難しそうなことや、都合の悪い現実を『なんだその理想論は!』と切り捨てるだけなんですけどね」

 今年7月の西日本豪雨災害においては、安倍首相ほか自民党議員らが、気象庁から連絡がありながらも宴会を楽しみ、事態の把握と初動が遅れたとして批判されたが、ネトウヨ達は「あの時点では、まだ被害状況も想定できなかったのに、なぜそんなことまで安倍さんが批判されなければならないのか」「死んだ人間は自己責任だ」などとあまりに無理筋な暴論を『リアリズム』でがなり立てた。

豪雨のさなかの飲み会写真を見せつけられても『リアリズム』で擁護できるネトウヨ達って……。(写真/西村康稔官房副長官のツイッターより)

「ネトウヨというのは、日米の関係に関しても『日本とアメリカは同盟国なのだから対等である』というのをリアリズムにしていて、米軍に守ってもらっているとは思っていないんですよ。もちろん、それ以上のことは考えようとしませんしね」

 自分の信じていたい空想を『リアル』だと思い込み、居丈高に主張する無責任なネトウヨの頭の中。森本さんは、自主独立としての改憲を考える上で、この日米関係の矛盾にもっとも強い違和感を感じ、足を洗うきっかけにつながったという。

 

10年分のネトウヨ情報は、数日で網羅できる

 現在、東京から故郷の佐賀県にもどり、実家の農業を継ぐことを考えている森本さん。現実の生活、農業の行く末をリアルに考えるようになってからは、空想に興じている暇はなくなった。

「ネトウヨってつくづく成長しないなと思います。親和性の高い情報だけを摂取して、都合の悪そうなものは自分から遮断しているところもありますが、そもそも情報更新というものがまったくされていないんですよ。韓国がどうこうという特定の話題が追加されるだけで、10年前とまったく進歩していません。お決まりの文言をどれだけコピペして持っているかというだけですから、今日からネトウヨを始めても数日で10年前からネトウヨをやっている人に追いつけますよ」

 しかし10年の間に現実はどんどん変化していく。この数年間でも、安倍首相の言動や、米国からの扱いを見て、さすがに考え直さざるを得ない出来事があったのではないか?

「それでも成長しないわけですから、ある意味、ネトウヨというのは劣化していかないと維持できないものなんですよね。まとめサイトで儲けている人なんかが、ネトウヨの好みそうなワードをピックアップして並べて、より簡単に見せてくれたりもしていますし、ああいった便利なサイトがネトウヨ増殖に一役買っていると思います」

 

デフォルトは、強烈な被害者意識と揺らがない自己矛盾

 森本さんの読書リストには、ネトウヨ御用達の漫画『マンガ嫌韓流』(山野車輪著)も並ぶ。続編も読んだというが、あらゆる本を貪り読んできた森本さんも、途中で「これはもういいや」と手放したという。

『マンガ嫌韓流』山野車輪著(晋遊舎)。単行本第1巻は2005年7月刊

「結局、何作読んでも同じことを繰り返しているんです。なにより差別助長以外の何物でもなく、これは読むべきじゃないと思いました。僕にも嫌韓感情がありましたし、韓国が日本のマスゴミを支配していると思い込んでいましたけど、それが行き過ぎて、韓国という国ではなく、韓国人個人に対してその矛先を向けるようになってしまった。それはさすがに違うだろう、と……」

 それでも臆面もなく差別発言をがなり立て、劣化に劣化を重ねていったネトウヨの精神構造はどうなっているのだろうか。森本さんは、「強烈な被害者意識と盛大な自己矛盾がある」と分析する。

「早い段階で嫌韓感情を捨てればいいんでしょうけど、すっかりこじらせて、もう手放せなくなっているんでしょうね。彼らのなかには、中韓と反日マスゴミからいわれのない攻撃を受けているという強烈な被害者意識があって、そこから守ってくれるのは自衛隊と米軍だと思っているんです。この米軍への感覚には、盛大な矛盾があります。

 もともとは、GHQの戦後レジーム体制を憎み、押しつけ憲法だという反米感情を持っていたのが、やがて、中国と戦うには米軍の力なしでは無理、だからアメリカにはなんでも賛成だということになって、イラク戦争以降、『反米』という選択肢がなくなってしまったんですね。しかし、それでも客観的に事実を見ようとはしないので、『これは従米ではなく、日本は自立しており日米同盟は対等だ』と思い込んでいる。一方で、昔のままの『押しつけ憲法論』や、『戦後レジーム体制からの脱却』を言ってみたりもする。もう無茶苦茶な自己矛盾です」

 森本さんは「まるでカルト信仰みたいで怖い」と苦笑するが、信仰するにしたって複雑すぎて常人にはなかなか難しい。まったく支離滅裂な分裂状態。あらゆる現実から目を背け続けた挙句、ついに見るところがなくなってきたという状態なのか。こうなると、わざわざ被害者意識を保つために嫌韓の火を絶やさぬよう守っているのではとも思えてくるし、押しつけ憲法や戦後レジーム体制がどこから押しつけられたのかは、いくら思い出そうとしてももはやヴェールに包まれてネトウヨの前には姿を現さないのかもしれない。

 

父親世代と地元の友達には、スマホ経由で遅れて広がる

 複雑なネトウヨの脳内を分析してくれた森本さんだが、周辺にはネトウヨ卒業者どころか最近になってネトウヨ化した知人が増えているという。

「田舎の同級生が、かつての嫌韓を今になって言い出しています。昔のネトウヨはIT系の人が多かったんですが、ここ数年でスマホが普及して、それまでネットに興味のなかった人がネトウヨの世界へやってきたというケースが増えているんです」

 フェイスブックに入り浸り、ネトウヨ化した父親の話も報告したが、スマホ問題は深刻だ。10年分のネトウヨ情報も、スマホを通じて便利なまとめサイトが網羅してくれている。

「本を読まずにネット情報だけに触れる人が増えていますし、中高生でもスマホを使ってネトウヨをやれる状態ですからまずいですね。最近は、外国人が褒める日本の良さとか、日本礼讃番組が多いじゃないですか。ああいうバラエティ番組から刷り込まれるものもあると思います。みんながこんなに褒める素晴らしい日本を、中国と韓国はなぜ褒めないのか、敵対国家だ! みたいな」

 スマホを通じて遅れてやってくるネトウヨが、これから必ず増殖すると語る森本さん。最後に切々と共同体の必要性を語った。

「自分の意見や振る舞いが、共同体の人たちと比較してどういう位置にあってどう見られているのかというのを知ったほうがいいですよね。反対意見の人と話すには、その人の考え方も知らなきゃいけなくなりますし、それが自分の暴走を防ぐことにもなると思います。うちの地元は農家ですから、田植えで地域の人が集まったりということが否応なしにありますが、田舎でもそういった繋がりは消滅しています。スマホを手にしてネトウヨ一直線、というようなことを起こさないためには、やっぱり現実の共同体をどう作っていくかを考えなければいけませんね」

 

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