プロのスウィングに影響されすぎるのもよくない
レオナード・クローリーは、1930年代から40年代に活躍した、イギリスの優れたアマチュア・ゴルファーだ。イングランド代表としてウォーカーカップに出場するなど、アマチュアゴルフ競技界に多くの記録を残している。
選手を引退したあとは、デイリー・テレグラフ紙のゴルフ特派員として、ジャーナリストに転身した。1970年の全米オープンでは、トニー・ジャックリンが1924年のシリル・ウォーカー以来のイギリス人優勝選手となった。その試合会場にいた唯一のイギリス人ジャーナリストが、クローリーだった。
さて、クローリーが言うように、多くのアベレージ・ゴルファーはスウィングのあれこれを気にし過ぎる傾向がある。最近は、カメラの技術などが進歩したおかげで、プロのスウィングをスーパー・スロー・ビデオで観察することができるようになった。自分のスウィングもスマホでスロー撮影して見比べられるようにもなったが、その一種の弊害ではないかと私は思っている。
プロのスウィングは、確かに素晴らしい躍動感と力強さ、それに美しさも併せ持っていて、自分もこんな風にスウィングできたらどんなにいいだろうと思う気持ちは理解できる。しかし、ここで少し考えてみて欲しいのだ。
アベレージ・ゴルファーはもちろん、シングル・プレーヤーであっても、プロのスウィングをマネできるほどの基礎体力を果たして持ち合わせているだろうか、ということを。
プロは、毎日何百球ものボールを打ってスウィングを身に付け、それを支えるための足腰や体幹の筋力トレーニングも行っている。その土台に支えられて、素晴らしいスウィングができるのだ。300ヤードを超えるビッグ・ドライブを放っても、微動だにしないフィニッシュが決まるのは、ひとえにボールを打つ練習量の豊富さと筋トレの賜物なのだ。
一方、一般のアマチュア・ゴルファーでプロに匹敵するほどの練習量とトレーニングを行っているのは、ごく一部のジュニア・ゴルファーや学生ゴルファー、そしてトップアマと呼ばれるような人たちだけだろう。
ましてや私のような高齢ゴルファーは、それだけの練習量と筋トレを行ったら、1日で身体を壊してしまうにちがいない。サラリーマンなど仕事を現役でやっている人も、それだけの練習時間やトレーニングに費やす時間をやりくりできるかといえば、なかなか現実的ではない。
プロの素晴らしいスイングに倣って自分のスウィングを改善しようとしたとして、そのようなスウィングが一般ゴルファーにできるかと言えば、誰しもが「無理!」と答えるだろう。
少し考えればわかるようなことなのだが、練習場へ行くとスウィングの細部を気にして、直そうとしている一般ゴルファーがあちらこちらに見かけられる。無駄な努力に終わることは、ほぼ間違いない。
一般ゴルファーがうまく打てない原因は、スウィングの動作中に問題があるというより、もっと基本的なところで間違っていることがほとんどなのだ。それは、クローリーの言うように、大抵はグリップに問題があることが多い。
ゴルフ・スウィングの80%はグリップとアドレスで決まる
先日、病気を治療するため1年ほどゴルフの練習から遠ざかっていた友人が、幸い病魔から復帰してゴルフを再開した。しかし、すっかりスウィングがおかしくなってしまい、情けないプレーしかできなくなったから、一度見てくれと言うので練習場へ付き合った。
彼も、スウィングの細部を気にし過ぎるタイプで、「ダウンスウィングでコックをためてレートヒッティングできないから飛距離が出ない」とか、「右手首の角度をキープできず、リリースが早いのでアイアンでダフってしまう」とか、スウィングの改善すべき細かい点を上げてきた。
それは、頭の中が難解なスウィング理論で埋まっているんじゃないかと思えるほどだった。よく勉強していて、専門的なゴルフ用語もよく知ってはいるのだが、肝心なことを忘れている。そう、彼は病気の治療でブランクがあったから、基礎体力が落ちてしまっていることを考えていないのだ。
基礎体力はジムなどへ行って回復させたとしても、プロのそれとは比べ物にならないほど劣っている。そのため、コックをためたレートヒッティングや、右手首の角度を維持したハンドファーストなインパクトなど、そもそも真似しようと思うことが間違いだ。
私の回答は、「そんなスウィングの細かいことよりも、基本のキから始めようよ」だった。基本のキとは、すなわちグリップとアドレスである。「ゴルフ・スウィングの80%はグリップとアドレスで決まる」と多くの名手が言っているから、その後のスウィングは20%でしかない。その20%の中の、細部にこだわっても効果は少ないのだ。
