現職の神職さんが指南する、「神様とのお付き合い」の仕方。「菖蒲(しょうぶ)」の活用法、続きます!
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菖蒲湯、菖蒲酒、菖蒲枕。それから、恋にも効く!? ㊙おまじないアイテム。
奈良、平安のころからお祓いの具として使われてきた「菖蒲」は、江戸に入ってからも庶民のあいだで五月五日の行事植物として人気があったようです。
江戸末期の絵入り年中行事記「東都歳時記」には、五月五日の候に
「家々軒端に菖蒲蓬をふく。菖蒲酒を飲み、また、ちまき柏餅を製す。小児菖蒲打の戯れをなす」
と書いてあります。家の軒を、ヨモギや菖蒲で葺いて、菖蒲酒を飲み、ちまきや柏餅を作る。
そして子どもたちが「菖蒲打」という遊びをした、というのですが、これはどんな遊びかというと、菖蒲の葉を束ねたもので地を打って、音の大きさで勝負するというとても単純な遊びらしく、おそらく軒端につるす用の菖蒲のあまりを使ったのだと思います。子どもって、大きな音をこわがるくせに、自分が大きな音を出すのは大好きですよね。なんでも遊びにする子供たちが無邪気に発する菖蒲打の音、これもまた江戸では、五月ならではの祓いの音だったのではないでしょうか。
さらに翌日、五月六日の候には
「諸人菖蒲湯に浴す」
と書いてあります。おそらく、軒につるして厄除けに使った菖蒲の葉を、翌日お風呂に入れて芳香をたのしんだ、ということなのでしょう。厄除け効果のあるものは全方位から使い倒す、無駄にしないという考え方は、令和の世にもフィットしますよね。
わたしの実家は会社づとめの家でしたが、五月五日になると、必ず母が菖蒲の葉をお風呂に入れてくれたので、子供のころから家のお風呂で菖蒲湯につかっていました。情緒を重んじる小学生だったわたしは、菖蒲の葉っぱをお湯の表面で行ったり来たりさせながら、そのつるつると光る艶と、厚みがあってすぱっと切れそうな剣の形をした葉っぱの感触、そして、あおいけれどすこし出汁のようなうまみも感じられる匂いをたのしんで、悦に入っておりました。こんぶ採りの海女になって、この魅惑的な感覚を毎日味わう自分を夢想したことも覚えています。(こんぶと菖蒲はちがいますけれど)。
そして大人になった今は、菖蒲湯からあがったあとに、ほんの少しの菖蒲酒をいただきます。
菖蒲酒とは、菖蒲の葉の根本部分を薄切りにして、それを二~三枚、日本酒に浸したお酒のこと。芳香、鎮静成分がしみこみ、厄除け効果があるとされます。ただし、果実酒のように漬け込むと菖蒲のアクが出てしまうので、葉を浸すのは長くて半時間程度。飲み切る分だけ作るのがコツです。私は、菖蒲湯に入る前にグラスに日本酒と菖蒲の薄切りを入れて、冷蔵庫で冷やしておき、風呂上りにくぃっといただきます。これで外と内のお祓い完了! あー、すっきりした! と気持ちが晴れ晴れします。このすっきりした気持ちにこそ、幸運は吸い寄せられてくるんだ! と信じています。
それから、お風呂に入れた菖蒲の葉を取り出して、枕の下に敷いて眠りにつきます。
これは「菖蒲枕」といって、菖蒲の芳香で安眠をさそい、すこやかになるという願いがこめられている昔からの風習なのです。
ここでひとつ注意なのですが、アヤメ科の「花菖蒲」には菖蒲独特の芳香も有効成分もありませんから、菖蒲湯や菖蒲酒には使えません。菖蒲湯や菖蒲酒にはかならず「菖蒲」の葉を使ってくださいね。ちなみに菖蒲はサトイモ科です(ややこしいですね)。
この菖蒲の「しょうぶ」という発音が「尚武」と通じるということで、武家では男児の成長を願い、兜(かぶと)を飾り、こいのぼりを掲げるようになっていきました。これが現在の「子どもの日」行事の原形になっています。
さて、植物の香りをつかって神様とあそぶ五月。最後にとっておきのアイテム「くすだま」をご紹介しますね。
くすだま、というと、運動会や、開店祝などに登場する、割ることが前提の大きな球を連想しますよね。中に紙吹雪やふうせんが入っていて、ちょっとなつかしい感じと、その祝祭感がわたしは大好きなのですが、じつはこのくすだま、「薬玉」と書きます。もともとは、薬の玉と呼ばれるもので、平安時代に貴族の間で流行った、おまじないアイテムなのです。
この薬玉は、麝香(ジャコウ)や丁子(チョウジ)などを錦の袋に入れて、祓いの力を持つヨモギや菖蒲を結び付け、赤青緑黄白の五色の糸を結んで垂らしたものでした。室内にかけたり、アクセサリーのように身につけたりしてたのしむという、インテリア、あるいは邪気除けのおまじないもこめたファッションであったようで、貴族のあいだでは薬玉を贈りあう風習があったのです。すてきですよね!
清少納言の「枕草子」第三十七段「節(せち)は」には、
「中宮などには、縫殿より御薬玉とて、色々の糸を組み下げて参らせたれば、御帳たてたる母屋のはしらに、左右につけたり」
とあります。宮中では、裁縫を担当する「縫殿(ぬいどの)寮」という部署があって、中宮定子のために縫殿寮から献上された薬玉を、定子に仕える女房たちが室内の柱にかけた様子が書かれています。
また、紫式部の「源氏物語」第二十五帖「蛍」には
「薬玉など、えならぬさまにて、所々より多かり」というくだりがあります。
いろんな方面から、趣向をこらした薬玉が送られてきた、ということで、恋のおまじないアイテムとしても機能していたことがうかがえます。
実は、わたしがこの昔の「薬玉」を知ったのは、茶道のお稽古を通してなのです。茶の湯の世界では、掛け軸に薬玉が描かれていたり、茶杓の銘(なまえのこと)に「薬玉」という言葉をつかったりと、季節感をあらわすものとして、その概念が現在も残っています。
いま、女子高校生たちが、大きなリュックに、大きめのぬいぐるみみたいなものを、いくつも、まるでおまじないのようにぶら下げていますよね。あれが千年くらい前は薬玉だったわけで、「今もむかしも、そんなにかわらないな。季節感はないけどな」と、ほっこりした気持ちになります。
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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月
「小さな一瞬一瞬の幸せを感じる」を毎日続けていけば、「一生幸せを感じ続ける」ということになる。――当たり前のことだが、これが、神社神職として日々、神様に季節の食べものをお供えしたり、境内の落ち葉を履いて清めたり、厄除開運の祈祷を行って参拝者さんとお話ししたりする中でたどり着いた、唯一、確実な開運法なのです。
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神主さん直伝。春夏秋冬を大切にすれば、毎日が開運のチャンス!
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