ネガティブな気持ちは少ない。が決して心地よい訳でもないーー。

「一瞬夢を見ましたね。試合中、いけるんじゃないかって」
 長友はベルギー戦の翌日にそう話していたが、それはあの試合を見ていた誰もがそう感じていた事だろう。
 しかし、その後2点を返されて同点に追いつかれ、ロスタイムでベルギーの伝家の宝刀である高速カウンターで撃破されてしまった。
 3点目を挙げたシャドリに、最後あと一歩及ばずスライディングで滑り込んだ昌子は、全力で走ったが僅かに追いつけなかった目の前の光景がスローモーションで見えたそうである。
 試合後、伏してピッチを激しく両手で叩きつけて号泣する昌子の姿があった。
 あの姿が、日本の気持ちをすべて体現していた。
 敗戦から一夜明けた際に昌子は、
「……明日、またベルギーと試合があるんじゃないかと思ったりして」
 と、ちょっと心配になる程のダメージを受けている様子である。
 ちなみに、ベルギーのGKクルトワはデ・ブライネの彼女を寝取ったという経験があるそうだが、そんなクルトワからデ・ブライネへの「逆NTR(寝取られ)スローイング」からあの高速カウンターが発動されたのは、なかなか趣き深いものがある。

 振り返ってみれば、ハリル解任劇からベスト16に至るまで、波瀾万丈のストーリーが紡がれてきた日本代表。
 理不尽とも思える解任から西野監督就任。しかしすぐさま思うような結果は出ず暗雲が立ちこめ、日本中から何の期待もされないという、監督解任が裏目に出る最悪の状況。
 しかし本番直前の強化試合でスタメンを入れ替えると、これまでとはまるで別チームのように様変わり。
 その勢いのままコロンビアを撃破、続くセネガル戦も敗戦濃厚だという予想を裏切りドローに持込み、ポーランド戦では一転して世界中からバッシングの嵐を受けて決勝トーナメントに進出。
 またしても下馬評不利のなか、まさかの2点リードをしながらも後半ロスタイムで追い抜かれてしまうという劇的で残酷な敗北。
 日本はベルギーとの激闘の末、ベスト16で幕を閉じた。
 このベルギー戦にこそ、ロシアW杯に至るまで一連の日本代表のエンターテイメント性あふれる醍醐味が集約されたような試合だった。

 主将の長谷部は代表引退を発表して、本田も身の振り方はあえて空白にしてあると現役引退も示唆している。
 思えば、2010年南アフリカW杯あたりから本田の「ビッグマウス」と共に日本代表は在ったといっても過言ではないだろう。
 我々はその一言一句に呆れてたり、冷ややかな眼差しを向けてみたり、時には熱く見守ったりと、エキセントリックな事を言って困らせてくる恋人に付き合うような気持ちでこの8年ほど日本代表を見てきた、付き合ってきた。
 そんな時代も終わろうかとしていることに、一抹の寂しさを感じている。
 残念ながらベスト16の壁を乗り越えることはできず、決してハッピーエンドではなかったこのロシアW杯。
 しかしどういうわけか、ネガティブな気持ちは少ない。が決して心地よい訳でもないーー。
 この気持ちは一体何なのか。
 この不思議な余韻は、なにからくるものなのか。
 終わったばかりのいまはまだそれをハッキリと言葉にするものが見当たらないが、いま言えることは、味わい深い不思議な余韻を残した大会だったという事である。
 それはこれから時間の経過と共に分かってくることなんだろうか。
 それとも分からないままの方がいいのだろうか。
 それもよく分からないのである。

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定