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フィンランドで暮らしてみた

2019.09.06 公開 ツイート

結婚したらフィンランドに暮らすことになった 芹澤桂

フィンランドに越してきてもう4年が経つ。
東京にいた時の私は、ごく普通の会社員兼物書きだった。いわゆるオフィスカジュアルな服を纏い、ヒールの高い靴を履いて、昼間はWebエンジニアとしてパソコンに向かい、家に帰ったらまたパソコンに向かって小説を書いたりしていた。旅行が好きで、長期休暇があれば国内外問わず個人旅行をよくした。
兼業生活は忙しく、それでなくてもIT業界はブラックな面があったりしたけれど、忙しいのには慣れていたしそれを楽しんでいた。

そんなつもりはなかったのに

それがどういうわけだか、4年前、フィンランドに越してきた。
簡単に言ってしまうとそのわけは、フィンランド人の夫と国際結婚したから、なのだけれど、越してきた当時私は自分が結婚するかどうかなんてわかっていなかった。

よく誰かと移住時の話になると「思い切りましたね」などと言われるのだけど、そんなにきちんとした思い切りや覚悟で来たわけでもない。
フィンランドには最初、観光ビザで入った。ビザの期限は3ヶ月。とりあえず夫と一緒に暮らしてみて、それからどうするか決めようというような、ゆるい移住だった。

日本のアパートは引き払ったし荷物も全部処分したものの、ダメならダメで日本に戻ればいくらでも職は見つかる、という自信だけはあった。IT業界さまさまだ。

それとひとつ、移住しても大丈夫だろうという理由として、食べ物があった。移住前に旅行で2度、フィンランドを訪れたことがあったけれど、フィンランドのごはんはおいしい。健康的で日本人の口にも合い、魚の種類も豊富だ。お米も日本米に限りなく近いものが安価で手に入る。たかがごはんだけれど食いしん坊にとってそれはかなり大事なポイントで、こんなにおいしいものが食べられるならいっか、と私に決断させた。

そんなこんなで、しばらくフィンランドで暮らしてみて、大丈夫そうだな、と思ったので夫と入籍し、居住ビザを取得した。私の移住は、そんなあっけない感じだった。

 

じゃあリアルなフィンランド生活ってどうなのかというと、うちの、結婚して最初の2年近くはこんな感じだった。

ヘルシンキ市内の10階建てのマンション、7階に住んでいた。人気居住エリアで一軒家はなく、マンションばかり立ち並んでいるごく普通の住宅地だ。その風景は日本の住宅地となんら変わらない。

ごく普通の会社員の夫は、普通の会社員のくせに会社がリモートワークを推奨しているので、クライアントとのミーティングに出かける以外ほぼ毎日家にいる。私もフリーランスで仕事をしているので、必然的に、三食を共にすることになる。

物価の高いフィンランドでもランチはお手頃なので、週に一度ぐらいは近場のレストランに食べに行く。そして午後3時か4時には仕事を終わらせ、その後近所の散歩に行ったり、夏は泳ぎに行ったりし、夜には映画を見たり旅行の計画を立てたりした。

 

とはいえお庭がいちばんのレストラン
(とはいえ庭がいちばんのレストラン)

子どもまで産んじゃった

夫婦揃って旅行好き、特に夫が旅行狂いなので、旅はよくする。

フィンランド人の休暇というと、湖畔にあるサマーコテージで数週間のんびり、とか、ヨーロッパのリゾートで日光浴、とかが有名なのだけれど、我が家の場合はまったくそんなことはなく、特に当のフィンランド人の夫は日本のツアー旅行会社並みに、あれ見てここ行ってこれ食べて、と、スケジュールを詰め込もうとする。私はそれを止める係。

私も旅行は好きだけれど、すでに旅行をしまくった夫の「まだ行ったことのない国に行きたい」という要望についていくのは大変だ。私の一番行きたいヨーロッパ内は制覇されているし、残っているのは行きづらい国ばかり。

子供が産まれてからはようやく落ち着けるかと思えば、夫の育休がたくさんもらえるのでそれを利用して旅行は相変わらずしている。例えば第一子が産まれてからの最初の一年間は、気候のいい南ヨーロッパで過ごしたり、日本で過ごしたりと半年も家にいなかった。

今現在は同じくヘルシンキ市内の、長屋スタイルの小さい庭付きアパートに住んでいる。閑静な住宅街、を通り越しちょっと行けば森なので、自宅庭のテラスでお茶をしていると鳥の声しか聞こえず、なんか後ろでうるさいと思ったらリスかウサギだった、みたいなことがざらにある。これでも首都である。

首都というと、長年暮らした東京と、旅行でよく行っていたロンドンのイメージが強かった私は、このヘルシンキの田舎っぷりに最初はなんども驚かされた。野草が茂っただだっぴろい空き地を見つけて「あれなんのための土地? 売ってるの?」と夫に尋ねたりもした。実際は売っているわけでも農業用でもなく、空き地は空き地だ。それを理解するまで時間がかかった。

そんな田舎具合なので、日本から持ってきたヒールの高い靴の出番は滅多になく、フィンランドのアウトドアスタイルにもすっかり染まり、スニーカーにモンベルのジャケットで、ちょろちょろする子供を追い回す日々だ。

この記事が公開される頃には、第二子も産まれている。第一子の育休もまだ残っているのに更に育休が支給されるので、それ自体はありがたいことだけれど、夫の旅行熱が冷めそうになくて頭が痛い。

日本とはまた違った意味で、忙しい日々を、のんびりと送っている。

関連書籍

芹澤桂『それでもしあわせフィンランド』

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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