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フィンランドで暮らしてみた

2020.11.20 更新 ツイート

フィンランドの父の日は11月 芹澤桂

ハロウィンが終わった。フィンランドのそれは「子供たちのために一応やっておくか」というような低いテンションで、学校や保育園でなんとなく仮装イベントが開催されたり、ご近所同士で仲がよければお菓子集めも一部地域でやったりはしているのだけど、毎年早くも始まるクリスマス商戦の波に押されていまいちぱっとしない印象だ。イースターにも同じような「仮装兼ご近所突撃お菓子くださいイベント」があるので、そこで使った仮装道具をまた使い回すにはいいかもね、程度に見えてしまう。

テンション低いハロウィンが終われば

 

そして11月に入ればもうクリスマス本番かというぐらい、イルミネーションもお菓子の棚もインテリアショップの店先も何もかもがクリスマス一色になるのだけれど、そこの隙間に寂しくこじんまりと存在するのが、フィンランドの父の日、11月の第2日曜日だ。

日本での母の日の次の月が父の日、というのに慣れきってしまうと、この、一年で最も暗くて曇りの多い時期のイベントはなんだかかわいそうな気がしてしまう。

とはいえ、一年で最大のイベントであるクリスマスまであと2ヶ月もの間浮かれているわけにもいかないので、ここらでひとつ、落ち着きのある小規模なイベントを挟むのも悪くない。

我が家にもたいへん良き父である夫がいるので、カードぐらいは子供たちと適当に作って贈ってあげるかとネットでデザイン案を物色してみると、なぜかしっくりするものが見当たらない。

どれもオシャレではある。簡単そうで凝って見えるものもある。でも、何か違う。

そして私は大事なことをすっかり忘れていたことにようやく気がついた。

「父の日」の違和感

父の日、といえばネクタイなのだ。世の中ではなぜかそういうことになっていて、カードのデザインもYシャツにネクタイというものが非常に多い。

次に多いのは、ヒゲ、だった。かわいらしく弧を描く口髭を模したもの。それからメガネ。

それらが代表的な「父」像なのだろうが、よく考えたら我が夫は、そのどれもつけていない。

そもそもだ。平日昼間に街に出かけて、スーツ姿の人を見かけたら「うわ、スーツだ」と心の内でこそっと驚いてしまうのが、最近の私だ。スーツの集団なんて見かけた日には「葬式か結婚式だな」と無意識のうちに決めつけてしまう。

以前にも書いたけれど、フィンランドではそのぐらいネクタイやスーツの着用率が低いのだ。

例えば私の夫はフィンランドではだいたい誰もが知っている(しかし日本ではあまり知られていない程度の規模の)大手企業に務めているが、顧客訪問の予定のある日でさえネクタイは締めない。稀にある海外出張の際もせいぜいいつものTシャツをYシャツに変えるぐらいでジャケットも羽織らないし、お客さんもそんなもんなのだと言う。

だって服にお金かけないもん

とある新聞記事に載っていた統計によると、フィンランドの人が一番服を買う場所は、大型スーパーなのだそうだ。日本でいうとイオンとかヨーカドーのような、生鮮食品も家電も靴も服も置いてある郊外型の店舗だ。次にホームセンター的格安店も人気で、その次に北欧生まれのファストファッションH&Mがやっと出てきたかと思えば、ネットショップやスポーツ用品店に追いつかれそうな勢いだ。

おもしろいのがその理由の分析で、「フィンランド人はもとがみな労働者階級であるから、服に対してお金をかけない」のだそうだ。更に労働者階級であるゆえスーツを日常的に着る習慣が根付かず、みんなリラックスした仕事スタイルを好む、と。そう言われるとスーツ遭遇率の低さにも納得がいく。確かにスーツ、格好いいとは思うけど、日本のようにあそこまで頑なに着る必要はなかったような気がしてきた。

そんな自由な仕事スタイルであるから口ひげあごひげ無精ひげも生やしている人は一定数いるのだけれど、やっぱり父の日カードの口ひげデザインはなんだかちょっと古いというか、80年代以前の父親像のような気がして、私は採用できなかった。

父はいつもオールドファッション

というわけで子供たちが父の日に贈ったカードには結局当たり障りのないメッセージをしたためておいたのだけれど、保育園でも父の日の準備はしっかりとしてくれて、工作して持って帰ってきたカードには私が避けた口ひげシールがしっかりと貼られていた。

しまいにはそれを指して当の製作者である子が「パッパ、パッパ(=フィンランド語でおじいちゃん、の意味)」と言い出す始末。ちょうど義父がそんな感じの口髭を生やしているのだ。子供にはおじいちゃんに見えたらしい。

そういえば去年も保育園で作らせてくれたカードはしっかりとネクタイ型であったし、父の日カードの上ではフィンランドでもまだまだオールドファッションな父親像が存在しているようだ。

(この辺りの葉っぱも全部落ちきった頃に、父の日)
(少しでも青空がのぞくと奇跡! な11月)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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