1. Home
  2. 生き方
  3. 月が綺麗ですね 綾の倫敦日記
  4. 「会社での成長に限界を感じた」私の退職の...

月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

2024.04.17 公開 ツイート

「会社での成長に限界を感じた」私の退職の決断・お金の問題・時間の使い方 鈴木綾

ロンドンのスタートアップ企業を退職した鈴木綾さん。その決断の背景には何があったのでしょうか?

 

大好きな会社を辞めて、サバティカル休暇をとっている理由

1月に大好きなチーム、大好きな会社を辞めた。みんなはきっと何か悪いことがあったかのように、心配そうに私に尋ねる。

「仕事を辞めたのは何かあったのですか?」

別に悪いことがあったわけでも何でもない。あと1、2年その会社に残っても幸せだったかもしれない。給料も仕事の内容にも満足していた。でも人は満足していては成長しない。だから自分の成長のために辞めて、サバティカル休暇を取ることにした。

日本で「サバティカル休暇」というと、大学の先生たちが「研究休職」として1年間大学を離れて自分の研究をする制度のことを指すらしい。というか、そういう制度があるのはアカデミズムの世界だけで、民間企業でそういう制度を持っている会社はあまりないようだ。

それでも最近では、3ヶ月、6ヶ月、場合によっては1年の長期休暇をとっている人が増えてきたし、「サバティカル休暇」を取り上げる記事もよく目にするようになった気がする。

欧米では、パンデミックによる疲労から大量に辞める人が増加し、「Great Resignation」(大量退職時代)と呼ばれる時代になった。人材流出を防ごうとサバティカル休暇の制度を導入する企業も珍しくなくなった。米国の大手銀行シティグループや、グローバルコンサルティング会社PwCもその一例だ。ほとんどの場合、一定の勤続年数が必要とされるけど。

私の会社にはサバティカル休暇制度がなかったし、同じ会社に戻るつもりもないので、私のケースは「休暇」というよりは、日本でもよく耳にする「キャリアブレイク」という表現の方が適しているかもしれない。

将来「キャリアブレイク」または「サバティカル休暇」を検討している読者がいるだろうと思って、自分がどうやってその決断をし、どんなサバティカルの過ごし方をしているのか、紹介したい。

サバティカル休暇はいつ取るべきか

サバティカル休暇の主な目的は、スキルアップ、またはリフレッシュである。転職が当たり前になった時代、多くの人がこの休暇を取らないことが不思議に思える。私たちは人生100年の時代を生きていて、30代の私はあと40年働くかもしれない。その間仕事に必要なスキルは変わり続ける。だから定期的な自己研鑽が絶対に必要だ。さらに言えば、普通の有給休暇以上に長い期間を通じて心と体をリフレッシュし、人生観を見直すことはとても重要だと思う。長い人生の中で根本的にキャリアが変わる場面が2、3回はあるかもしれないのだから、それに気づく余裕、備える時間を自分に与えないといけない。

私のサバティカル休暇の目的は前者の方、自己研鑽である。去年、英語の本の執筆を始めたが、スタートアップで管理職に就いている間は多忙で、なかなかプライベートの執筆時間を取ることができなかった。

私は21歳で母国を離れ、日本に移住し日本の外資系企業で働いた。その後28歳の時に日本を離れて欧州のビジネススクールで学びMBAを取得した。私は自分の人生の方向を大きく変えることに全く抵抗がない。だから会社を辞めることに不安も抵抗もなかった。悩んでいたのは「タイミング」だった。会社に残ったとして今以上どれだけの能力を身につけられるのか。まだ学べるものがあるのなら早すぎる退職は損だし、遅すぎてもやっぱり自分が損をすることになる。

会社と社員は、相互に利益を得る関係が最も健全だ。個人は会社からスキルや経験を得る一方、会社は個人から労働力を得る。このバランスが崩れてきたと思える時が会社との関係を見直しするタイミングになるのだと思う。

私の場合、3年近く勤めて多くのことを学んだ。一方で、小さな組織では昇進の限界があり、すでにチーム内での経験・能力双方が上位になっていた私は、ある時、自分が管理職としての経験から得ているものよりも、私が部下たちに与えている学びの方が大きいと感じた。要するに、この会社と私のキャリアの方向性が乖離し始めたのだ。

終身雇用はもはや存在しないこの時代において、会社を辞めるタイミングを見極めることが重要だ。残念ながら、ほとんどの人(私もその一人だ!)は待ち続け、フラストレーションが溜まりすぎてから辞めることが多い。

私たちは別に会社に責任があるわけではない。なので、「でも、私が辞めれば会社はどうなるのか、同僚はどうなるのか」という考え方はやめた方が良い。長期的な視野で、自分のキャリアのために必要な決断をしなければならない。

