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文化系ママさんダイアリー

2009.10.01 公開 ツイート

第三十九回

「オカン工作に挑戦~びんぼうキッチンを作る」の巻 堀越英美

 ある休日の朝。娘が惰眠をむさぼる夫の腹の上にハンドタオルをかけながら、何やらブツブツつぶやいている。

「おとうさん、ねんねよ。ここでまってて? おやすみ。おしりいたかった? いたいいたいのとんでけー。あ、おトイレ。はいありがと」

 応答もないのによく1人で会話が続くナアと思いながらながめていたが、ふと、これは「おままごと」をしているつもりなのかもしれないと気がついた。ぼんやり子育てしている間に、ロールプレイができる月齢に達していたらしい。うちにはお人形がないから、ちょうどいい具合に転がっていた父親を人形代わりにしているものと思われる。おままごとの道具も、そういえば我が家にはなかった。そろそろ買ってあげるべきかしら、おままごとセットとお人形。

 さっそく「おままごと」でオンラインショップを検索してみると、あるわあるわ、子どもが喜びそうなおままごとキッチンの数々。ところがオカン的に胸がときめくおしゃれなカラーリングの木製キッチンは、例によって数万円クラス。通販で買った我が家の椅子セットより高いじゃないか。とはいえ数千円で買えるプラスチック製のキッチンは、どれもこれも色味が毒々しい。小さなおもちゃならいいが、狭い部屋の中で少なからぬスペースを占めると思われるだけに、ショッキングな物体はなるべく避けたい。

 同じような思いを抱える節約ミセスが多いと見えて、検索してみるとおしゃれな木製キッチンを手作りしているママさんブログがたくさん見つかる。どうやら「おままごとキッチン」は、オカンアートならぬオカン工作の定番テーマであるようだ。いずれも大工仕事は初めてと謙遜しながら、なかなか本格的なできばえ。中にはLEDでガスコンロの炎が光るように工作しているものまで。娘の誕生日に備えて何週間もかけて丁寧に作ったという人も多い。うーん、そこまでやる気はないんですけれども。材料費もかかりそうでハードルが高い。

 さっそく挫折しそうになっていると、段ボールでおままごとキッチンを作っているブログをちらほら見かけた。これなら不器用な自分でもできそう。折しも通販でたまった段ボールをそろそろゴミに出そうと思っていたところ。工作なんて中学校以来だが、失敗してもどうせゴミに出すものと思えば、気楽に取り組めそうだ。

 ママさんブログの写真を参考にしながら、手元にある段ボールを組み合わせてみて、おおまかな段取りを妄想する。いくら行き当たりばったり工作でも、デザインのテーマは決めておきたい。オカン工作といえば、キャス・キッドソンはどうだろう。最近発売されたブランドムックがオリコンの週刊本ランキングで書籍総合1位を獲得するほどの人気を誇る英国雑貨ブランド。確かにかわいいのだが、おおぶりなローズ柄に水玉の組み合わせなど、時折オカン魂を感じてしまうのは私だけだろうか。そんじょそこらにあるおばちゃん向け包装紙や100円ショップの布を貼り合わせれば、どうにか真似できそうな気がする。

 しかし近所でさまざまなラッピングペーパーや布をチェックしてはみたものの、どう組み合わせてもいたたまれない感じに。キャス・キッドソンのかわいさというものが、きわめて繊細なバランスの元に成り立っていることをようやく理解した。ブリティッシュオカン魂、侮りがたし。もとよりかわいい布や紙を扱っている専門店に行けばいいのだろうが、いずれはゴミ箱行きとなる段ボール工作にそこまでするのも気が引ける。

 所詮は廃品工作。デザインでヤンチャをもくろめばもくろむほど火傷をしそうな気がするので、テーマは「びんぼう」に変更しようと思う。できうるかぎり廃品を利用するのが唯一のルール。

