歩ける限り、誰にでも楽しめる偉大なゲーム

 ホレス・ハッチンソンは、1886年から全英アマチュア選手権に2連勝した名プレーヤーである。さらに、自ら出版社を主宰しただけあって文章力に優れ、ゴルフ関連の著作は40冊近くある。本人は全英アマチャンピオンとしてよりも、ゴルフ作家として扱われるのを好んでいたようだ。

 ハッチンソンは、自分の結婚式が終わった日も午後からも友人とゴルフに出かけたほどのゴルフ狂で、彼はとくに「知的興奮」がゴルフを面白くしていると考えていた。

 

「目的を達するために、どのクラブで打つべきか? 私が好きなのはクラブ選択に費やす短い時間である。経験と能力を総動員させて、いよいよ選ばれたる決断の1本を握る。

 その瞬間こそ『動的興奮』そのもの。グリーンでアンジュレーションを読む時間が『静的興奮』の極致、どちらも頭脳が忙しいことに変わりはない。ゴルフは肉体ばかりか、頭脳も快適に疲労するところが素晴らしい。

 単に興奮するのではない。ゴルフでは脳がワクワク、心臓がドキドキ、関節がコチコチ、呼吸がパクパクする。こんなゲームはほかにはないだろう」

 

 なるほど、さすがに作家らしく、見事な言葉遣いでゴルフが人を興奮させて虜にしてしまう理由をうまく伝えている。

 

「ゴルフは究極の歩行競技である。ゆえに歩き始めたときから、歩ける限りゴルフは誰にでも楽しめるゲームだ。『人は歩きながら多くを考える生き物』、これはギリシャの哲学者が証明済みだ。

 散策は人を哲学者に変身させるともいえる。また、風に吹かれ、自然を愛でることで、誰もが詩人に変身する。歩くことによって人は情緒豊かになり、優しい気分に包まれる」

 

 いやはや、ゴルフはたしかに偉大なゲームのようである。

 

バブル期から半減したゴルフ人口

 日本アマに1933年から3大会連続で優勝した鍋島藩21代目当主の鍋島直泰も、お殿様らしく、おっとりした口調で次のような言葉を残している。

「ゴルフはどこから見ても本当にお洒落なゲームです。粋な遊び心と、洗練されたマナーと、それから自然に対する畏敬と、科学する心も要求されます。これがわからない人にとっては、ただのタマ転がしに過ぎないでしょうね」

 鍋島はバンカーショットを打ったあと、「殿様のハタキ」と呼ばれたお手製の小さなハタキをキャディから受け取り、ズボンについた砂を落としたといわれる。なかなかにお洒落な人でもあったらしい。

 この言葉のとおり、歴史と伝統を重んじたトラディショナルなゴルフにこそ、本当のゴルフのよさが存在し、それだからこそ、この偉大なゲームがこれほど多くのプレーヤーを魅了するのであろう。

 しかし昨今の若者や中堅世代は、そこに至る前に、しきたりや伝統のようなことが苦手で初めの一歩が踏み出せない人たちが多いように思われる。

 このためか、ピークだったバブル期には1400万人以上いたゴルフ人口は、昨今では半減となる700万人を切ってしまいそうなところまでになっているのである。

 プロゴルフの世界では、男子も女子も若手の台頭が著しく、将来有望な若手プロがどんどん出てきている。となると一般ゴルファーも若いゴルファーが増えてきていそうに思えるが、実際はそうでもないのだ。

 とくに、バブル崩壊後に社会人となったいまの30~40歳代は、昔のように上司が社会人の必須科目だからとゴルフに連れ出すということもなくなってしまった。

 接待ゴルフも激減し、ゴルフを覚える必然性も低くなったことで、この世代のゴルフ人口はとくに少なくなってしまったようである。

 

ゴルフには金と時間がかかるが……

 日本では、経営の安定性を考えてか、ほとんどが会員制ゴルフクラブ形式のゴルフ場といっていい状態が長かったため、ゴルフは若い世代にとって、少々ハードルの高いスポーツとなってしまっていたのかもしれない。

 会員制のクラブは、ビジターのプレーフィーが高いし、メンバーさんにお願いして予約してもらわなくてはならない。マナーやエチケットもちゃんとしないと、紹介してくれたメンバーさんにも迷惑がかかる。 また、初心者の若い仲間だけで行けば、プレーが遅くなるから怒られる。

 ……などなど、昨今の若者気質からすると、「なんだか面倒くせぇや」となってしまうのだろう。

 ゴルフを始めるには、クラブをそろえるのにも金がかかる。練習場でも金がかかる。コースでも最低1万円はかかる。高速道路代もバカにならない……と、金銭面のハードルも高い。

