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2009.02.15

第二十五回

「『Cam with me』の憂鬱モヤモヤ」の巻

堀越 英美

「『Cam with me』の憂鬱モヤモヤ」の巻

 1月の半ば、ハンディカムのプロモーションサイト「Cam with me(カム ウィズ ミー)」が「泣ける」とネットで話題になっていた。

 娘の成長をハンディカムで追いかける父親の気持ちを疑似体験できるFLASHサイトらしい。はじめてのおつかいだろうが劇場版クレヨンしんちゃんだろうがカルガモの行列だろうが、親子モノに目がない感動乞食の私はさっそく食らいついてみた。

 が……涙腺がぴくりともしない。どころか、正か負かでいえば明らかに負の感情がこみ上げてくる。なんだろうこのモヤモヤは。

 娘の成長に合わせて「REC」ボタンを押すと、娘がピアノを弾いたり家事の手伝いをしたりといったシーンを疑似撮影することができ、最後の結婚式でそれらがまとめて流される。よくできているFLASHだと思う。モデルとなっている娘は、ずっと黒いロングヘアに膝丈スカートで、ギャルにもならず腐女子にもならず、大人になってペディキュア塗っている姿を父親に撮影されてもイヤな顔一つしない。晩婚化の風潮もどこふく風、26歳で結婚してすぐに出産。まるで三井のリハウスガールを延べ棒でのばしたみたいな人生だ。

 まず真っ先に思ったのは、「こんな娘じゃなくてどうもすみません」ということ。美人じゃないし結婚は30過ぎだしそれ以前に人生いろいろ寄り道しすぎだし。もし私の結婚までの人生をモデルにFLASH化したら、ピアノの代わりにマイコンに夢中だわ、寝っ転がって本ばかり読んでるわ、成人式も大学の卒業式も結婚式もないわ、挙げ句尺は長いわで、さぞ地味な仕上がりになることだろう。自分がこんな有様であるから、娘が三井のリハウスガールのように育つなんて夢にも思えるはずもなく、親として感情移入するのも無理。

 なぞとtwitterに書き込んでみたら、意外にも知人のパパさんたちから賛同を得られた。彼らもあまりあのサイトが好めないらしい。曰く「キレイすぎ」「友達とのショッピングまで撮るなんて、誰目線やねん」。休日にビデオを撮るだけでなく、何年間も積極的に育児に携わっている父親たちからすれば、現実とのギャップのほうが気になるのだろうか。

 では、どんなビデオだったら親として現実味を感じられるだろう。11歳でアニメの美少年に入れあげてコミケデビュー? 13歳でネットいじめにあってリストカット? ビジュ系バンドの追っかけでゴスロリに? 大学受験失敗でインドに自分探しの旅へ? 連れてきた婚約者は売れない劇団員? 生活苦に耐えかねて30で出戻り? ……リアルかもしれないが、誰も感動してくれなさそうだ。娘がブスだったりデブだったりした日には、そもそも見向きもされまい。

 でもさあ、と我の強すぎる1歳児にすでに手を焼いている母は思うわけです。品行方正な美しい娘じゃないと感動しないなんて、親の愛ってそんなものなんだろうか。そういえば、「泣けた」というコメントの洪水に混じって、「美少女育成シミュレーションゲームみたい」というコメントがちらほらあった。確かに「泣ける」と評判のギャルゲーや、純愛小説のヒロインみたいである。ゲームならいいが、生身の子供の場合は萌えないからといって燃えないゴミに出すわけにはいかない。

 こんなことばかり言っていると「人の感動に水を差すな」と怒られそうだが、ついゴチャゴチャ言いたくなるのは、自分自身が妊娠中に上記のような葛藤を感じていたからかもしれない。子供がブサイクだったら、ちゃんと愛せるのだろうかと。私がペンギン萌えなのは造形がかわいいからで、ペンギンの見た目がヒキガエルだったら、ちっともかわいいと思わないだろう。とはいえヒキガエルだからかわいがらないなんて、生まれてくるヒキガエルが不憫じゃないか。しかしヒキガエルをかわいがる親の心持ちとは、いったいどのようなものなのであろうか。ああ、私ときたら生む前から親失格。はたから見ればほぼノイローゼである。

 果たして生まれてきた子はヒキガエルではなかったが、むろんペンギンでもなく、萌えるか萌えないかでいえば、おおむね萌えない。「イヤ~小麦粉をばら撒かないで~」「オムツ脱いだ瞬間におしっこしないで~」「食べこぼしをテーブルになすりつけないで~」「ガラスの食器を投げないで~しかも母の足の上に~」「書きかけの原稿に勝手に書き足さないで~」「お財布を散らかさないで~そして現金を破らないで~」「笑いながら母に頭突きしないで~」「ていうか早く寝て~」。やることなすことかわいくないことばかり。

 それでもかわいいと思うことは時々ある。それはたとえば、保育園のお迎えに行ってだっこしたときの口の臭さだったり。子育てとは、思いも寄らない萌えツボを開発されることの連続だ。育児マンガでも、「うちの子は従順で見た目も美しくてかわいいわあ」という描写など見たことない。単なる自慢は面白くないから、という理由もあろうが、実際に育児中の人間は、ワガママだったり薄汚かったりおバカだったり、大人なら取り繕うはずの欠点がだだもれなところに子供のかわいさを見いだしているのではなかろうか。

 とはいえ、子持ち女性で感動している人は見あたらないものの、「うちにも子供がいるけど」と前置きして感動を表明しているリアル父さんを何人か見かけたので、子の有無は感動に関係しないようだ。もしかして母と父とでは萌えツボに違いがあるのだろうか。最も身近にいる「娘を持つ父親」であるところの夫に聞いてみた。

「Cam with meって見た?」
「見たよ」
「感動した?」
「?いや別に」

 あまり参考にならなかった。しかしあれで感動するような人だったら、結婚相手として私を選ぶわけもないか、と妙に納得。思うに、あのプロモーションサイトが言外に語る「常に長い黒髪にスカートで美しくおしとやかに、華美すぎない程度におしゃれに気を遣い、勉強はときどきする程度でかまわないから家の手伝いはしっかりして、親には決して反抗せず、大学進学してカタギの職についてから20代中盤あたりで結婚して、20代のうちに子供を産むのが理想的な女の子の人生。そうでしょ?」というメッセージに「?いや別に」とならない人だけが感動できる仕組みなのかもしれない。しかし、「結婚するもしないも、子供を持つも持たないも自由」「世間体よりも自分らしく生きるのが一番」というリベラル風のお題目は、大多数の感動の前では無力なのだなあ。これが私が感じた負の感情の正体なのだろうか。

 娘はいまだに乳が恋しいのか、ときどき母の胸元に手を差し入れて乳をもみしだきながら「うへへ」と笑う。リハウスガールというより明らかに谷村新司寄り。我が子をひしと抱きしめて思う。こんなヨーロレンサンダーな娘がこの先保守的な日本社会でやっていけるのかと。「ぐへへへ」やめて母の髪の毛をひっぱってボンバヘッドにするのはやめて。……この図々しさなら大丈夫か。 

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