大統領選では、民主党優勢のラストベルトで過半数以上、勝つ必要があるが…

 中間選挙は終わったものの、重要州であるフロリダ州の上院選・知事選での票の再集計が行われている。たしかに、米国では票の集計作業がいい加減なこともあり、筆者が受講した共和党保守派の選挙学校のプログラムでも投票結果の不正を徹底的に疑えと教えられている。結果が僅差であれば投票終了後まで抵抗することは共和党・民主党のどちらにとってもセオリーということだろう。したがって、これも十分に予想の範囲内の出来事だ。

2018年中間選挙、トランプ大統領がすでに事実上勝利していると言える、えげつない理由」「民主党を差し切れなかった共和党。民主党は経験不足の新人らと、党の“顔”がいない不安からのスタート」ということで、「アメリカ中間選挙レポート」では2回に渡って将来予測をまとめてきた。

 中間選挙後に「下院敗北は好機」「民主党は下院勝利したものの次の選挙の顔がない」など、米国メディアがこの連載レポートと同じ論調を取ったため、日本のメディアや有識者も同様の分析を繰り返し始めている。現金なものだ。

 ただし、「トランプ大統領の再選可能性は高まった」という言説は、それなりに的を得たものであり、中間選挙後に後出しで発表するには手堅い内容だろう。

 そこで、この中間選挙レポートは「主流なメディアが触れない」独自のポイントから「トランプ再選の死角」についても触れておきたい。

 それはウィンスコンシン州の知事選挙の敗北である。ウィンスコンシン州では共和党現職のスコット・ウォーカー州知事が再選を目指して知事選挙に挑んで敗北した。同知事は茶会(ティーパーティー)運動の旗手として2010年に初当選、2012年に同州労働組合との激しいバトルに伴うリコール選挙で再選を果たしてきた強者であった。ウォーカーは保守派知事のリーダー格の人物であり、2016年大統領予備選挙候補者でもあった。

もともと民主党優勢のラストベルト(製造業地域、青い枠あたり)だが、共和党が今回の中間選挙で勝てたのは、オハイオ州知事とインディアナ上院のみ。共和党にとっては最低水準ラインしか勝ててない。

 

 ウィンスコンシン州は製造業地域のラストベルト(ウィンスコンシン、オハイオ、インディアナ、ミシガン、ペンシルベニア、ウェストバージニアなどの一部)に属する州だ。共和党が2020年の大統領選挙の勝利を得るためには、これらの州のうち最低3~4州は手中に収める必要がある。

 中間選挙のラストベルトの主要選挙で、共和党は民主党にオハイオ州知事・インディアナ上院選挙以外で全て敗北している。オハイオ州知事選挙は穏健派で手堅い知事候補者、インディアナ州上院選挙はペンス副大統領の地元であり、同州らでの勝利は共和党にとって最低ラインの水準のものだ。

トランプ米大統領(左)のそばに立つプリーバス前大統領首席補佐官(中央)(2017年1月、ワシントン、写真提供:ロイター=共同)。ウィスコンシン州の党勢拡大に名を馳せた。

 上述のウィンスコンシン州知事での共和党の敗北はトランプ再選にとっては深刻な意味を持つ。なぜなら、2017年発足当時のトランプ政権はウィンスコンシン州対策に力を入れている州の1つだったからだ。トランプが最初に首席補佐官に選んだラインス・プリーバス共和党全国委員会委員長は、ウィンスコンシン州の党勢拡大に名を馳せた人物であり、その盟友であるポール・ライアン下院議長もウィンスコンシン州の選出議員であった。鉄鋼・アルミに関する関税なども同州に向けた利益誘導策としての側面も大きいものだった。そして、選挙終盤にトランプもウィンスコンシン州の支持者イベントに登壇している。

米議会下院の税制改革法案可決を受けて記者会見するライアン前下院議長(2017年11月16日、ワシントン、写真提供:UPI=共同)。同じくウィスコンシン州の選出議員だった。

 しかし、プリーバス首席補佐官は初年度半ばで強引に辞任、ライアン下院議長は引退表明し、なおかつ鉄鋼・アルミ関税は選挙対策として十分な成果をあげることができなかった。つまり、トランプ政権のウィンスコンシン州死守の目論見は政権運営の過程で崩壊したことになる。元々民主党が優勢な環境にあるラストベルトで、ウィンスコンシン州知事という選挙の要を失ったトランプ政権は大統領選挙における戦略は根本から見直しということになるだろう。

 

「隠れトランプ」などいなかった。2016年はヒラリーの異常な不人気にあやかっただけ

 また、トランプに現職大統領として士気を上げる効果があったとしても、2016年大統領選挙の勝負を決めたとされた「隠れトランプ」の存在も大いに疑問符がつくことになった。NHKは「米中間選挙 “ラストベルト”で民主党が躍進」という記事で、「トランプ大統領の誕生を後押しした「ラストベルト」(略)では……」という説明から始まっているが、これは「隠れトランプ」支持者がいまだいると思い続け、その影響力を事実上前提とした話だろう。

 2016年大統領選挙でラストベルトでは「本当はトランプ支持だが、世論調査にはヒラリーと答えた」とされる「隠れトランプ」支持者が勝敗に大きな影響を持ったという仮説がまことしやかに語られた。しかし、米国世論調査協会が同仮説を否定する検証レポートを発表し、今回のラストベルトの敗北を受けて、同仮説は信憑性を失っている。(実際のところ、得票数を見れば一部地域を除いてヒラリーが敗北した原因は、2012年のオバマよりも著しく投票率が低下したこと(特に有色人種票)、第三極政党(リバタリアン党・緑の党)に票が流れた影響が大きいことは明らかだ。)

 トランプ陣営は「トランプ大統領の集票効果」、民主党は「反トランプの勢い」を強調して、各々上院・下院の成果を誇っているが、それは両者のポジショントークによる側面も大きいだろう。情勢分析の基本は米国政治関係者の言動をデータとして処理して真に受けないことである。2020年大統領選挙に向けたラストベルトの戦いは既に始まっている。

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渡瀬裕哉『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く』(産学社)

トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、その後も情勢分析の正確さから、日系・外資系ファンド30社以上の支持を得るアナリストが、2018年中間選挙、そして2020年米国大統領選までの未来を独自予測。日本への多大なる影響と、対応策について解析・提言。