 その上、最近の若い世代は運転免許の取得率も落ちていて、車の免許を持っていないとか、持っていてもマイカーを所有していない人が多い。ゴルフのたびに親から車を借りたり、車を持っている友達を探したり、レンタカーを借りたりしなければならない。そんな交通手段のハードルもあるらしい。

 とくに関東では、安くプレーできるコースは遠いので、早起きしなくてはコースへ行けない。帰りのことも考えると、移動に時間がかかりすぎるのも億劫らしい。

 そんなこんなで若い世代のゴルフ離れが進んでしまったようで、このままでは日本のゴルフ界はどんどん衰退してしまう……しかし、実は私はそうでもないだろうと思っている。

 表題にしたホレス・ハッチンソンの言葉どおり、ゴルフはひとたび始めてしまえば、ほとんどの人が「究極のゲーム」といわれるその魅力に憑かれ、「ゴルフは人生第二の伴侶」(ウィリアム・シンクレア)と言うほどに、歩けなくなるまで楽しめてしまう生涯ゲームだからである。

 昨今の若い世代は、その最初の一歩を踏み出せず、この素晴らしいゲームを始めることができていないだけではないだろうか。

 石川遼プロや松山英樹プロなど、ジュニア世代からの才能あるスター選手も出てきているし、女子プロ界も次から次へと若手のスターが優勝を争っている。若い世代にまたゴルフブームが訪れる日も、そう遠くはないのではないだろうか。

 実際、10代のジュニアゴルファーには、将来有望なプレーヤーが石川プロや松山プロに続けとばかりに目白押しだ。石川・松山世代の20代もけっこうゴルフ場で見かけるように思う。

 

いまはゴルフを始める環境が整っている

 問題は、30代から40代。いわゆる「ロスジェネ」と呼ばれる中堅どころの世代だ。

 このバブル崩壊後の失われた10年以降に、残念なことに機会に恵まれずゴルフという偉大なゲームを始めることができなかった世代の人たちに、なんとかゴルフの楽しさを教え、始めるように導いてやることはできないものだろうか。

「ゴルフはすぐにはうまくならないが、いつ始めても遅すぎるということはない」(フィリップ・モンクリーフ)という名言もある。

 読者諸兄を含め、現在ゴルフを楽しんでいる日本中のゴルファーが全員、まだゴルフを始めていない誰かを見つけて仲間に引き入れれば、単純にゴルフ人口は倍になる。

 それはご自分の息子さんや娘さんでもいい。会社の部下や学校の後輩でもいい。飲み友達や同窓会の仲間などもいいだろう。多くのゴルファーが、ゴルフ仲間を増やそうと意識して声をかけ、この究極のゲームの魅力を知ってもらえれば、日本のゴルフ界もまだまだ廃れないはずだ。

 折から、2020年の東京オリンピックでも公式競技として開催されることが決まっている。いまこそ、何度目かのゴルフブームを巻き起こすチャンスなのかもしれない。

 私も数年前、当時26歳だった長男を練習場に連れていってゴルフを始めさせた経験がある。始めるとやはり本人も「面白い!」と言ってすっかりハマり、いまでは100も切れるようになった。

 また、自分と同世代の友人も誘い込んで、ゴルフ仲間の輪を広げ始めているようだ。こういう連鎖反応を起こさせれば、ゴルフブームの再来もあながち空想ではなくなるだろう。

 最近は、中古ショップに行けばクラブもかなりお安くそろえることができる。あとは、グローブとスパイクレスの安いシューズでも買えば、すぐに始められるのだ。

 一部の外資系コースなどは、平日ならば2人だけでカートのセルフプレーをしても、割増料金をとらないときもあるし、インターネットでそういうコースを探して予約すれば、昼食つきで6000~7000円という安さでプレーできる。

 昭和の昔から比べれば、いまは格段にゴルフを始める環境が整っているのだ。

 私はこの連載の最初に書いたとおり、人生においてゴルフのおかげで助けられたことが大いにあるので、なんらかの形でゴルフに恩返しをしたいと思っている。

 まずは身近なところから、この素晴らしく魅力的なゲームを広げていくことが、それにつながるのかもしれない。

 球聖ボビー・ジョーンズは「人生の最後にいくらの財産を得たかではない。何人のゴルフ仲間を得たかだ」という名言を残している。

「ゴルフ仲間を増やす」。これもゴルファーとしての上達の一端なのである。

 

今回のまとめ

1. ゴルフの本当の面白さは、歴史や伝統を重んじたゴルフにある。しかし、やみくもにハードルを高くして、これからゴルフを始めようとする人を遠ざけてはいけない

2. ゴルフはいつ始めても遅すぎることはない。自分の近くにまだゴルフをしていない人がいたら、このゲームの面白さと深さを教えてあげよう

3. ゴルフ仲間を増やすことは、あなたの人生や老後を豊かにするに違いない。それもまたゴルフ上達の一部なのである

 

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