 ということで、完成した「びんぼうキッチン」がこちら。定規も使わず目分量で切ったり貼ったりしたせいで、あちこちガタガタでだいぶ危ういが、転がっている父親とタオルでおままごとができる娘の想像力をもってすれば、これで十分だろう。「抱かれたい段ボールキッチンランキング」というものがあるとしたら、キムタクはムリにしても、加瀬亮くらいのポジションにはいけるんじゃないかと自負している。

びんぼう解説
・コンロ…履かなくなった黒ストッキングをかぶせた6Pチーズの箱。
・シンク…ユニクロのヒートテックの包み紙を貼り付けたお中元の箱。
・扉の取っ手…靴下を買ったときについてきたハンガー。
・蛇口…ベビーソープのポンプ。
・鍋類…100円ショップで買った本物の台所用品。小鍋は計量カップ。おままごとに飽きたら母が使います。
・吊されているおたま…折れてしまった母の計量スプーン。
・びん…たぶんジャムなどが入っていたもの。拾ってきたドングリ入れに。
・プラスチックボトル…乳酸菌飲料「ラブレ」の容器におはじきを入れた赤ちゃん用ガラガラ。これ自体すでに2次利用であるのに、さらに再利用。どこまでラブレを食らいつくすつもりなのか。
・刷毛的な何か…フライパンに油をひこうとしたら溶けたので娘にあげることにした。

 シンクの下はおままごと道具になりそうな用途不明のおもちゃ類を収納。左奥にあるのは置き場所に困っていたスパイスストッカー。一番下の箱はダイソーで売られていた偽キッドソン風味のティッシュケース。紙皿に丸シールを貼り付ければ偽キッドソン風味になるかと思い挑戦してみたが、特にどうにもならなかった。引き出しはもちろん、お中元の箱に穴をあけて取っ手をつけただけである。

 ダイソーのカフェプレートとミニスパチュラを、まな板と包丁に転用。ままごと用の木製野菜もダイソー製品。ママさんたちが群がっていたので、かなりの人気コーナーとみた。おもちゃ屋で買うと1個数百円くらいしますからね。

 あとは人形か。こればかりは母の手にあまるのでおもちゃ屋に連れて行き、リアルなおままごと用の人形を見せてみた。しかし「いや!これキライ!」と全面拒否。それなら仕方がない。父母の私物でおままごとをしていただこう。

 会社員時代、同僚からもらったハロのミニテーブル。遙かな時を超えておままごと用品として復活である。アッガイさん(プラモデル)には、アッガイ好きの私のためにイラストレーターの知人が作ってくれたアッガイカップを持たせてみた。奥は日ハムファンの夫の私物である「ファイティー君」。左は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』に登場する殺人ウサギ。殺人ウサギだから人参は食べないような気がするが、だからといって人形を置くのは情操教育上よろしくなかろう。もう少し娘の口が回るようになったら、ヤマネのぬいぐるみとティーポットを買ってきて、「キチガイお茶会」ごっこをやってみたいものだ。もちろんティーポットにヤマネを押し込むのである。なんのおままごとだ。

 出来はともかく、使う当てもなく保存しておいたブツが役に立って貧乏性の母としては気分がいい。乗り物のDVDを見せろとうるさかった娘も、保育園から帰るなりままごとにくびったけ。私がご飯を作っている間も、「おやさいたべましょうねー。もぐもぐよ? ぎゅうにゅうどうぞー。アチチよ」などと1人で大盛り上がりだ。市販のおもちゃはすぐに飽きる娘だが、びんぼうキッチンなら生活用品のゴミが出るたびにままごとツールが増えるので、しばらくは興味が続くだろう。100円ショップでちょっとずつ道具を増やしていける楽しみもある。いずれは冷蔵庫や電子レンジ、お店なども段ボールで作れそうだ。器用なママさんやかわいい紙・布を集めているようなセンスのいいママさんだったら、いっそ抱いてくれというようなキムタク級段ボールキッチンを作れるはずなので、ぜひトライしてみてください。 

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フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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