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見栄を手放すための節約道

2016.04.07 公開 ツイート

42歳男と26歳女――華麗なる六本木・代官山ライフと下田へのサプライズトラベル 中川淳一郎

 42歳のぼくに、26歳の恋人ができた。彼女はミス慶應のファイナリストにもなったことがある祥子。現在、外資系投資銀行のアナリストをしている。彼女の口癖は、「付き合う男は自分を高めてくれる男でなくちゃ嫌……」だ。

  ぼくは自分がそんな男であるとは思っているが、果たしてそんな存在であり続けているだろうか。彼女とこれまでのデートやプレゼントを振り返ってみた。彼女との出会いは、とあるIT企業の経営者主催の合コン。ぼくは彼の会社の経営コンサルを過去に手掛けたことがあり、その後付き合いを深めている。

 彼はこれまでに散々モデルやレースクイーンといった女性との付き合いを経験したが、やはりインテリの美人がいい、と高学歴高年収女子との合コンを頻繁に開催しているというのだ。

 その中でも圧倒的に知性があり、美人だったのが祥子だった。麻布十番のバーを貸し切っての立食形式で、最後にようやく喋ることができた。「今日はあまり喋れなかったから、また今度いかがですか?」とどちらともなく言い、お互い忙しいのであまり日程は合わず、ようやく2週間後に2人で会うこととなった。

 最初のデートは六本木のフレンチ・「エル・カネック・ラ・プリケータ」だ。予約がまったく取れない店として知られているが、たまたま同店の出店を手掛けた飲食コンサルタントはぼくの大学の同期だった。そのツテで、窓際の東京の夜景を一望できる席を確保してもらえた。祥子は「ここ、来たかったんです……。あれから2週間でよくここを取れましたね……」と呆気にとられた様子だった。

 そして、ぼくたちは、デュ・ギュスタシオンを頼み、そのままソムリエからは2004年のコルトン・シャルルマーニュをお勧めされた。

「本日のメイン・オマールのテルミドールには素晴らしく合うと思いますよ」

 その一言で決まりだ。ぼくはこの日、イタリアの最高級宝石ブランド・バロテッリ・カッサーノのピアスを贈った。初めて会った時、彼女はバロテッリ・カッサーノのシンプルなピアスをつけていたので、そこに小さなダイヤが入ったものを選んだ。「中川さん、よく見ていてくれましたね……」と彼女は言った。

 こうしてこの日のデートは終わった。六本木からタクシーに乗り、中目黒に住む彼女を降ろす。そのまま代官山の自宅へ帰る。23時24分、シャワーを浴びてリビングに戻ったら彼女からLINEが来ていた。「今日は本当においしかったです。ありがとうございました。またお会いしてください」。僕は返信を30分ほどずらし、「こちらこそ、本当に楽しかったです。またお誘いしてもよろしいですか?」と書いた。祥子からは20秒ほどで「ぜひ! お願いします! 楽しみです」という返事が来た。

 こうしてぼくたちは付き合うことになった。3回目のデートは初めてのお泊り旅行。ぼくは「下田の温泉に行こう」と誘った。しかし、彼女は「下田って行きにくくない?」と言う。ぼくは「大丈夫。そこまで遠くはないから。もう温泉旅館は予約しているから」とウインクをした。

 当日、アルファロメオに乗って彼女を迎えに行く。そのまま横浜方面へ南下するのかと彼女は思ったようだが、ぼくはあくまでも車を東に走らせる。

「ねぇねぇ、まったく方向が逆じゃない?」

 ちょっと困惑の表情を浮かべる。いくら知的で美人であろうとも、こうした時はうろたえるものだな、ふふふ。

 そして、車は25分後には東京・新木場の東京ヘリポートへ。

「まさか……」

 そう、この日はここからヘリコプターをチャーターして下田の旅館へ行くのだ。一人8万8000円の部屋を押さえておけば、このヘリコプターを片道6万円でチャーターできるのだ。本来3時間はかかる、いや休日に渋滞したら5時間は見なくてはいけない下田までの時間を大幅に短縮するにはヘリコプターを使うのが一番いい。しかも彼女も喜んでくれる――。

 

 と、ここまで「東京カレンダー」みたいなことを書いてきたが、書いていて自分でも「アホか!」と突っ込みまくること14回といった状況になってしまった。この短期連載の最終回は、私が考える「ムダなもの5選」を紹介する。ここに登場するコンサルタント(笑)の中川(笑)がやっていることがいずれもムダだと私は考えている。一つ一つ見ていこう。

【1】付き合う異性を表面上のスペックだけで選ぶ
 中川にしても祥子にしても、「知的な美女がいい」と言ったり、「付き合う男は自分を高めてくれる男でなくちゃ嫌…」と言ったりするが、祥子の言い分はさておき、「知的な美女」って一体なんだよ? 知性というものは一回の合コンで分かるものなのだろうか? 「知的な美女」はいつまでも維持できるものなのだろうか? あとは中川の友人のIT企業経営者にしても、「モデルやレースクイーン」から「インテリな美女」に関心が高まったとあるが、まぁ、男女の出会いなんて一体どこから始まるか分からないのですよ。

