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2011.12.15

その68

幼稚園に行こう!

望月 昭/細川 貂々

幼稚園に行こう!

 毎日一緒に暮らしていると、つい見逃しがちになってしまうのだが、息子は着々と成長しているようだ。トイレに関する粗相も、もうほとんどない。ただ、電車に乗っている最中に「トイレ……いやあ、なんでもないなんでもない」とワザとらしいことを言うときがあって、なんでもないと言っていても、いかにも動きがソワソワと怪しくなる。それで、途中で下車してトイレに行くと、たっぷりと出るのである。
 だからといって、乗り換えのときに「トイレ行っとく?」と訊いても「いかない」とそっけない。用心のために行っておくという考え方ができないだけではない。どうも「たっぷり溜めて、たっぷり出す」ことに喜びを感じている様子が伺えないでもない。

 体重はようやく12キロに到達した。ベビーカーの制限重量が13キロなので、そろそろ使用が憚られる数値だ。歩いて5分の駅前までは、とりあえずベビーカーなしでも往復できる。だけど、それを越える距離になるとすぐに抱っこや肩車をせがむ。遠出をするときは、眠気を覚えて寝てしまったりもするので、ベビーカーはまだ必需品。時間がないときとか、息子をベビーカーに拘束して疾走したいときもある。また、時間的な問題ではなく、距離に問題のときも。大人の都合が優先されてしまうときは、やっぱりまだベビーカー。

 息子は依然として絵を描かない。色鉛筆のセットを相棒から譲り受けたが、スケッチブックのページをゴリゴリと塗りつぶすだけ。だけど、先日、朝食のシリアルを食卓の上にこぼしたものを手でそっと並べながら「ちょうちょだ、ちょうちょ。こんなふうにすると、カブトムシ。こんなふうにすると、カマキリだ」とぶつぶつ言っているのを見かけた。
 それは確かに、蝶、カブトムシ、カマキリにも見えないこともなかった。色鉛筆という画材はまだ使いこなせなかったけど、朝食シリアルのような素材を使って、彼の中でお絵描きが始まっているのかもしれない。まあ、食べ物で遊んじゃいけませんと言うしかないけどね。

 少しずつ成長が見られる息子なんだが、あいかわらずほとんどの時間を家で親と過ごす日々が続いている。テレビに向かって手を振って話しかけたり、カメやカエルに話しかけているときもある。そういうのを見ると、親としてはちょっとつらい。お友達と遊ぶほうがいいんじゃないかって。
 宝塚の市役所で、厚生労働の窓口に行って保育園について相談してみた。保育園はやはり待機児童が多いらしい。仕事の状況などで点数をつけて、高い人優先で毎月繰り入れていくとのことだ。我が家の場合は、相棒の不在が多いとはいえ、僕自身の仕事ぶりは褒められたものではない。在宅で、息子にテレビを見せつつコソコソとこなしている。
 保育園はなかなか入れないかもしれないな……それなら、幼稚園はどうだろう?

 今の状況を考えれば、幼稚園通いをするとしても、現況よりはずっとマシかもしれない。そう思って市役所の学校課に行って、幼稚園の質問もしてみた。宝塚市の場合、公立だと四歳児クラスと五歳児クラスのみ。つまり、うちの息子は今三歳児クラスということになるので、対象クラスがない。そのかわり、公立の幼稚園を希望すれば今からでも来年の四月の枠に組み込んでくれるということだ。
 人気があって定員枠がいっぱいの幼稚園もあるが、我が家から通える範囲の公立の幼稚園は、いくつか余裕があるところもある。
「よし、まあ来年四月からでも、いいか」
 とちょっと安心した。父親である僕も、四歳の誕生日を迎えた2ヵ月後から幼稚園に通い出したのだった。僕の場合は、フランスの幼稚園だったから、七月の誕生日の後、九月からだったけど。息子も来年一月末で四歳になって、それから丸2ヵ月後に幼稚園に通うのであれば、ほぼ僕と同じだ。

 そんなことで、まずは「最低でも来年四月になったら幼稚園に入れる」ことを希望に日々の子育てをこなしていこうと思ったのだが、だんだん寒くなってきて、それとともに息子を外に連れ出すのも億劫になってきて、微妙に僕自身の仕事の負担も溜まってきて、さらに相棒が何度目かの長期の出張に出てしまった。
「以前と同じような煮つまり方はしないのだ」
 と、今回は託児も積極的に利用し、市のイヴェント等にも参加したりもしてみたのだが、どうも託児や遊び場に連れていくと、連れ戻すときに大騒ぎになる。僕にオモチャのブロックを投げつけて、
「ぼく、もうイヤだ。おうち、かえらない。ここにずっといる!」
 と真っ赤になって怒る。
 無理やりに押さえつけて、上着を着せ、抱えて連れ帰る。あるいはベビーカーに押し込めたりもするのだが。家に着くまでの路上で泣き叫んでとってもタイヘンなのだ。
 なんか、親としてちゃんとやってないような気がする。キョウダイもイトコもいない息子は、今現在、遊び友だちもいないし……。そんなことを考え出すと、やっぱり悩む。
 そんなとき、地元の私立の幼稚園に通っているコドモたちを見た。
 制服を着て、とても元気そうで、しかし礼儀正しい。すごい。息子と一歳二歳しか違わないはずなのに。私立の幼稚園、どうなんだろう?
 宝塚市は私立の幼稚園も充実している。というか、今住んでいるところから徒歩圏内で考えると公立よりも私立の方が数も多いのだ。
 私立の場合は三歳児クラスもある。でも私立は少数精鋭と聞いたこともあるし、途中編入は難しいかもな。そんなふうにも思ったが、ダメモトでもいいやと、片端から電話してみた。そうしたら、その中の一つの幼稚園で、ちょうど三歳児クラスに一名欠員があるとの話を聞いた。これはまさに、渡りに船じゃないか! さっそく息子を連れて、見学に行くことにした。

