戦時中の出来事をたった二行の言葉に封印してしまった父の経歴書。
父との出会いから丁寧に綴った母の手記。
彼らは戦中戦後の時代をどのように生きたのか。
父山本琢郎が亡くなり、母洋子が整理した父の遺品を私に渡してくれた。その中に父が書いた経歴書があった。役人であった父の経歴は実に細かく記述されていて、俸給級数まで記載されたものだった。しかし、その経歴書の中で戦時中の部分だけは、
昭和十八年十月一日 仙台陸軍飛行学校入校
昭和二十年八月十八日 召集解除ヲ命ゼラル
と、たったの二行だけだった。
父は、戦時中どう生きたかを、その二行に封印してしまったのである。
私はその二行の行間をなんとか読み解こうと思った。というのも、その遺品の中に「振武特別攻撃隊 天翔隊 陸軍少尉 山本琢郎」と書かれたシルクのマフラーがあったのである。父は陸軍少尉で、しかも、いわゆる「特攻隊」だったのか……。生前、母も含めて家族全員、父から戦時中の話は一切聞いたことがなかった。
私は猛烈に調べ始めた。
遺品の中には父の闘病中、看病をする傍ら母が書いた戦中戦後の様子を丁寧に綴った手記も入っていた。二人の若者はあの時代をどう生きたのか……。
母の手記は、将校姿の父と出会った経緯から書き始められていた。
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