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文化系ママさんダイアリー

2009.09.15 公開 ツイート

第三十八回

「魔の2歳児とダイエット」の巻 堀越英美

「イヤ! じぶん!」
「イヤ! ズボンきらい!」
「お母さん、やる!」

 イヤイヤ期がついにきてしまった。上記はズボンをはかせようとした母親に腹を立てて自分でやると奪い取るも、足を2本とも同じところに入れて抜けなくなってかんしゃくを起こし、お前の仕事だろうと母親にズボンを押しつけるという毎朝の情景を娘の言葉のみで表現したもの。2歳になるあたりで自我が芽生え、親の言う事に何でも反抗するようになるというイヤイヤ期(第一次反抗期)、通称「魔の2歳児」についてはさんざん聞かされていたけれど、なるほど面倒臭いものである。

 しかし皆一律にイヤイヤ言うだけなんて、そんな没個性的な自我でいいんだろうか。自我の芽生えというからには、「髪をツルッパゲにしてヘアヌード写真集出版」「ゴアテクノパーティでバキバキのDJプレイを決めたあと薬物中毒で逮捕」「ハリウッド俳優になるとブログに書き残してアメリカに皿洗い修業の旅へ」等々、アイドルの皆さんみたいに色々あってもいいんじゃないか。

 いや、娘の反抗期にも個性があった。それは大食らいだということ。2歳前後の悩みといえば、「急に食欲がなくなって小食になる」というのが定番らしい。育児書には「小食になっても成長の過程だから気にするな」ということは書いてあっても、大食にどう対処するのかという項目はない。たぶんあまり需要がないのだろう。もともと断乳してから米を中心によく食べるようになった我が子。野菜のおかず単体ではなかなか食べてくれないけれど、細かく刻んでご飯に混ぜれば食べる。あくまで好物はご飯なので、ご飯の割合より副食が上回ったら手を付けてくれない。毎日丼メシを食べているようなものだ。2歳になると好き嫌いがよけいにはっきりしてきて、気にくわない副食はよけて米ばかり食べてしまうし、納豆好きになったら朝も夜も納豆ばかり。要求された好物を与えない限りはどんな料理を出しても「イヤ! これキライ!」と手を付けようとしない。とはいえ病気もしないし、かけがえのない個性、すくすく伸ばしてあげたい……と乞われるままにご飯を与えていたら、身体計測でカウプ指数17.4をマーク。ついに「太り気味」認定されてしまった。

 同年齢の他の子を見渡してみると、確かにうちの子だけでかい。というか、スケール感が違う。赤ちゃん時代はかわいいと言われていたゆるふわカールの髪も肩の下まで伸びて、小泉チルドレンに紛れ込んだ大仁田厚の様相に。この個性、いるだろうか。保育園の送りを担当している夫から聞いた話も気がかりだ。娘と仲良しのハーフの美少女がいるのだが、彼女が朝登園すると、クラス中の男子がわらわら柵のところへ近寄ってくるらしい。娘はというと、3~4人集まる程度。まさに邪道(女として)。クラスメートから大仁田コールされる前に、標準サイズに戻してあげたほうがいいのかも。

 食物の総量を減らすと魔の2歳児が食い物の怨みで魔太郎と化すので、米食系女子から草食系女子への転換を図る方向性でダイエッとを考えたい。野菜を大量に食べさせたいときの鉄板メニューは、ポタージュ、野菜カレー、お好み焼き、かぼちゃの煮付けあたり。野菜鉄板メニューの拡充が望まれる。離乳食レシピ本で討ち死にした失敗を踏まえて、市販のレシピ本ではなく主婦の集合知サイト「クックパッド」に頼ってみようと思う。レシピ投稿サイトとしては最も有名なので今更説明の必要はないかもしれないが、このサイトのありがたいところは、レシピの人気の基準が「○○が嫌いな子供(夫・彼氏・義父母)もモリモリ食べてくれました」といった家族ウケ前提のところ。味が濃かったり、何かというとツナマヨコーンを混ぜ込んだりと上品さにはほど遠いが、栄養士が栄養バランスガイドに基づいて考案したレシピと違って、子供ウケという点ではハズレがなさそうだ。

 さっそく旬の食材「オクラ」の人気検索で7位にランクインしている「Mr.オクラ」を作ってみた。オクラ主体のチヂミみたいな簡単料理だが、「もっと! もっと!」と夫の分までたいらげてしまった。やるな、Mr.オクラ。しかしこのあとマグロのトマト煮をご飯にかけたものをいつも通りペロリと完食し、さらに食後にヨーグルトとブドウを所望。野菜を食べたからといって、ご飯の量が減るわけではないらしい。米は別腹ですか。

 それなら運動で脂肪を燃焼させようと、保育園の帰りに公園に寄って暗くなるまで遊ばせることにした。5時半過ぎの公園なんて小さい子はいないんじゃないかと思ったが、日中の暑気を避けるせいか、同じく保育園帰りなのか、夕暮れ時の公園は子連れがけっこう多い。昆虫好きの娘は、セミ捕りに明け暮れる幼稚園~小学校低学年の男子の後を追いかけ回して運動を満喫している様子。母娘で男子たちと仲良くセミトークするうちに、挨拶したり一緒に遊ぶ親子ができて、いわゆる公園デビューをようやく果たすことに。週末に大きな公園に行くだけでは、ママ友を作れないのは当然なのだった。

 そして娘も、公園で気になる男子を見つけたらしい。彼女の初恋の相手は、いつも美人のお母さんと一緒にいるイケメン1歳児。彼らを見つけると、すかさず走り寄って「こんにちは!」を連呼する。でも悲しいかな彼は1歳児。他の子どもに興味がないのだ。無口な草食系男子がマイペースであちこち歩き回るのを、トコトコ追いかけ回す米食系女子。彼の前で鉄棒ができることをアピールしても、彼はつれないそぶり。そのさまは長州力にタッグ結成を呼びかける大仁田厚のようで、なんだかせつない。

 あるとき1歳児が頑として靴を履こうとせず、お母さんが困っていたので、「わ、その靴かっこいいね~!」と大げさに手を叩きながら褒め称えてみた。娘もつられて「しゅごい、しゅごい」とニコニコしながら手を叩く。すると1歳児はまんざらでもない顔で、素直に靴を履きはじめた。娘よ、草食系男子の落とし方はこうなのよ。強さをアピったり追いかけ回したりするのは逆効果なのよ。ダイエットより小悪魔テクでも教えたほうが娘のためになるような気がしてきた。次の小悪魔レッスンは「いくらイヤイヤ期でもイヤは2回まで」。イヤイヤ期も恋の大仁田劇場も、まだ始まったばかりである。なんだこの締め。 

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フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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