とりかえしのつかないことになった。

 いつもの藤園中学校3年1組の、今日の終わりのホームルーム。退屈だけど、このあとの二軍の仲間との買い食いの約束に胸がかすかに高鳴る、そんな時間。いつもならそうだったはずなのに。

 その日の議題は、秋の体育祭の応援団メンバーをクラスの中から選出するということだった。当時、少なくとも熊本市内の中学校では、応援団は一軍の中でも特にイケてる人物たちが自ら立候補してそこに入り、さらにその中でもトップクラスにヤバいやつが団長になる、という習わしだった。だから僕は、きっとまあ、笑いに強くしかしクレイジーさに定評のあるトオル君か、イケメンでスポーツ万能、しかしキレたら何するか分かんないぜ系男子チサト君か、そこらへんのエリート一軍がただちに立候補して速攻決定、一軍女子たち(僕の好きだった和泉さんもここに所属していた)が色めき立つ(くそったれ)、という流れだろうと思っていた。早く決めてくれ、俺はとっとと二軍のみんなと熊本城近くの「みらく亭」でホットドッグ買い食いして、そのまま近くの家の玄関の前で飼われている柴犬をナデナデしに行きたいんだ。

 どうやら異変が起きていた。担任のリュウ先生がどんなに煽っても、一軍のやつらが全く、立候補しないのである。みんなそろって、ニヤニヤしているのである。今思えば、彼らのその行為に大した意味なんてなかったんだと思う。ただ単に、「だりー」とか「頑張んのダサくないっすか?」とか、そういうのがカッケーみたいに、たまたまその時なってたんだと思う。

 でもそれじゃあホームルームが終わらないのである。ちょっとした不良気分で「スタミナドッグ」を荒々しく頬張って、その後めんこい柴犬を撫で散らかしてハァハァすることができないのである。早く決めろよー。なんて思ってたら、リュウ先生、ついに「一軍のやつら、これ何言ってもやんねえな」って判断したのか、こんなことを言い出した。

「柴田のグループとか、やんないの?」

 腹の中のいちばん底の部分を突然鈍器でぶん殴られたような、もう嫌な予感なんて言葉じゃ足りないぐらいの何かが、僕の心を襲った。いやいや。いやいや。俺やるわけねーし。やれるわけねーし。二軍だよ、俺。ヤンキーの先輩とか一切知り合いいないから演舞とか教えてもらうこともできねーし。何より俺めっちゃダサメンだよ。馬鹿にされてんだよ。恥かくだけじゃん。失敗するに決まってんじゃん。いやほんと無理。無理。無理。

 リュウ先生の言葉で、一気に盛り上がる教室。無責任に盛り上がる教室。一軍のやつらが「柴ちゃんでいいんじゃね!?」とはやしたてる声が聞こえる。リュウ先生が何の悪気もなく「いい経験になるからやってみるのもいいと思うぞ!」なんて言う声が聞こえる。

「やります」

 は? 何言ってんの俺? 次回に続く。

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