競争力を失った日本企業の悲惨な現実と、それに対する処方箋を提示した話題の新刊、『買い負ける日本』。本書の著者で、調達・購買コンサルタントの坂口孝則さんは、「小説は読んでも役に立たない」という昨今の風潮に異を唱えます。なぜ小説を読むとビジネスの役に立つのか? そして、坂口さんのオススメする小説は? ご本人に話をうかがいました。
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その分野の本をぜんぶ買うしかない
── 『買い負ける日本』ではたくさんの参考文献を挙げていますが、情報収集はふだんどのようにしているのですか?
私はコンサルタントの仕事をしているのですが、考えてみると不思議な仕事なんですよ。当たり前ですが、コンサルタントを雇おうとする会社は、コンサルタントが持っているノウハウを持っていないから雇うわけですよね。
これって矛盾していると思うんです。どのコンサルタントを選んだらいいか、原理的にはわからないはずですから。「この人がうちの会社に合うかもしれない」と、エイヤで決めるしかありません。
この話を本に置き換えてみましょう。自分にはこの分野の知識がない。だから本を買って勉強するしかない。じゃあ、どの本を選んだらいいか……。こう考えたとき、コンサルタントは高額ですから1人しか選べませんが、本だったら数千円でおさまりますよね。
それなら、結論は簡単です。自分が無知である以上、その分野の本をぜんぶ買うしかない。「なぜ、台湾は半導体産業が強いんだろう」と思ったら、「台湾 半導体産業」で検索して出てきたものをぜんぶ買う。原理的に考えると、それしかありません。
── 「その分野の本をぜんぶ買う」と決めておけば、もう迷うことはありませんね。
難しいのは、いかに論理的な話を展開するかということです。そこで私が意識しているのは、本で読んだ知識と現場で得た知識、両方が矛盾しない仮説を立てることです。
ですから、本にこうだと書いてあっても、現場で聞いた話とちょっと違うなと思ったら採用しません。逆に、現場で聞いた話がこの本に書いてあることに当てはまるなと思ったら、自分なりに仮説を立て、現場の人に意見を聞きに行きます。
ビジネスパーソンが学者系の人を逆転しようと思ったら、そこに突破口がある気がします。文献調査だけではなく、かと言って現場だけでもなく、両方をハイブリッドに融合したときに、新しい視点が生まれるのではないでしょうか。
なぜみんなもっと小説を読まないのか?
── 坂口さんは文章の模写をよくしているそうですね。
最近の有名な作家さんで言うと、橘玲さん、森博嗣さん。評論家で言うと、小林秀雄さんの文章はよく模写していましたね。
あとは何と言っても開高健さんですね。開高さんって点の打ち方が異常なんですよ。「こんなところで?」というところで打つ。だけど、口に出して読んでみると、「なるほど、ここで立ち止まらせたかったんだ」とわかる。さすがサントリーのコピーライターをしていただけあると思いました。
模写をして、ある程度自分のものにする。ものにしたときに気づくのが、この人にはなれないという気づきです。その気づきもまた面白いなと、私は感じています。
── ビジネス書をたくさん読む人の中には、小説は読んでも役に立たないと言う人がいますが、坂口さんは小説をたくさん読んでいますし、力に変えていますよね。
大きな力になっていると思います。もちろん、小説を読んだからといって、それが直接役に立つわけではありません。でも、読んでいるときの没頭感とか、こんな発想をする人が世の中にいるんだという驚きとか、自分も何かできるのではないかという活力が湧いてくるんです。
小説でいうと、最近は『世界で一番透き通った物語』にびっくりしました。何を言ってもネタバレになるのですが、絶対に電子化ができない小説で、よく思いついたなと。
あと、『世界で一番透き通った物語』の著者も影響を受けていると思うんですが、探偵小説家でマジシャンでもある泡坂妻夫さんの小説もすごいものばかりです。
ある小説では、最初に読んだときと2回めに読んだときで、まったく物語が異なっているとか、あるいはすべてのページにあるトリックが埋め込まれているとか。人間の想像力の極限を感じさせてくれます。
IT起業家も、SF小説を読んでいた人がめちゃくちゃ多いですよね。もちろん、SF小説をそのままビジネスに役立てたとか、商品開発に役立てたわけではないでしょう。でもSF小説を読むことで、ある種の思考実験というか、頭の中で次なる世界のビジョンを思い描いたと思うんです。
どうしてみんな、本業にズバリ役立つもの以外、読まないんでしょうね。もっと小説を読んだほうがいいような気がするのですが。
── 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
この本はタイトル通り、日本企業の凋落とそれに対する処方箋が書かれていますが、裏テーマとしては、壮大な自分語りになっているんです。
いろんな企業とふれ合って、自分も一緒になって片棒をかついで、既存踏襲で企業活動をしてきたこともあるし、かと言って、これまでの自分では終わらないという意味もあります。
また、自分がこれだけ取材をしてきて、自分で考えてきたというテーマもあります。大げさに言えば、人生の生き写しでもある『買い負ける日本』を、ぜひお買い上げいただければ嬉しいです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】坂口孝則と語る「坂口孝則と語る『買い負ける日本』から学ぶ日本企業の体質と想像力の重要性」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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