グリップとアドレスという基礎から修正する
友人はしばしキョトンとしていたが、幸い基本からやり直すことには前向きだったので、素直にグリップの修正から始めることになった。彼は、体格的には小さく非力なタイプなのだが、さらに左手のグリップがルーズになっていて締りがなく、結果としてウィークな握り方になっていた。
いわゆる「ワシづかみ」のような握り方なので、親指と人指し指の間にスキマができ、そこからグリップ・ラバーが黒々と見えていたのだ。そこで、指先のほうから握り始めるように直し、隙間なくフィンガーでグリップしてもらった。
「えぇ~こんな感じなの? すっごくカブっていてフックグリップ過ぎる感じだけど……」というのが友人の感想だったが、非力なタイプの彼のパワーを補うにはその方がいいのだ。右手は左手に合わせて沿わせ、右向きに開いた形でグリップしてもらった。結果として、親指と人差し指で作られるV字が両手とも右肩を指すストロング・グリップができあがった。
友人にしてみるとすごく違和感のあるグリップのようだったが、私から見ると、非力な人がパワーを最大限に出せる強くていいグリップに見えた。そのグリップで、AWを腰の高さから腰の高さまでのハーフ・スウィングで打つことから打球練習を開始した。
20球ほど打つと、「グリップはなんかまだ気持ち悪いけど、ダフらないし、以前は多かった引っ掛けボールも出ない。なんか不思議」と友人は言った。左手を正しくグリップしたので左腕がしっかり強く使えるようになったのだから、私には当然のことなのだが、友人には不思議な感覚らしい。
ハーフ・ショットは、キャリーが30~40ヤードぐらいでおおむね上手く打てたのを確認し、そのままクォーター・ショットへと移行してみた。すると、厚いインパクトで55~65ヤードほどキャリーする軽いドロー気味のボールが連発した。グリップを直すと、しばらく当たらなくなる人も多いのだが、友人は経験も長いためか順応が早く、器用なタイプなようだった。
友人は「すっごく違和感のあるグリップなのに、まっすぐ行くし距離も出てる。なんか、目からウロコだなぁ」と驚いていたが、直したのはグリップだけでスウィングは何もいじってないのだ。
クォーター・ショットもうまくいったので、いよいよフルショットへ段階を上げてみた。すると、ナイスショットもでるが、左へ引っ掛けて更にフックするボールも時折でるようになった。クォーター・ショットまでは飛ばそうとせず、リズムとテンポを大事にしてリキまず打っていたのが、フルショットになるとリキみが入るようになったのだ。
それと、飛ばそうという意識が入ることで、ボールから少し遠くに立ってしまっていた。そこで、ハーフ・スウィングのときと同じように、少しボールに近く立つアドレスにしてもらった。
「フルショットするには何か窮屈な感じがする」と困惑していた友人だったが、実際に打ってみると、引っ掛けボールは出なくなった。「こんなに近く立っても打てるんだ。自ずと脇も締まるから安定するね」と驚いているので、そのスウィングをスマホで撮影して見せてみると、「もっと窮屈そうに打っているのかと思ったら、別に普通のいいスウィングだね」と改めて確認できたようだった。
ゴルフ・スウィングの出来は動き出す前に決まる
自分では違和感のあるグリップだったり、窮屈なアドレスだと感じていたりしても、映像で見るとおかしくないどころか、いいスウィングになっていることに気づくと納得できるものだ。
今回直したのは、グリップをフィンガーで隙間なく握ることと、アドレスで少しボールに近づくことだけだったが、友人のショットはずいぶん改善された。やはりゴルフ・スウィングの80%はグリップとアドレスで、スウィングが動き出す前のことなのだ。
改善後のグリップとアドレスに慣れ、違和感なくスウィングできるようになるには、あと10回ぐらい練習場に来ないといけないだろう。だが、徹底して取り組めばきっと友人のゴルフは回復すると思う。
動き出したら3秒ほどで終わってしまうスウィングの中で、あれこれと改善を加えるのは難しいものだ。しかし静止状態のアドレスとグリップは、じっくりと直すことができる。動のスウィングのあれこれを問題にしてしまって低迷が続いている人は、クローリーの言葉を思い出してみてほしい。そして、静のスウィングであるグリップとアドレスが正しいかどうか、今一度チェックしてみてはいかがだろうか。
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