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2008.10.15

第十八回

モヤモヤ育児雑誌クルーズ(1)「プレジデントファミリー」

堀越 英美

モヤモヤ育児雑誌クルーズ(1)「プレジデントファミリー」

 前回「男のアウトロー育児」でパパさん向け育児雑誌を取り上げたところ、知人のパパさんたちから「プレジデントファミリー」の存在を教えてもらった。

 2005年にビジネス誌「プレジデント」の別冊として創刊。「頭のいい子の親の顔~徹底調査! 東大生100人の小中学校時代」「頭のいい子の生活習慣~灘中学、全1年生を徹底解剖」という学歴を前面に押し出した特集が大当たりし、1号、2号ともに22万部以上を売り上げて月刊化が決定。育児&教育誌では異例とも言えるヒットに、出版界も騒然となったようだ。

 私だって出版業界人の端くれ、そんなに売れている育児誌があるなら、ちょっとのぞいてみたい。そしてあわよくばうちの子も勝ち組に……。何冊かバックナンバーを取り寄せて研究してみることにした。

 一読、思ったのは必ずしも「お受験雑誌」ではないということ。中学受験ネタが多いとはいえ、取り上げられている子どもたちはジュニアスポーツ選手に子役、作家の卵とけっこう多彩。有名大学とはいえない大学が紹介されることも多い。その場合は、「どんな家庭環境で育ったのだろう『2流大卒内定王』の親の顔」(2007年11月号)とあるように、ビジネス界で通用するかどうかが評価の基準となる。実業家でもサラリーマンでも医師でもスポーツ選手でも俳優でもなんでもいい、要は金を稼ぐ子になってほしい、ということなのだろう。創刊号のインタビューの人選が横峯パパであることからも、それが伺える。

 年収1000万円超の父親+専業主婦の母親という家族モデルを想定した記事が大半だが、対象読者は勝ち組ばかりでもないらしい。「年収500万円でも大丈夫!? 解決! 教育費の悩み」(2007年3月号)、「特待生、兄弟割から株主優待、新聞奨学生まで『お金がかからない』塾通いの裏ワザ」(2007年8月号)、「拝見! 隣の家計簿 節約も限界。夫の小遣いを減らしていいか」(2008年9月号)と、庶民に優しい企画もチラホラ。

 少ないコストでより多くのリターンを。おお、まるで投資の話みたい。いや実際、プレジデント父さんにとって子どもとは、不動産と同様の収益物件なのかもしれず。投資対象としての不動産の価値が目減りしてきた今、まだしも子どものほうが投資のしがいがあるともいえる。「プレジデントファミリー」のヒットの理由が見えてきた。してみると中学受験とは、手数料は高めでもそれなりのリターンが期待できる運用効率のいい投資信託みたいなものかしら。プロゴルファーへの道をバクチとするならば。あ、そういえば横峯パパって(以下略)。

 カネがプレジデント父さんの最大の関心事だとすれば、娘の問題は少々やっかいだ。2007年度の民間給与実態統計調査によれば、給与所得者の平均は男性542万円に対し。女性は271万円。年収1000万円超の給与所得者は男性7.8%に対し、女性は0.9%。つまり、娘にはヘタに高い学歴をつけて働かせるより、高収入の夫と結婚する道を選ばせたほうが、効率がいいということになる。

 というわけで、「大学対決! 人生、安泰なのはどちら?」(2006年10月号)で唯一取り上げられている女子大対決は、ずばり「稼ぐ夫を掴まえられるのはどちらか 津田塾大学vs東洋英和女学院大学」。わあ、身も蓋もない。曰く、「彼女にしたくない女子大ランキングで上位」で大学院進学率が高く、「高すぎる学歴は結婚の足かせになることも」ある津田塾よりは、「親のコネでいい会社に入り、職場でいい旦那さんを見つけて寿退社というパターンも多」く、女子アナを多く輩出して男受けのいい東洋英和のほうに軍配が上がるという結果は、まあ想像通り。しかし東洋英和に進学したから得られるメリットというより、その子が元々持っている資質じゃないですかね、親のコネとか美貌とかは。

