今回取りあげるマンガは、Q.B.B.の『古本屋台2』です。「2」というのですから、「1」があるはずですが、私は読んでいません。
調べてみると、6年前に別の出版社(集英社)から『古本屋台』という本が出ています。その続編ということになるのでしょう。
作者名のQ.B.B.は知っていました。原作が久住昌之、作画が久住卓也という兄弟のマンガ家ユニットです。
これも調べてみると、久住昌之が兄、久住卓也が弟で、Q.B.B.とは Qusumi Brothers Bandの略称とのこと。
Q.B.B.はむかし、中学生のバカな行状を描いた『中学生日記』というギャグマンガ集を読んだことがあって、その名前を憶えていたのですが、またしてもいま調べてみると、この『中学生日記』は、なんと、長い歴史と毀誉褒貶のある文藝春秋漫画賞を受賞しているのですね。
いろいろと問題があってこの賞が2001年で廃止になる直前の1999年の受賞作です。
久住昌之はいまやエッセイストやテレビタレントやミュージシャンとして知られる才人ですが、マンガ好きにとっては、何といっても久住昌之の原作と泉晴紀の作画による泉昌之名義のマンガ家ユニットで有名です。
泉昌之の初のマンガ「夜行」が「ガロ」に載ったのは1981年。あれにはびっくりしました。
トレンチコートに身を固めたハンフリー・ボガートか『サムライ』のアラン・ドロンみたいなハードボイルドな男が、夜行列車で駅弁を食うというだけの話ですが、細かいこだわりだけでつなぐ話がむやみやたらにおかしい。
この「細かいことにこだわる」というのが、泉昌之の、いや、久住昌之のドラマトゥルギーのほとんどすべてであって、今回の『古本屋台 2』も、その久住昌之節を隅々まで堪能させてくれます。
舞台は、深夜だけに開店する古本屋の屋台。
そこでは頑固な店主が焼酎白波のお湯割りを100円で1杯だけ飲ませてくれるという設定で、この店を様々な訳アリふうの常連たちが訪れるという毎回2ページの12コママンガ。
深夜に開く屋台の古本屋という妙に懐かしい感じのする都会のファンタジーですが、ヘタウマに分類できそうな味わい深い絵柄と、こだわりと含羞を等分にもつ店主と常連客の人間模様がうまくマッチして、毎回のお話のマンネリズムを楽しく、気持ちよく読ませます。
とはいえ、このマンガの成功の大きな原因は、登場する本の渋さです。
これはもちろん久住昌之の幅広い読書範囲とセンスの良さを見事に反映するもので、読んだことのある本が出てくると無条件でうれしいし、知らない本があるとすぐにポチって注文したくなります。
今回一番驚いたのは、芥川龍之介の「西郷隆盛」で、こんな奇妙奇天烈な話、私は知りませんでした。
それからよく知っている楳図かずおの『イアラ』も出てきたのですが、これは見たことのない800ページ近い豪華愛蔵版で、アマゾンで1万円をこえているので注文を諦めました。
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