330万部を超える大ベストセラー『女性の品格』の著者で、最新刊『人は本に育てられる』も話題となっている坂東眞理子さん。大の読書家として知られ、「人生の活力の源は読書にあり」「本が心と頭を育ててくれる」と語る坂東さんに、30~40代のビジネスパーソンに読んでもらいたいおすすめ本を5冊、選んでいただきました。
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『米欧回覧実記』から学んだこと
──『人は本に育てられる』では、先生がこれまでに読んできた膨大な本の中から、約250冊の本を紹介しています。その中からさらに厳選して、30~40代のビジネスパーソンにおすすめの5冊を選んでいただきました。
久米邦武『米欧回覧実記』(岩波文庫など)、梅原猛『地獄の思想』(中公新書)、日本戦没学生記念会・編『きけ わだつみのこえ』(岩波文庫)、辻邦生『背教者ユリアヌス』(中公文庫)、そして先生が書かれた『女性の品格』(PHP新書)の5冊です。
先生がこの5冊をおすすめする理由を教えていただけますか。
「好きだから」というのが一番大きな理由です。ただ、世の中で流行している考え方とはちょっと違うものに私は共感するので、なぜそれが自分にとって大事なのかということを考えながら選んだ気がします。
みんなが読むような本や、みんなが異口同音に言うような考え方に巻き込まれないほうが、本を読む楽しみや、生きることの楽しみを与えてくれるのではないかと思います。
──『米欧回覧実記』は、明治時代の岩倉使節団に随行した人が書いた本ですが、どうしてこの本を選んだのですか?
明治政府ができたばかりの頃に、岩倉具視、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった人たちがゾロゾロと日本を出て、アメリカとヨーロッパを訪問しました。第一の目的は、幕末に結んだ不平等条約を改正することでした。
彼らは、アメリカとヨーロッパの実態をこの目で見て、自分たちの国との格差に愕然とします。そして、とにかく国づくりをしなくてはいけないという、悲壮な決意に燃えて帰ってくるわけです。
私がこの本の中で一番印象に残っているのは、なぜこんなに差がついてしまったのかという理由です。著者は、日本人と欧米人を比べて、「知の鈍きにあらず、才能劣れるにあらず」と書いています。日本人は決して知能が低いわけではないし、才能が劣っているわけではないということです。
では、なぜここまで差がついてしまったのか。それは、今までの日本人の教養は、古今万葉、四書五経など、風雅の道や儒教の教えといった実学ではないものばかりだったからではないか。だから、こんなに差がついたのだと著者は述べています。
実は私自身も、古今万葉のような古典文学や、哲学、社会のあり方を考えることが好きでした。一方で、実学を身につけなかったから、社会的に十分な仕事ができなかったのではないかと思っていました。でも、それは私個人の問題というより、女性全般における問題なのではないかと思うのです。
女性は男性と比べて、「知の鈍きにあらず、才能劣れるにあらず」です。しかし、社会での活躍にこれだけ差がついてしまったのは、私たち女性が文学などを喜んで身につけて、法律やエンジニアリングといった、世の中で必要とされている実学を身につけなかったからではないでしょうか。
こんなふうに自分自身と重ね合わせて読んだので、『米欧回覧実記』はとくに私の印象に残っています。
「小さな自己肯定感」を積み重ねていく
──経済が停滞し、ジェンダーギャップ指数も低迷している今の日本社会で、若い世代に閉塞感が広がっているように感じます。先生はどのように見ていますか?
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は、自分は成長することができる、頑張れば新しい能力を身につけることができると考える「グロース・マインドセット」の人と、自分なんか頑張っても成果は出ないと、チャレンジする前からあきらめてしまう「フィックスト・マインドセット」の人がいるとおっしゃっています。
私は、どうも日本全体が「フィックスト・マインドセット」になっている気がするんです。今さら無理をしてもしかたない、半径5メートルくらいの人と仲良くして、安らかに過ごせればそれでいい、そんな考え方が強くなっている気がします。
もちろん、グロースすることだけが正しいとは思いませんが、チャレンジすることで自分が変わったり、やればできることに気づいたりすることは、とても人生を豊かにすると思います。
そして、自分の力で他の人を助けることができる、支えることができることに若い人たちがもう少し気づいてくれると、自分のまわりだけ幸せならそれでいいという生き方がもったいないと思うようになるのではないでしょうか。
とくに女性は、自己肯定感を持ちにくくなっています。どうせ私が努力しても大きな成果は得られないんじゃないか、女だから無理しないほうがいいんじゃないか、そんなふうに自分で自分を縛っている。それがちょっともったいないなと思うんです。
──身近なことから、興味のあることから、とりあえずやってみることが大事ですね。
ほんのちょっとずつでいいんです。たとえ0.01でも、0よりはいいのですから。「やってみたら私にもできた」という小さな自己肯定感を積み重ねていくと、やがてそれが自信になると思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】坂東眞理子と語る「『人は本に育てられる』から学ぶ読書の力」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
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