だから今回の退職は今までで一番「健全」だった。私はチームを離れるのが寂しかったし、私の部下たちも私ともう働けなくなることを寂しがっていた。退職祝いもたくさんしてもらった。「この人たちはもういやだ、退職の飲み会ですらやりたくない」と思い、最後は気づかれないようにこっそりと逃げようとしたのがそれまでの退職だった(笑)。みなさんにも一度、「幸せな退職」を体験してほしい。

お金はどうしているのか気になっている人もいると思うが、ちゃんとサバティカルに入る半年前から準備を始めた。まず、ゲストルームとして使っていたもう一つの部屋を友達に貸して、家賃収入を得るようにした。あと、「バイト」として投資会社のコンサルティングをやることにした。これは時給あるいは成果ベースではなく、毎月固定の報酬(リテイナー)で払ってもらっている。基本週20時間働く、という約束をしているが、仕事の量がそれを下回る週もあるし上回る場合もある。下回った場合も毎月入ってくるお金は変わらない。金融用語を借りると、アルバイト先の会社は私の労働を「オプション」的に買っている。使うかもしれないし、使わないかもしれない。

バイトと執筆活動を考えると、「休暇」とはいえないかもしれない。私は結構忙しい(笑)。

このコンサルティングバイトがうまくいくかどうかは最初わからなかったので、万が一のために1年仕事をしなくても済むだけの金額はコロナ前から貯めておいた。今考えると、3、4年前の自分がちゃんとお金を貯めたことで今のサバティカル休暇が可能になった。

私はサバティカル休暇中に何をしているのか

サバティカル休暇は、将来の自分のためになること。「今の一服」を大事にすることで、より良い未来の基盤ができる。人生の中の「充電期間」と見ることもできるし、次のステップに向けての「準備期間」とも言える。だから私は自分の将来のために「違う働き方」を試したかった。違う経験が、未来に新しい視点を開くのだ。

今まで、さまざまな組織で働いてきたが、ずっと正社員だった。しかし、私は将来独立するかもしれない。決断する前に、拘束のないフリー(自営業者という意味で)の生活を味わってみたかった。

私の将来の選択肢の一つは、フルタイムでライターになることだ。だから今回のサバティカル休暇の主な目的は小説を書くこと。締め切りがない、上司がいない、自分の動機だけで動いている、初めての経験なので、そんな状況でも執筆が進むのかが気になっていた。

モチベーションは問題ない。毎日楽しく原稿を書いているが、ずっと一人で作業しているのは単調だし寂しい。私は人と話してブレーンストーミングするのも好きだ。考えていたとおり、将来は引き続き本やエッセイを書いていていいけど、フリーでやるのはきついかもしれない。ライターの仕事をしながら、人との交流を保てる仕事――会社員でもいいし先生でもいい――を続けるのが、私の性格に一番合っているかもしれない。

だから今の投資会社のバイトは本当に救いになっている。リモートだけど、Zoomで人と顔を合わせることも気晴らしになる。

将来、コンサルをやるのも一つの選択肢だ。正社員と違って、フルタイムで働かなくても、ピンポイントでとある企画に集中して仕事できる、というのは、やりがいがわく。でも一方で、チームに溶け込むのは難しいし、人によっては大きな組織の中で自分がまるで「二流市民」のように扱われていると感じる人もいる。私は今回一緒に仕事しているチームをとても気に入っているし、仕事の内容が非常に面白いが、この仕事をやり続けると考えるのなら、やはり決まったチームで働いた方がいいと思う。

今回のサバティカル休暇で、今までと違う「働き方」や「時間の使い方」を経験できたことで、自信を持ってキャリアの次の段階に進められると思う。結論から言うと、私は将来、正社員に戻ると思う。でもきっと本やエッセイを書くことも続けていくだろう。

<イベントアーカイブ販売>

鈴木綾さんとひらりささんによる「『21世紀の恋愛 いちばん赤い薔薇が咲く』読書会~私たちに恋愛は必要なのか~」のアーカイブ動画を販売中です。詳細は、販売ページをご覧ください。

*   *   *

鈴木綾さんのはじめての本『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』も好評発売中です。

 

関連書籍

鈴木綾『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

フェミニズムの生まれた国でも、若い女は便利屋扱いされるんだよ! 思い切り仕事ができる環境と、理解のあるパートナーは、どこで見つかるの? 孤高の街ロンドンをサバイブする30代独身女性のリアルライフ

{ この記事をシェアする }

月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

イギリスに住む30代女性が向き合う社会の矛盾と現実。そして幸福について。

バックナンバー

鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。ロンドンの投資会社勤務を経て、現在はロンドンのスタートアップ企業に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP