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見栄を手放すための節約道

2016.04.06 公開 ツイート

はじめに

節約で手に入れる他人と比べない人生 中川淳一郎

「見栄を捨て、自分だけの幸せを手に入れる。」のキャッチコピーとともに、3月10日に発売された、中川淳一郎さんの『節約する人に貧しい人はいない。』。「節約とは他人と比べないこと」と繰り返し説く、異色の節約本です。今回は、本書の内容にも実際触れていただきたく、「はじめに」を抜粋してお届けします。

 経済状態を誰かと比較しない

  生きていると日々、惨めな思いや劣等感を抱くこともあるだろう。しかし、せっかく生まれてきたからには、惨めな思いなどしたくないではないか。そのための一つの手段が「節約」である。本書では、「節約」を身体と精神に沁み込ませることにより、いかに穏やかで幸せな人生を送れるかを述べる。

 この段階で「お前は頭がおかしくなったのか?」と思うかもしれないし、一体何が何やら分からないだろうし、「節約」と聞くと何やらしみったれた感覚を抱くことだろう。「電車で1駅だったら歩く」とか「徹底的にネットの価格比較を利用する」「ペットボトルは、新しいのは買わず、中に麦茶を入れて使いまわす」といった「いじましさ」を感じるかもしれない。人によっては、年収が低く、家計が厳しいことを突きつけられているように感じ、節約することを恥じるかもしれない。

 しかし、節約は決して恥じるべきことではない。金銭感覚も節約もどちらも他人と比較すべきことではないからである。人間が恥を感じるのは、誰かと比較し、自分の方が劣位であると判断した時である。

 本来、我々は経済状態を誰かと比較してはならない。ソフトバンク・孫正義氏の資産が「兆」の単位であったり、スポーツ選手の契約更改のニュースを聞いたりすると、羨うらやましさを通り越して驚くしかないこともある。会社創業者やスポーツ選手についてであれば実際のところ、それほど気にはしないだろう。人々が気にするのは、「ちょっと上の存在」の「もしかしたら手が届くかもしれない」種類の人々である。だから、同世代サラリーマンの平均年収よりも高いか安いかで一喜一憂する。そして、現在年収400万円の人が、高級外車を買える年収800万円の人に憧れ、年収600万円の人が、タワーマンションを購入した年収1500万円の人を羨んだりする。イチロー選手やユニクロ・柳井正氏に対しては「比較対象ではない」「自分に彼らほどの根性と才能はない。自分はイチローにはなれない」とばかりに諦めがつくのだが、自分よりも年収が高いサラリーマンのことは羨みの対象となる。

 しかし、誰かの人生を同様に経験することは不可能なのである。誰も年収1500万円サラリーマン・吉田博氏(仮名)にはなれないのだ。それは年収200万円サラリーマン・田中義男氏(仮名)になれないのと同じだ。自分はあくまでも自分だけの人生を送ることしかできず、誰かを見て羨んだり、嫉しつ妬としたりするのはバカげている。誰もがその人にはなれない。同様に誰もがあなたにもなれない。そんなものである。競争しても意味がないことで競争をしたり、妬ねたんだりすることほど無駄なことはない。そんなもんはやめてしまえ、というのが本書で強調したいポイントである。

 本来、誰かと競争なぞせず、超個人的(ないしは家族の間のみ)に尺度を持っておけばよいものが「金銭感覚」であり、「経済状態」なのだ。それなのに、これら2つの要素について競争をしてしまうから無駄な努力や投資をし、さらにいうと劣等感を抱いて精神衛生上良くない影響を受けてしまう。可処分所得を上げる方法は「転職」「起業」「副業」「投資」などいろいろあり、無数の書籍が登場しているが、本書は出費を抑えるという観点から書いた。

 ただし、冒頭のいじましい努力を提唱するわけではない。私はポイントカードの節約術も知らないし、スーパーの特売日も知らない。こうした節約に関する事情通・情報通になることについては一切の関心もないし、そうした情報を知る気もない。もはや「貧乏」も「金持ち」も関係のない「自分は自分」の境地にいかに達するかについて論じる。見栄を張らず、他人と比較せず、自分の人生こそ最良のものであると思える方が生きていてラクだ。7歳・小学校1年生の頃、自分はなんて幸せなんだと思ったことがある。世界一幸せだとさえ思っていた。

 その理由を母親に言った時のことを覚えている。確かこう言った。

「毎朝パンと野菜炒めを食べられて、土曜日は麻婆マーボー豆腐を食べられて、うちの下には板橋さんが住んでいてカキ餅(細かく切って揚げた餅に醬しよう油ゆをかけたもの)をよく作ってくれるし、板橋さん家のユウジ君(大学生)が遊んでくれるし、時々菅原のお姉ちゃん(母の友人)が遊びに来てくれて遊んでくれるから」

 だから自分の人生は幸せで仕方がない──。そう思っていたのだ。

 当時、父親は単身赴任をしていたため、私は家族旅行に行ったこともなければ、誕生会を親が開き、そこに大勢の友人が来るようなこともなかった。贅ぜい沢たくをすることもなければ貧困でもない普通の生活をしていた。学校に毎日行き、そこで勉強をして放課後は友達と遊び、家に戻ってきたら板橋さんがいて母と世間話をしている。そしてテーブルの上にはカキ餅がある。日曜日には菅原のお姉ちゃんが来てくれた。自分の姉とは、段ボール箱の内側にハンドルを書き、外側にヘッドライトをつけてその中に入って「自動車ごっこ」をしていた。ブーブーと言いながら2人してカーペットの上を走り、レースをするのは本当に楽しかった。

 今、ネット時代になり、数々の成功者の話をあらゆる場所で聞けるようになっている。それを見ても特になんとも思わない。「そんな人生もあるんだね」程度のことしか思わない。それは「節約」がもたらしてくれた感情である。

 

 さて、私の本職はネットニュースの編集者兼PRのプランナー兼モノカキである。とにかくオファーのあった仕事はほぼ全部やっている。収入は世間平均の42歳よりはかなり多い。貯金も平均的な同世代よりも多い。しかし、本書では収入も貯金も人間の価値に換算することはしない。おそらく私の年収が300万円で、貯金が50万円であったとしてもこの本は書けたと思う。

 なぜ節約の本を書くことになったかといえば、それは私の見た目があまりにもしみったれていて、貧乏くさいところにあるからだろう。それでいて、ネット上などに登場する場合は大抵酒を飲んでいて散財しているように映る。だから話が来た。

 実際に自分が節約をしているという感覚はなかったのだが、他人から見れば、年収に見合わないほどに節約しているようである。実にラクなことである。ということで、本書では、「よく分からないけど遮二無二仕事をしていたらそれなりに仕事が仕事を生み、幼少期および低収入だった時代の金銭感覚を維持していたらいつの間にか貯金がけっこう貯まった男」の体験談を中心にする。

 不思議なもので、平日はほぼ毎日酒を飲み、時間を無駄にしないためイザという時は躊ちゆう躇ちよなくタクシーにも乗るし、IT業界やライター業界で若い人と付き合うために飲み会では多く払うにもかかわらず、貯金はできている。それはお前の収入が多いからだ! という話ではなく、自然と「節約」が42年の人生で身についているからだと思う。

 それは決して無理して得たものではない。むしろ楽しく、飄ひよう々ひようと、流れに任せて合理的に生きてきたらそうなってしまったというだけのことだ。年収は、順調に上り調子にはなっているが、金銭感覚は変わっていない。相変わらず慎つつましい生活をしている。本書で伝えたいのは「金銭感覚は一定にしておけ。その方が何事もラクちんですよ」ということ。さらには、年収こそ、可視化された自分の価値であると考えることもバカげているということである。年収はあくまでも「その仕事に対して与えられた報酬」でしかなく、人間の価値とはまったく関係がない。