 特集「嫁にいける娘、いけない娘」(2006年10月号)はさらに露骨だ。のっけから「仲良し家族は負け犬の温床」、つまり家族が居心地が良すぎると娘が家から離れたがらず、嫁にいけなくなりますよ、と脅しが入る。これまでさんざん暖かな家庭が優秀な子どもを作ると煽ってきたのに、まさかの仲良し批判。息子がいるときは仲良く、娘がいるときは険悪になればいいのだろうか。両方いるときはどうするんだ。笑いながら殴り合えばいいのか。そうかと思えば、「女性も手に職をつけ、経済力を結婚に求めないことも必須。コミュニケーション能力や人間関係の耐性を持つことも基本条件です」とプレジデントらしい提言も。ところが「現実的には、女性の稼ぎを頼りにする男性を寄せつけてしまうことも」あるので、娘に経済力をつけるのも考え物らしい。娘が結婚に対して幸せなイメージを持てるよう、「両親が家族としてではなく、男女として支え合うような結婚のモデルを見せるのも望ましい」が、「『仕事にも家庭にも熱心な』レベルの高い父親を持つと、結婚相手に対する要求も高くなり、相手が見つかりにくくなる」ので、父親が素晴らしすぎてもよくない。プレジデント父さんはいったいどうすればいいの……。結論は「結婚ばかりが幸せではない」。あ、特集意図ぶん投げた。

 教育のつけすぎで困るのは、娘の結婚問題ばかりとは限らない。賢くなった子どもが、教養のない銭ゲバ父さんを軽蔑する可能性だってある。クリスマスシーズンに向けた2008年1月号の特集「考える子が育つ贈り物」でフィーチャーされるのは、大学教授80人のクリスマスプレゼント事情。知的なプレゼントで子どもに尊敬されようという魂胆だ。「天体望遠鏡」(津田塾大学学長)、「偉人伝」(東京学芸大学学長)あたりはいかにもという感じだが、「17世紀のデルフト製アンティークタイル」(文学研究科教授)、「布製野外調査鞄」(京都大学総合博物館教授)に至っては、知的すぎてプレゼントなのかイヤゲモノなのかわからない。企画意図を汲まずに、「嵐のコンサートチケット」と自由な回答をする学長もいる。一方、「娘が今、心の底から喜ぶもの」では、ナルミヤをはじめとする女の子が好きな服のブランドマップを用意。息子には知的グッズでガリガリ勉強してほしいけど、娘は多少色気づいてもらわないと嫁に行けないかも……と不安なお父さんのために考え尽くされた特集と言えよう。

 有名中学合格者の家庭訪問は同誌の十八番である。これがコマッシャクレ児童萌えの私としては愉快で仕方がない(第5回「駅の名前を全部言えるようなガキ」に育ててみたい! 参照)。桜蔭中学に合格した西条さんは、「少女漫画は『つまらない』と読まず、ギャグ漫画一色。受験直前でも読んでは、家族で“ギャグ論戦”。家族のコミュニケーションツールに」(写真はサラリーマン4コマ『かいしゃいんのメロディー』)。筑波大付属駒場中学に合格した孝訓くんは、なぜか大道芸をマスター。「昨夏は『ロード・オブ・ザ・リング』にハマった孝訓君。ストーリーを真似た脚本を書き、弟を主役に、母にはカメラを回してもらい、自主映画を作ってしまったとか」。開成中学に合格した高安くんの場合は、「本棚にはブルーバックスの本が並ぶ。(写真は『史上最強の論理パズル』、『マンガ微積分入門』)『微分積分なんて難しくない?』と聞くと、『今は意味とかわからなくったっていいんですよ』」。

 ああ、いい具合にコマッシャクレてる~。我が子がこんな面白チャイルドに育つならば、私も中学受験に血眼になってゆきたいくらいだ。もっとも「文化系=人生の落伍者」という抜きがたいイメージがあるせいか、他の教育雑誌に比べ文化系の特集が組まれることは少ない。「頭のいい子の本棚拝見!」(2008年4月号)は数学・科学の本がメイン。文学作品が取り上げられるとしても、「入試に出やすい小説を見つけた!」(2008年1月号)という切り口で、あらすじすら触れない。寂しい限りだが、文化にかまけて経済活動に疎い文化系を山ほど知っているだけに(自分含め)、まったくもって正しいアプローチと言えるだろう。

 だが、果たしてそんな風に育てられた難関中学生が読む本とは? 2006年9月号に掲載された「2005年度有名校図書館貸出ランキング」を見てみると、

灘中学・高校
1.『零崎双識の人間試験』(西尾維新)
2.『野ブタ。をプロデュース』(白岩玄)
3.『戦国自衛隊』(半村良)
4.『クビツリハイスクールー戯言遣いの弟子』(西尾維新)

桜蔭中学・高校
1. 茅田砂胡(『デルフィニア戦記』や『スカーレット・ウィザード』など)
2. 田中芳樹(『アルスラーン戦記』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』など)
3. 星新一
4. 甲田学人(『断章のグリム』『Missing』など)
5. 時雨沢恵一(『キノの旅』『アリソンとリリア』など)

 男女ともガッチガチにオタクやんけ! 難関中学はオタクと腐女子の巣窟って、本当だったんだなあ。これぞまさに親の心子知らず。 

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