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2015.10.27

第7回:第1章-17

自分の無力さを知ること。(後)

K

自分の無力さを知ること。(後)

兵役とはどんなものなのか。自身の641日間の兵役経験を基に綴られた韓国人ミュージシャンKさんの初の著書『幸せを数える。』から、軍隊に入った一人の青年が何を感じ、何を考えたかを、全7回のダイジェストでお届けします。

最終回となる今回は、前回に引き続き兵役の中で知らされた311の震災について。

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プレゼント応募期間は終了しました。多数のご応募、ありがとうございました。


*  *  *

 上官のテレフォンカードを使い、日本の友達やスタッフと話した。

 韓国のテレビやインターネットで得る情報だけではわからなかった詳細を知るたびに、どんな言葉を口にすればいいのか迷った。夢中になって被害の状況を語り、「こっちは大丈夫だから」と日本の仲間たちは言う。でも、その声がいつもとは違っていた。彼らがこれほど弱気になっているのを、今まで見たことがない。僕が考えるよりも、想像するよりも、はるかにひどいことになっているんだろうと思った。

 

「暖かくなったから、今日から朝、上半身裸で走ることにする」

 3月に入り、厳しい寒さも緩み、氷点下2桁だった気温も1桁となった。朝6時に、アップダウンの激しい道のりを3キロ走る。暖かくなったといっても気温は氷点下5度。裸で走る環境ではない。それでも、命じられるまま毎日走った。

 入隊してから8週間。厳しい訓練期間の終わりはもうすぐそこまで来ていた。

「こんなことできるわけないよ」と何度も諦めそうになった。それでも僕はトライし、続けた。「よく頑張ったな」というある種の充足感に満たされていた。

 そんなときに、東日本大震災のニュースが届いたのだ。

 自分が住んでいた街、ライブで訪れたことのある場所、そして触れ合った人たちが、今直面している現実の過酷さに比べたら、訓練なんてどうってことないだろう。それなのに「訓練期間を乗り越えた」とホッとしている自分に対する嫌悪感が消えない。

 訓練終了の喜びにリラックスしている周囲の仲間たちは、僕のこの苛立ちをとうてい理解できないだろう。笑顔が増えた同期たちの無邪気さがさらに僕を追いつめた。

 

 日本を離れて3カ月が過ぎていたけれど、ちょっと旅行へ来ました程度の感覚しかなかった。夢を見るのも日本語だし、考え事をするときも日本語だった。だから、韓国の軍隊にいても、日本との距離を感じることはなかった。

 しかし、震災が起きた今、日本のファンへのメッセージを考えても言葉が見つからない。

「頑張ってください」「大変な状況だと思いますが、大丈夫ですか?」

 いろいろと頭に浮かんでは来るものの、すべてが無責任で無神経な言葉に思えた。こんなんじゃ、とても失礼じゃないかと感じた。

 日本語で歌詞を書き、日本の人たちの心を動かしたいと、活動してきたというのに、一番大切だろうこのときに、日本にいないことを恥ずかしく思った。

 僕は軍の中にいて、外へも出られず、何もできない。ただ“想う”ことしかできない。日本にいれば、特別なことができたとは思わないけれど、歌うことはできただろうし、何よりも近くにいれば、みんなが抱いた痛みをもっと理解できたはずだから。

 なぜ、今だったんだ。なぜ、僕が軍隊にいる今だったんだ。

 心の中が大きな悔しさで支配される。

「日本で僕を支えてくれたファンの人も、今回の震災で心を痛めている。だから、メッセージを送りたいんです。電話をかけさせてください」と上官にお願いして、電話をかける許可をもらった。そして、悩みに悩んで、書き終えたメッセージを、韓国語で父に伝えた。それを韓国在住のスタッフが日本語にして、日本へ届けてくれた。いくら上官がこころよく承諾してくれても、東京へ電話をかけることへの許可をもらうのは遠慮した。たくさんの人の協力を得て、ファンへ“想い”を届けられたことで、少し気持ちが落ち着いた。

 

 軍楽隊には空きがないという話だったが、結果的に僕は軍楽隊に所属できることになった。3月17日に軍楽隊へ移動し、少しだけ電話をかけることもできるようになったので、友達やスタッフに自身の葛藤を聞いてもらうこともできた。

 そして、サッカー日本代表の長友佑都選手が、僕がET─KINGといっしょに作った「この歌を……♪」の歌詞を、被災地へのメッセージとして、ご自身のブログで紹介してくれたという話をスタッフから聞いたときは、本当に嬉しかった。軍のインターネットで実際にブログも見させてもらった。日本代表の中でも大好きな長友選手が、ワールドカップ南アフリカ大会のときも「この歌を……♪」を聴いてくれたという事実も紹介され、驚いたが、そこに書かれた自分の歌に励まされる思いがした。

 僕が今歌えない僕の歌を、長友選手が日本へ届けてくれた。


*  *  *

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