フランス語の教師をはじめておよそ30年になる中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、前回に引き続きフランス語の動詞の基礎についてご紹介します。
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とても便利な言葉 c'est(セ)

 さて、これから簡単な文章の習得に入りましょう。ここでいちばん必要になるのは、être の3人称単数の活用形、つまり est (エ)です。

(写真:iStock.com/AlexKozlov)


 さきほど、このest の主語となる代名詞は、人間の男性と男性名詞を受ける il (イル)「彼、それ」と、人間の女性と女性名詞を受ける elle (エル)「彼女、それ」の2つだと申しあげました。

 しかし、なんだか面倒くさいなと思われたあなた、あなたにぴったりの代名詞があるのです。それは、第1章でちょっと言及した ce (ス)です。ce は英語でいえば、it に当たる代名詞で、これ1個で「これ、それ、あれ」を、また、男性名詞でも女性名詞でも指すことができます。

 ですから、「これは~である」「それは~である」「あれは~である」は、全部、主語の ce と、être の活用形である est を組み合わせて使えばいいのです。英語の it is と同じようなものです。

 

 ただし、ce (ス)とest (エ)はかならずくっついて、c'est という形になり、発音は「セ」となります。

 この現象は「エリジオン」(母音字省略)といいます。

 これまで学んだ定冠詞の leと la、あるいは、ついさっきやった je(ジュ、「私は」の意)とか、綴りと発音の規則のところ(第1章)で触れた、te(トゥ、「君を」の意)や、me(ム、「私を」の意)や、ne(ヌ、英語の not に当たる副詞、「~ない」の意)や、de(ドゥ、英語の of に当たる前置詞、「~の」の意)や、このce というような単語は、あとに母音が来ると、みんな l'、l'、j'、t'、m'、n'、d'、c' という形になって、あとの単語とくっついてしまうのです。これが「エリジオン」(母音字省略)です。

 いきなりたくさんの例を挙げてしまいましたが、この「エリジオン」についても、これからじっさいに出てくるたびに注意するので、とりあえず c'est というエリジオンを記憶しておいてください。

 

 さて、c'est の使い方です。

 むかし、ジャズの世界にルイ・アームストロングという偉大なトランぺッターで歌手がいて、彼が「セシボン」という歌を大ヒットさせました。フランス語を知らない世界中の人々が、「セシボン」というフランス語の柔らかい響きに酔ったのです。もちろんルイは英語で歌ったのですが、タイトルとリフレインはれっきとしたフランス語で、c'est si bon と書きます。発音は、より正確には「セ・スィ・ボン」となります。

(写真:iStock.com/Jovanmandic)


 c'est は、さっきもいったように、英語でいえば it is となり、意味は「それは~である」です。

 bon はすでに第2章でやりましたね。「良い」という意味です。その前に付いている si は英語の so に当たります。つまり、si bon は「とても良い」の意味です。

 

 というわけで、「セシボン」は「これはとってもいい」という意味になります。ルイ・アームストロングも英語の歌詞のなかで、「『セ・スィ・ボン』/フランスじゃ恋人たちはみんなそういうのさ」と歌っています。

 初めて憶えたフランス語の文章が C'est si bon.、これはとってもいいですね。

 いうまでもないと思いますが、C'est si bon. はひと続きの文章です。ですから、そういう文章の場合は、最初の文字の C は大文字にして、最後にはかならず .(句点)を打ちます。

「これは~です」とその複数形「これらは~です」

 C'est si bon. の場合、c'est のあとに来たのは、副詞(si)の付いた形容詞(bon)でした。

 しかし、c'est のあとには、形容詞だけではなく、名詞を置くこともできます。その場合、冠詞が必要になります。例えば、

 C'est une parisienne. (セ・テュヌ・パリズィエヌ)

「これはひとりのパリの女性です」

(写真:iStock.com/anyaberkut)


 発音に注意してください。C'est (セ)の本来発音されない語尾の t が、不定冠詞 une の u という母音字にひっぱられ、それとくっついて、「セ・テュヌ」というふうに発音されていますね。これは、発音されないはずの子音が発音されるリエゾンです。