 それでは本文へどうぞ。

***
『節約する人に貧しい人はいない。』目次

◆はじめに 節約で手に入れる「他人と比べない人生」

第1章 節約と衣・食・住 ~見栄を張るから貧しくなる~

◆「他人からどう見られるか」をなぜそこまで気にするのか
◆生活は収入に応じる必要はない
◆私がいかに家賃を払ってきたか
◆見栄っ張りの妻を持った男の悲哀
◆人間の体はデカくても大抵185㎝。部屋は必要以上広くなくてよい
◆オフィスの場所に見栄を張ってどんな効果があるのか
◆名刺に見栄を張る人とは仕事をしたくない
◆クレジットカードは最も安いクラスでいい
◆人を見た目で判断する人はまわりから「差別主義者」と思われる
◆格好は基本3種類で十分
◆1000円カットのすごい実力
◆高い日用品は一度試すとその後の人生のトクになる
◆大体の野菜・肉・魚の相場は知っておかねばならない
◆ビジネスクラスとエコノミークラスは1時間あたり、1分間あたりの金額で比べてみる
◆グリーン車の機能と値段の関係を考える
◆時計と靴で上質な男に見せるのはセコい
◆コース料理は量が多くてお得はSVである
◆「行きつけの店」があることの幸福
◆趣味を楽しさではなく、収入に応じて選んでいないか?
◆家具・インテリアにカネをかけないという価値観を獲得する
◆自宅料理をウマくするフライパンとミル
◆専用ロースターがあれば自宅焼肉は6000円レベルの店よりウマくなる
◆常識を持つことがカネを生む。だから発泡酒は飲まない
◆最強の移動手段は自転車
◆田中さんの最後の一言が貯金を決意させてくれた
◆死んでしまえばカネは使えない


第2章 節約と人間関係 ~飲み会は断るな!~

◆結局人間がカネをくれるのだから、人間と仲良くなるしかない
◆「カネにうるさいヤツ」が仕事相手で一番面倒
◆酒が強い方がトクすることは多い
◆得るものが多い飲み会、無駄な飲み会
◆人間関係があると仕事は安く済み、サクサク進む
◆「奢ること」はバカバカしいことなのか?
◆人間関係を維持するためのシンプルな10ヶ条
◆保証人には絶対なるな


第3章 節約とお金の管理 ~損得の基準を持て!~

◆預金者は銀行にとってノルマ達成のための道具
◆レート感覚が沁みついている米ドル投資は活用する
◆投資は結局、原資が多い方が勝つ
◆借金を頼んできたのは、オレよりも金遣いが荒いヤツだった
◆30歳を過ぎても「コスパ」「コスパ」と言うやつはバカ
◆ポイントをもらうためにたいして行きたくない店に行くのは損である
◆サイバーエージェントの「2駅ルール」


第4章 節約と稼ぎ方 ~何を求められているか徹底して考えよ!~

◆仕事のギャラは自分から交渉した方がいいか?
◆エアポケット的な場所を狙え
◆会社は人員を増やし過ぎるとおかしなことになる


第5章 節約と恋愛・結婚 ~パートナーは金銭感覚の合う人がいちばん!~

◆なぜか貧乏な時にいちばんモテた
◆女性にプレゼントしたことはほぼない
◆交際相手・配偶者は無駄金を使わない人
◆同じ感覚だとこれだけ人生がラクになる


終 章 虚栄心を飼いならす

◆姉の聖心女子大学での劣等感
◆働かなくて済むような節約

◆原体験 私の節約センスはどこで築かれたか

関連書籍

中川淳一郎『節約する人に貧しい人はいない。』

見栄を捨て、自分だけの幸せを手に入れる。 他人と比べない。競争しない。妬まない。「自分のため」の金銭感覚の身につけ方

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中川淳一郎

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライターや『TVブロス』編集者などを経て、2006年よりさまざまなネットニュース媒体で編集業務に従事。並行してPRプランナーとしても活躍。2020年8月31日に「セミリタイア」を宣言し、ネットニュース編集およびPRプランニングの第一線から退く。以来、著述を中心にマイペースで活動中。

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