 ゲスの極み乙女。の川谷絵音や、とにかく明るい安村のように、貧乏時代を付き合っていたらいつしか大ブレイクしちゃうことだってあるわけで、まぁ、好きだと思ったら付き合えばいいのではないでしょうか。いや、この2人、不倫したからな、ガハハハハ。そこまでは予想できんな。

【2】予約が取れない店を予約することに男としての価値を感じる
 予約が取れない店というのは、往々にして、客からはミーハーなオーラが漂い、店側の「オラ、食わしてやるぞ、エッ!」といった気持ちを感じるものである。そんな店を選ぶよりも、自分が本当にウマいと思い、店の人との関係もツーカーな店の方がいろいろ融通を利かせてくれるし、一緒に行く女性は「あぁ、この人は店の人から好かれているんだな」と思ってもらえる。

 店の人から好かれるということは、誰かを見下すことなく、あとはきちんとカネ払いもよく、マナーのある客だと思われることに他ならない。特に初めてのデートの場合は、行ったこともない店を無理して予約する必要なんかない。あとは何が「2004年のコルトン・シャルルマーニュ」だ。本当はビールが好きなんだからビールを飲め、ビールを。フレンチの店でビールを頼むと周囲から浮いてしまうこともあるので、あまり飲まない方がいいのかもしれない。だからこそ、無理してビールが飲みづらい店に行くよりも、「店の名前」を気にせず「行きたい店に行く」という実利を取るべきだと思うのである。

【3】初デートでプレゼント
 これがまったくもってして意味がわからない。世の中の女性はそんなに物欲がすごいのだろうか? 彼女がつけているブランドを瞬時に判断し、それよりランクが上のプレゼントを初デートで用意するのが彼女をオトすテクだぞ! なんて30年ぐらい前の「HOT-DOG PRESS」なんかでは書いていそうだが、今の女性ってもんは多分こんなことをされたら「うわっ、キモい、この男……。こいつ、私の下着のブランドさえ知っていそう……」なんて引いてしまうこと請け合いである。

【4】いちいち大袈裟
 六本木の夜景の見えるレストランやら、横浜の方に行かずに新木場を目指し、ヘリコプターに乗るとか一体何なのだ。ヘリコプターなんてうるさくて喋れないでしょう。だとしたら、特急『踊り子』にでも乗ってビールでも飲みながら行けばいい。

【5】妙な駆け引き
 LINEの返信をわざと30分待つとか、アホか。書きたい時に書け! 

 いや、【1】~【5】についてはあくまでも私の意見である。別にこうしたことをしている人のことを非難しているわけではない。私自身がこうしたカネの使い方や配慮の仕方はしたくないということである。その方がラクな人生を送れるし、自分が付き合う人もその感覚に合う人の方が無理のない人生となるということだ。特に「ヘリコプターに乗る」とか「予約が取れない店をなんとか取る」なんてことは、一生のうちで数回あれば良い程度の話だ。出会ってすぐにこんなことを連発させてしまうと、その後収入が減った時など、「初期の頃の中川さんは太っ腹でね……」なんて恥ずかしいエピソードをいずれ晒されてしまうこととなる。

 とにかくお金にまつわることにおいて、無理は禁物だ。あくまでも他人と比較することなく、自分だけの基準を持つが重要である。『節約する人に貧しい人はいない。』では、生活全般における「いらないもの」をたくさん書いておいた。いくつか挙げておこう。

「給料30%の家賃の家」「高級車」「ビジネスクラス」「新幹線のグリーン車」「寿司のコース」「季節ごとの洋服」「高級時計」「立派なオフィス」「凝った家具」など。仕事面で収入を増やすには、「競争相手がいない場所を選ぶ」「無駄な人員を雇わない」などの面についても書いておいた。

 あと、個人的に私は、自分のことを「ぼく」と書く男は苦手である。
 

関連書籍

中川淳一郎『節約する人に貧しい人はいない。』

見栄を捨て、自分だけの幸せを手に入れる。 他人と比べない。競争しない。妬まない。「自分のため」の金銭感覚の身につけ方

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見栄を手放すための節約道

「見栄を捨て、自分だけの幸せを手に入れる。」のキャッチコピーとともに発売された、中川淳一郎さんの『節約する人に貧しい人はいない。』。「節約とは他人と比べないこと」と繰り返し説く、異色の節約本は、いかに生まれたのでしょうか? そして、中川さんの考える「節約道」とはどんなものなのでしょうか? 短期集中連載でお届けします。

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中川淳一郎

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライターや『TVブロス』編集者などを経て、2006年よりさまざまなネットニュース媒体で編集業務に従事。並行してPRプランナーとしても活躍。2020年8月31日に「セミリタイア」を宣言し、ネットニュース編集およびPRプランニングの第一線から退く。以来、著述を中心にマイペースで活動中。

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