 

 c'est のあとに、不定冠詞の付いた男性名詞が来るときもリエゾンは起こります。

 C'est un travail facile. (セ・タン・トゥラヴァユ・ファスィル)

 C'est un が「セ・アン」ではなく、「セ・タン」とリエゾンするのですね。

 また、travail はすでに第1章で説明した「労働、仕事」という意味の名詞で、facile も第2章で出てきた「簡単な」という意味の形容詞です。したがって、この文章の意味は、「これはひとつの簡単な仕事だ」ということになります。

 

 また、c'est のあとには、固有名詞を置くこともできます。

 C'est Jeanne. (セ・ジャヌ)

「これはジャンヌです」

 フランス人のよくある男性名 Jean(ジャン)には女性形があって、それが Jeanne です。日本では普通「ジャンヌ」と呼ばれています。フランス史上最も有名な少女 Jeanne d'Arc(ジャンヌ・ダルク)とか、映画『死刑台のエレベーター』の主演女優の Jeanne Moreau(ジャンヌ・モロー)とか、日本でもよく知られている女子の名前です。

 しかし、フランス語の発音では、「ジャンヌ」というように鼻にかかることはなく、「ジャヌ」もしくは「ジャーヌ」と発音されます。細かいことをいって恐縮ですが、頭の隅にとめていただけると幸いです。

 

 ここまで、c'est のあとには、形容詞か単数の名詞が来ていました。

 複数の名詞を置いて、「これらは~である」ということもできますが、その場合には、こうなります。

 Ce sont des gâteaux. (ス・ソン・デ・ガト)

「これらはケーキです」

(写真:iStock.com/RuthBlack)


 ce は単数でも複数でもそのまま使えるのですが、être の活用形が、3人称単数のときの est から、3人称複数の sont に変わるわけですね。

 

 それでは、疑問文を作るにはどうするか?

 これがじつに簡単で、語尾を上げればいいのです。

 Ce sont des gâteaux ? (ス・ソン・デ・ガト)

 疑問文を作るには、英語のように主語と動詞を倒置するやり方や、文章の初めにEst-ce que (エ・ス・ク)を置くやり方もありますが、とりあえず、イントネーションで語尾を上げれば疑問文になります。

 Est-ce que を付けるのも簡単ですが、日常会話ではあまり頻繁には使いません。主語と動詞を倒置する疑問文の作り方については、また機会があったらそのときに説明することにします。

音は短いが長い綴りの「ケスクセ(これは何ですか)?」、そう聞かれたら、こう答える

 さて、C'est を使った文をもうひとつ見てみましょう。

「ケスクセ」です。

(Château de Sully-sur-Loire:iStock.com/Mor65)


 いかにもフランス語らしい響きで、日本語でいうとちょっと滑稽な感じも出るので、ときどきフランス語の例として使われることがあります。私は、赤塚不二夫のマンガで、おフランスかぶれのゲイの泥棒が出てきて、無知な相手をバカにして、「ケスクセ(何なの?)」といっているのを見た記憶があります。

 

 この「ケスクセ」はフランス語ではこう書きます。

 Qu'est-ce que c'est ? (ケス・ク・セ)

 初めの qu'est-ce que(ケスク)は長いのですが、これで1つの単語で、英語の what と同じく、「何」を意味する疑問詞です。

 このqu'est-ce que (ケス・ク)のあとに、もうおなじみのc'est(これは~である)が来て、「これは何ですか?」という意味になるのです。

 

 Qu'est-ce que c'est ? (これは何ですか?)と聞かれたら、c'est を使って、

 C'est un château. (セ・タン・シャト)

「これはお城です」などと答えればいいのです。発音が、「セ・アン」ではなく、リエゾンして「セ・タン」になることに注意してください。

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本連載は今回で終了です。フランス語についてさらに詳しく知りたい方は幻冬舎新書『世界一簡単なフランス語の本』をご覧ください。

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