前回からの続き。

「やります」

 言ってしまった。もうこんなめんどくさい状況を早く終わらせたかったから。一軍のやつらが茶化してくるのを黙らせたかったから。でも何より僕は、ほんとはこういうチャンスを待っていたんだと思う。自分も一軍になりたくて、でも全然仲間に入れてもらえなくて、毎晩風呂場で狂ったようにガシャメシャに髪を洗いながら(シャンプーはメリット)「どうすれば一軍になれるのか」ってことを考え、でもなんにも思いつかなくて落ち込む日々。そんな自分にとって、この降って湧いたような応援団の話は、ようやく差した一筋の希望の光だった。

 僕のやります宣言に、クラスは盛り上がった。一軍のやつらは「あ、やるんだ…」みたいな、拍子抜けしたような、ちょっと後悔してるような、そんな感じだった。団長は僕(二軍)。副団長は僕の親友、イマム(二軍/メガネキャラ)。補佐としてヒロくん(二軍/尋常じゃなく巨根)。幹部メンバー全員が二軍。僕はやっぱり強烈に不安だったけど、その一方で、これがうまくいけば、もしかしたらずっとずっと憧れてきた一軍に入れるかもしれない、そんな期待に胸が甘く甘く、とろけそうになっていた。

 翌日から待っていたのは、練習すればするほど不安がどんどん募っていく、なかなかに地獄のような日々だった。

 まず、幹部メンバー全員、運動神経がない。例えば、陣形を組んで、「1、2、3、4」というリズムの振付を全員でやった後に、陣形の左側の人から順々に手を回し、全体でウェーブのような動きを付けていく演舞があったのだが、イマム(メガネ)は早速「1」で手が回り出してしまう男だった。それでもなんとか、みんなで振付を完璧に覚えるんだけど、なんというか全体的に仕上がりが、ヘンだった。運動神経ないやつ特有の、こればっかりはどうにもならないよね的ヘンテコさが、どうしても漂ってしまっていた。

 次に、分かってはいたけれど、ルックスが致命的にかっこわるかった。当時の僕のヘアースタイルは、スポーツ刈りを無理やりジェルでセンター分けにするという、逆になんで誰からもツッコまれずその髪型のまま今まで生きてこれたんだ系の奇天烈なものだった。いや、自分でもその奇天烈さは分かっていた。でもどうすればそれが改善されるのか、当時の僕はほんとに分からなかった。本番に向けて、一軍のまだ話せるやつに頼んでヤンキー仕様の学ランを借りれたのは良かったけれど、それを着ても、ぜんぜんかっこよくならなかった。もちろん、イマム(メガネ)もヒロくん(とにかくデカイ)も、かっこわるいままだった。

 あとは、後輩団員たちが慕ってくれなかったのも厳しかった。下級生の団員は、例年通りその学年の一軍の子たちが立候補して入ってきてるもんだから、彼らは僕ら幹部を見て愕然とするわけです。僕らは僕らで、そんな彼らに超ビビッてたし。とてもじゃないけど、一致団結して一糸乱れぬ演舞を、という雰囲気にはならなかった。

 それでも団長の僕は、頑張った。失敗するのが怖くて仕方なかったから。当日一軍のやつらにバカにされるのを想像するだけで、胃液がイヤ~な感じで渦を巻き始めて、いてもたってもいられなくなったから。僕は、僕らは、来たる本番に向かって一生懸命、頑張った。

 次回に続く。

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