 幼稚園に行くと、コドモたちが元気そうに遊んでいた。「三歳児クラスはこちらになります」と案内されて、息子を連れて入っていくと、どの子も大きい。えっ、本当に三歳児?
「ぼく、よんさい」
「あたしも、よんさい」
 四歳か、そりゃそうだ。四月に三歳だった三歳児クラスは、年末ともなれば大半のコは四歳になっているのだった。それにしても、うちの息子よりみんな大きい。でも中には、同じくらいかちょっと小さなコもいる。
「ぼくも、よんさいだよ」
 ああ、そうか。見た目からはわからんな。一番大きなコが、息子と同じ早生まれでまだ三歳だったりもする。
「ぼく、ぼく、チートくんです」
 息子は他のコに負けないよう、大きな声で自己紹介をし、それからあらぬことを言った。
「かめんライダー、オーズがすきっ」
 なぜか、うちでは一度も見たことがない「仮面ライダー」のことを言い出した。まあ確かにテレビでは見たことがないが、映画のイヴェントで各地を回っているとき、東映の社員さんに動画配信をこっそり見せてもらっていたのかもしれない。
 オーズ、オーズ、と男の子たちは「おお」みたいにざわめいたが、すぐに女の子たちに「あたし、プリキュアがすきや」
 と一蹴されてしまったのはご愛嬌。でも、わが息子は、すぐに制服を着ている他のコたちの中に飛び込んでいって、一緒になって遊び出したのはさすがというべきか。

 そのあと、事務室で園長先生の面接を受けた。
 息子は机の上にあった百本近いサインペンのキャップを全てはずしてごちゃごちゃにしてしまった。この時期のコドモはみんなそうかもしれないけど、ちょっと目を離していると、ろくでもないことを次から次へとやらかしてくれるのだ。
 幼稚園の一日についての説明を受けた。朝八時半から九時の間に登園。週に二回は給食で、週に二回はお弁当。午後は二時まで。水曜日は午前中でおしまい。
「二時で保育が終了ということは、二時までに迎えに行かなければならないということですか? あるいは、十五分、三十分くらい遅く行ってもいいのですか?」
 こう聞いたのにはわけがある。というのは、公立の場合が二時半となっていたからだ。わずか三十分でも、一年通してとなると、違いは大きい。
 僕の質問に対しての園長先生の答えは、こうだった。
「他の親御さんたちは、だいたい一時五十分に来られて、二時にお迎えとなります。でも、そのあとお母さん同士がおしゃべりしていて、園庭を開放していますので、一時間くらいコドモを遊ばせている方が多いですね」
 むむっ、時間は厳守か。厳しいなあ。
 そして、お母さん同士のコミュニケーションかぁ。そういうものに入っていけるのだろうか、僕。一抹の不安も頭をよぎる。
 幼稚園だとコドモを預かってもらえるのは午前中が中心ということになるのだが、僕や相棒が仕事をしている出版界というのは、早くても正午スタート。正午に打ち合わせをお願いしても、二時に戻ってくるのは至難のワザだったりすることもある。
 なので、例えば今利用している託児所で、お迎えとそのあと託児というサービスもあるので、そういったものを利用する場合どうしたらいいのか、ということについても質問してみた。
 すると、保育園の場合は、あたりまえのように交わされる「仕事の都合で」というコトバが、私立幼稚園の場合はどうやら大きな声では使えないらしかった。
「今までもそういった方は、何人かはいらっしゃいました。でも、うちの園の場合、やはりお仕事を持っているお母さんがほとんどいらっしゃいませんので……」
 例外は認めるが、その場合は、それが例外であるということを自覚して行動してください。と釘を刺されたような感じだ。まあそれは仕方ない。いや、そもそも父親が保育にあたるという我が家のルールが大きな例外なので、その他のことは推してしるべし。
 もっとも、コドモが幼稚園に通うのも、わずか二年とちょっとである。その間はなるべく、周囲に合わせて行動すべきなのかもしれない。いや、そうしてもいいなと思えるくらい、その幼稚園で遊んでいるコドモたちは魅力的だった。元気で人懐っこいのに、礼儀正しいところもある。もちろん、まだ四歳になったばかりだから、理屈も達者じゃないし、上のクラスのコたちと比べるとずっと幼いんだけど。
「保育園のお子さんたちですと、もっとしっかりしてると思うんですけど、うちのはやっぱりやんちゃくればっかりで」
 と園長先生はおっしゃるが、それを言い出せば、うちのはもっとやんちゃくれだ。なにせこの半年以上の間、どこにも通わせず、親の都合で引っ張り回してばかりいた。基本的なことがほとんど身についてはいない。
「どうぞよろしくお願いします」
 と僕は頭を下げた。息子を連れて、事務室から外に出ると、さっき遊んでいたコたちに取り囲まれた。
「えーっもうかえっちゃうの?」
「ぼく、かえらない。ここでずっとあそぶ」
 と息子は主張していたが、とりあえず連れて帰ることにする。可愛い園児たちに見送られて。
「ばいばい、ぼく、またくるね」
「ばいばい」「ばいばい」
 と名残惜しそうに幼稚園を後にした。いや、しかし、幼稚園はすぐに冬休みなので、通うとしても年明けからになってしまうのだけど。いいんじゃないかな、私立幼稚園。 

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