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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.04.30 公開 ツイート

第223回 ナナちゃん いとうあさこ

“ナナちゃん”と言うと名古屋のあの名鉄百貨店のところにいる背の高いお人形のことを思う方も多いかな。しかも今、「ナナちゃんの身長ってどれくらいだっけ?」と気になって調べてみたら、このコラムを書いているのが4月28日なのですが、本日ちょうどナナちゃんのお誕生日、という謎の奇跡。ナナちゃん、おめでとう。ちなみにナナちゃんの身長は6m60㎝だそうです。

 

ただ今回はそのナナちゃんじゃなくて、“ウチの”ナナちゃんのお話。このナナちゃんは、私の愛車の名前です。2019年の11月に、それまで9年乗っていた車を買い替えまして。あ、以前も書いたのですが、私は最初に車を買ったのが、町で“サングラスをしたブルドッグ”をイメージしたという車のポスターを見かけまして。「ワンコを飼えないのなら“犬顔の車”を買えばいい」と購入を決意。つまり、ワンコの代わりに買った車なので、“ハチ”と言う、いたくベーシックな名前を車につけて大切に乗ってきました。それも9年ほど経った頃、いろいろガタもき始めたもので、新しく車を買い替えることに。それが、ナナちゃん。やっぱり最初の子(車)への思いの強さなんてのもありましたので、“ハチの妹”分、ということで“ナナ”と名付けました。

そんなナナちゃんの色はわたくし、なんか気恥ずかしくて“黄土色”と言っていたのですが、車のパンフレットに載っている正式なものは“ギャラクシーゴールド”だそう。銀河の、金。なんときらびやかな。あ、“ギャラクシー”で思い出しましたが昔、芸人数人で“ギャラクシーエクスプレス”というバンド組んだこと、あったな。そのバンド名に負けないように全員、黒の革ジャンだったり、ジャラジャラしたアクセサリーつけたり。私も黒の革のミニスカートに網タイツ、エナメルのヒール履いて、真っ赤なルージュ。みんな、かなりハードな格好をして『島人ぬ宝』を演奏する、という、んー、ギャップあるバンド、とでも言っておきましょうかね、だったんです。実は先輩に三線の名手がおられまして。その三線と私のピアノ(キーボード)。あとのメンバーは多少入れ替わりありましたが、ギターだったりドラムだったりがおりました。いやね、最初は別にお遊びで始めただけでして。そしたら何故か出演のオファーが。気軽に受けたら、持ち時間が20分と言われたんですがその時、演奏出来たのが『島人ぬ宝』1曲だけだったのでどうしよう、となりまして。出した答えが“この1曲を何回も弾く”。うん、おかしいですよね。わかっちゃいますよ、ええ。ただ、そのまま弾くのもつまらないので、まずボーカルが自分の思い出話を真面目なトーンでしまして。「その時、ラジオから流れてきた曲がこれです。聞いてください。『島人ぬ宝』」と曲紹介をして演奏。トークも真剣ですし、見た目と曲のギャップもあって、お客さんもクスクス。そして1曲演奏し終わると次。ギターの人がまた自分の思い出話して「その時、気づいたら口ずさんでいたのがこの曲です。聞いてください。『島人ぬ宝』。」ここくらいまではお客さんの反応もまあまあいいんですけどね。3回目。私とかが悲しい思い出話して。「その時、泣いている私を励ましてくれた曲。聞いてください。『島人ぬ宝』。」もうここまで来るとさすがに、です。そりゃあそうです。同じ曲3回目って。聞いてくださったお客様に心より感謝。そして最後、急遽練習して弾けるようになった『オジー自慢のオリオンビール』で大盛り上がりして全てを忘れていただく、というシステム。そんなギャラクシーエクスプレス。数回ライブだの地域の営業だのにお呼ばれしましたが、そのスタイルを貫き、いつの間にか自然消滅いたしました。

“ギャラクシー”で話が逸れましたが、そんなギャラクシーゴールドのナナちゃん。黒とのツートンだったもので納車の時、思ったよりハードなその装いに、先に“ナナちゃん”と決めていた私は一瞬「イメージ違うかも」と思いましたが、そこから「ナナちゃんは思春期に不良になってチェーンなんか振り回していたけど、大きくなって更生。ただそのハードな感じはそのまま残った子」というストーリーを勝手に作りました。もちろん誰かにそれを話すチャンスなんてなかったのですが、一応、ね。裏設定。

そんなナナちゃん。ハチと同じくらいまでは乗ろうと思っていたのですが、昨年の夏、両親を乗せて千葉の外房の方まで行った事がありましてね。その時に乗り込みにくそうだな、と。ちょっと低いんですよ、ナナちゃん。私も膝やっちゃった後、なかなか乗り込むのしんどかったし、ちょっとシートが沈む感じと言いますか。ちょっと長めに運転した後は膝が痛んで立てなくなったりしたのを思い出しましてね。言っても両親乗せての長時間ドライブはその時が初めてだったし、今後しょっちゅう乗せるかって言ったらそこまでではないかもですが、またどこかおでかけする時、快適な方がいいなぁ、と。それに私自身、キャンプ道具を車に積んでいて、正直パンパンだったんです。だったら、ともう少し大きい車にしようと決めまして。このたび車を買い替えることにしたのです。

ナナちゃんの走行距離は、最後メーターをチェックしたところ32698㎞。4年半乗ってこの距離。ハチは9年で44844㎞だったから、それと比較するとだいぶいろんな所へ行ったんだなぁ、としみじみ。基本は仕事で都内を毎日チョコチョコ移動するだけですが、ナナちゃんの場合、やっぱりあちこちキャンプに行ったのがおっきかったなぁ。冬キャンプだけだから寒い一夜をいっぱい一緒に過ごしたね。山田ジャパン「優秀病棟素通り科」の稽古中には命の話でちょっと不安定になったのか、毎日帰りの車の中でTWICE「Feel Special」を無限ループでかけて自分を鼓舞した、なんてこともあったなぁ。同じワンコ仲間(?)のパコ美を乗せて何度か旅行もしたね。コロナ禍も一緒に乗り越えたナナちゃん。また誰かを乗せて軽快に走っている姿を想像しては、しばらく優しく微笑めそうです。4年半、本当にありがとう。

【本日の乾杯】ソーミンチャンプルー。あったかくなってくると、なんか食べたくなる沖縄料理。出前で注文。そうめんと油の相性、たまらなく好き。ツナの旨味でビール、すすんじゃいますです。はい。

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いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

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