自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン

プロローグ

 東京多摩地区の山間の、とある集落に『ＧＳオジカ』というバーがあった。ガソリンスタンドの跡地を、ほぼそのままの状態で使っている、ちょっと変わった店だ。

 店主のシュウは、過疎化と高齢化が急速に進む集落で唯一の三十代であり、日々の買物に困っている高齢者のために買い出しを請け負っている。

 バーの客は殆ど常連で、たいした売り上げにはならない。買い出しで手間賃はもらっているが、それも僅かなものだ。昼過ぎに起きて深夜まで、十二時間以上働いているのに、シュウの暮らし向きはずっとギリギリだった。

 しかし、子供の頃から「今日一日が楽しければ万事ＯＫ」という感じで生きて来たシュウは、完全休養日がないことも、贅沢が出来ないことも、それほど気にせず日々を送っている。

 むしろ、集落の高齢者達が自分を必要としてくれることに、妙な心地良さを覚えていた。

 ただ一つ、健康な成人男子として女ッ気がない生活には嫌気がさしている。適当に遊ぶ女性はたまに現れるが、真剣に惚れると決まって上手くいかない。常連客が連れて来る一見の女性に「これは」という娘がいれば、出来るだけ優しく接して、中にはモノにした娘もいるのだが、必ずなにかしら問題がある。

 大人しそうにしていたのに、実は全身タトゥーだらけの元ヤクザの女というのもいた。自分には若過ぎるかな、と思った娘には旦那と子供がいて、シュウは完全に遊び相手にされた。なにも問題がなさそうだった娘も、よくよく聞いたら両刀使いで、一緒に暮らしている旦那（生物学的には女）がいた。

「お前が惚れる娘は、なにかワケありなんだ。そういう星の下に生まれたんだと認めて、ど真ん中に手を出さずに外角低めを逆方向へ軽打することを心掛けろ」

 悪友のエンリケは、そんな分かるような分からないような忠告をしてくれた。

 ある日、そのエンリケが一見の客を連れて来た。

 ナナと名乗るその娘は、これまで百人くらいエンリケが連れて来た娘達と、明らかに趣が違った。奇麗な娘だが、シュウも一目惚れをしたわけではなかった。むしろ「俺達とは生きている場所が違う」と思った。

 だがナナは『ＧＳオジカ』を気に入ったのか、何度も通うようになった。そうなると、シュウも少しばかり食指が動く。

 彼女が過去最大級の「ワケあり」であることには、まったく気付かずに……。