時々ここに登場いたします我が劇団・山田ジャパン。2008年の旗揚げ公演から早10年。10年一昔とはよく言ったもので、ホントあの頃は若くて、私もまだ38歳……あ、若くは、ないか。ま、何はともあれ10年が経ちました。旗揚げメンバーは11人。いろんな人が辞めたり、亡くなったり、新たに入ってきたり、また辞めたり。ホントにたくさんの人や出来事の変化の中、今に至る。そんな感じです。

11月上旬。その10周年記念の3連打公演・第一弾「消去!魔法の絨毯!」がありました。2000年代初頭にあった高収入バイト“出会い系サクラ”。そこで働きながらもがく若者たちと、若者もどきと、出会い系にもがくババアとが織りなす、痛くて愛しい物語。私はもちろん(?)その“ババア”です。サイト内にて“しぐれちゃん”という名前でどんな嘘も信じて恋をするババア“脇本”。愛する“まこと”の「俺、実は宇宙飛行士なんだ」「今乗っていた車が爆発して待ち合わせに行けない」なんて嘘も“しぐれちゃん”は信じる。それをサクラたち皆で見て笑っている。そうしてどんどんお金をつぎ込む。一見かなり痛々しく切ないのですが、実は脇本。全部わかった上で、そのやりとりを楽しんでいた。しかも“しぐれちゃん”以外にいくつものキャラを使って。そんなお話。

“幸せ”って何でしょうね。全部“嘘”ではあるけれど、「所詮は相手が作り上げたものと接するしかないんだから」と言いながらその架空の彼“まこと”と時にキャッキャと、時にねっとりチャットで会話して、恋を楽しむ。そんな脇本は人から見たら哀しいけど、きっと本人はちゃんと“幸せ”な気がする。

そう言えばちょうどこのお芝居の時代の頃。iMacと言うスケルトンのカラフルなパソコンが流行りまして。千川の古いアパートに住んでいた私はホントに貧乏でしたが、バイト代を貯めてオレンジ色のiMacを購入。初めて接する“インターネット”の世界は夢のようで、毎日いわゆる“ネットサーフィン”を楽しんでおりました。そんな時見つけたのが、あの頃なんて名前だったか忘れましたが、たしか“チャットルーム”みたいな。要は知らない者同士(男女)が一対一でその“部屋”に入ってお話をする。課金はなかったのですが、仕組みは出会い系と似ているページにたどり着きまして。緊張は死ぬほどしましたが、そこは若さと冒険心と申しますか。興味の方がガッツリ勝ちまして、いざ参戦。

ちなみに私の名前は“雪乃”。「踊る大捜査線」の水野美紀さんの役名で、本当に美しく哀しく素敵な女性で超憧れ。しかも水野さんのおかげで名前そのものの“美人感”強し。というわけで演じるわけですよ。30歳くらいの“あさこ”が可憐で美しく優しい20代の“雪乃”を。これが自分で言うのもなんなんですが、すこぶる評判で。だってやはりまず“雪乃”でちゃんと綺麗な方を想像していただきまして。そんな“イイ女”が殿方の問いかけに丁寧に、敬語で、優しく答えていくんですよ。ま、正直最初は自分としてはいつも通り普通に言葉を返していたら相手に「こんな所で敬語を使う人を初めて見た」とえらく感動されまして。あ、そうなんだ、と。そこからは“あえて”、より丁寧な言葉遣いにしてみたりして。

そんな私の“チャットルーム”ブームは半年くらいで消え去ります。あの頃は特に深く考えてなかったのですが、今回こういうお芝居という事でこの“チャットルーム”時代を思い出しまして。あの時はどういう気持ちだったのか、自分の胸に手を当てて聞いてみたんですよ。「どうだい? あさこ?」あさこの答えは「楽しかった。」だって相手がどんな人か想像するだけでまずワクワク。そして例えば“裕太サラリーマン27歳”がホントは女性だったり、プー太郎だったり、おじいさんだったり、と“真実”はいろいろ違うかもしれない。でもそこの“チャットルーム”の画面の上では“裕太サラリーマン27歳”が“真実”で。その人が私の事を、正確に言うと“雪乃”の事をですが、褒めてくれる。「素敵です」とか「ホントに優しいんだね」とか「こんな女性に会った事ない」とか。もう一度言いますが、そこにあるものすべてが“嘘”なのも百も承知。でもそれをその瞬間の“真実”として受け取るだけで、誰がなんと言おうとそこには“愛されている自分”がいて。多分そのやりとり中の私は感覚、“美人”だったでしょうし。おこがましいですが変な話、その人と会いたい、とか、お付き合いしたい、とか。そんなのは1ミリもないんですよ、1ミリも。人によっては「むなしくない?」とお思いになるかもですが、私にはそのひとときの“愛され”が嬉しく。それはそれで、“幸せ”でいいんじゃないかな、と。

そんなどこか気持ちもわかる“脇本”をやらせていただいた今公演の劇場・サンモールスタジオ。実は山田ジャパン初期によく使わせていただいていた思い出の場所。更には初期の頃からずーっとお世話になった音響さんに戻って来ていただいたり。キャストもお二人ゲストにお越しいただきましが、ほぼすべて劇団員だったり。衣装も自分でいろんなお店を回り、“安く”て“役にぴったり”の衣装を探したり。いろんな形で“あの頃”を思い出し、初心にかえる公演になりました。そして改めて本当にいろんな方にいろんな形で支えられてきたんだなぁ、と実感。ありがてぇ。来年3月新宿村LIVE、7月草月ホールと山田ジャパン10周年記念3連打公演は続きます。どうぞこれからも山田ジャパンを末永くよろしくお願いいたします。

あ、最後に。今回「配役」の紙の一番上に“脇本……いとうあさこ”とあったせいで、いろんな方に「今回脚本なさってたんですね」と声をかけられましたが、“脚本”じゃない。“脇本”。役名です。あさこからのお知らせでした。

【今日の乾杯】
海老と秋やさいのエビ味噌朴葉焼き、です。どのキーワード切り取っても美味しいのは間違いない。公演終わって最初の一杯。味噌ペロペロでビールゴクゴク。

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いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。全力で働いて、遊んで、呑んで、笑って、泣いて……の日々。ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方の「日本酒ロック」。緊張の、海外ロケでの一人トランジット。酔ってヒールでこけて両膝から出血の地獄絵図。全力の悪ふざけ、毎年恒例お誕生会ライブ。女性芸人仲間の感動的な出産。“呑兵衛一族”の冠婚葬祭での豪快な呑みっぷり。40歳で体重計を捨ててから止まらない“わがままボディ”。大泣きのサザン復活ライブ。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。恒例の、オアシズ大久保さんのご家族との旅行。etc.