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『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと

2015.02.14 公開 ポスト

『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと

第2回 私を承認してくれるのは誰?角幡唯介/鈴木涼美

<角幡さん→鈴木さん 「探検」を知るためのオススメ3冊>

●一言
なにをオススメしたらいいのか難しかったのですが、せっかくなら探検とか冒険がわかる本がいいのかなと。でも探検とか冒険から入るより、登山の本が読みやすいかなと思って選んだ3冊です。

● 1冊目『凍』沢木耕太郎著/新潮文庫
これはすごく読みやすくて一般の人にもいいと思います。山野井泰史さんという登山家が、ヒマラヤから奇跡的な生還を果たしたことがあって、それを聞いた沢木さんが取材をして書いたノンフィクションです。山野井さんは奥さんと一緒にヒマラヤのギャッチュンカンという山に登るんですですが、下山途中に天気が悪くなるんです。夫婦が離ればなれになったり、手の指がなくなったり、目が見えなくなったりして……。
 

● 2冊目『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』山野井泰史著/ヤマケイ新書
『凍』で描かれている山野井さん自身の本です。彼は日本で一番危ないクライミングをしていた人。登山とか冒険をやる上での自然に対する態度が書かれている本。すごく直接的なタイトルですが、山野井さんは小さいときから危ない山登りばっかりしてきてて、周りではいろんな人が死んでいるわけです。その中で彼が生きてこられたのは、いつもリアルな死を想像してきて、それに対処してきたからだみたいなことが書いています。


● 3冊目『サバイバル登山家』服部文祥/みすず書房
この服部さんとは昔から知り合いで、すごく影響を受けています。彼はもともと普通の山登りをしていたんだけど、それでは飽き足らなくなり、今は獣を殺し、自給自足をしながら山を登っている。山の隅々まで管理されているようなこの世界にあって、管理から外に出るために、当たり前とされている装備を全部捨てて、裸になって山へ向かうというところから始まっています。山から現代社会を批評的に見て文明論を書く人で、僕はそこが面白いと思います。


● 鈴木さんの感想

すごい直球なセレクトですね。全部読もうと思います。冒険へと駆り立てるものはなんなのでしょう。『サバイバル登山家』の服部さんのすべてを捨てて山に向かうって、私とすごく逆じゃないですか。私なんかなるべくいろんなものを付けて、デコデコしてたほうが安心するんだけど。デコデコしていると不自由さを感じる人っていて、生活からブランドとか文明を削ぎ落としていきたいという感覚があるんでしょうね。
 

<鈴木さん→角幡さん 「女」を知るためのオススメ3冊>

● 一言
角幡さんは、生きていく感覚や世界の見え方が男と女では違うのが不思議だなと思ってらっしゃいますよね。そのあたりが分かりやすい本ということで、女が書いた本2冊と、男が書いた本2冊を持ってきています。

● 1冊目『愛の生活・森のメリュジーヌ』金井美恵子著/講談社文芸文庫
「愛の生活」は私が一番好きな小説。女の人の生きている感覚……寂しさだったり、満たされなさだったりを書いているんです。生きているのがなんとなく息苦しいとか、気持ち悪いとか。生活の中の感覚を書いているだけで、事件とかはなにも起こらない。女の人が嗅いでいる世界の匂いみたいなものが一番わかりやすい本だと思います。
 

● 2冊目『ここは退屈迎えに来て』山内マリコ著/幻冬舎文庫
山内マリコさんという、新刊が出たら買う唯一の作家さんのデビュー作です。地方に住んでいる女の子たちのなんとなくつまんないけど、なんとなくまわってる感みたいなものを書いていて。表現の仕方がうまくて想像しやすいんです。ショボい固有名がたくさん出てきて、彼女たちはそのショボさを嫌だと思うんだけど、高度成長期でもないので、都心でバリバリやりたいとも思わない。地方に留まっている女の子たちの感覚が面白く書かれています。

● 3冊目『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの三十年戦争』松谷創一郎著/原書房
ギャルと不思議ちゃんの系譜を克明に辿って、細部に焦点を当てて、分析している本です。感覚ではなくて事実を書いているところが面白い。私はギャルだったんですが、なぜ黒ギャルが白ギャルに変わったのかなんて、ただこっちが可愛いって思っただけだったんです。でもその理由が詳細に書かれている。女の子って把握できないけど、把握しようとすると面白い対象だということがわかります。

● 4冊目『少女たちの「かわいい」天皇 サブカルチャー天皇論』大塚英志著/角川文庫
大塚英志さんの本は19歳くらいまですごくハマってました。彼にとって常に不思議に見える女子の行動を批評するんですけど、私たちにとってはまったく考えてもなかったようなことなんです。でも視線が優しくて、奇異に見えて批判されるような女子の行動を心情にまで踏み込んで書いている。男の人が語る女の人像っていうのを語られる側から選ぶとしたらオススメです。

● 角幡さんの感想
女を勉強しろってことですよね(笑)。まずは『ここは退屈迎えに来て』を読みたいです。東京の女の人と地方の女の人では見えている風景が違うんですね。男と女、地方と東京。属性が違うと見える世界もが違うということに興味があります。

第1回目の記事はこちら
 『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと
~第1回 自然でも子宮でも一緒じゃないの?~

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『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと

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角幡唯介

1976年北海道生まれ。早稲田大学卒、同大探検部OB。『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞。『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』で講談社ノンフィクション賞を受賞。

鈴木涼美

1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。小説『ギフテッド』が第167回芥川賞候補、『グレイスレス』が第168回芥川賞候補。著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論』『おじさんメモリアル』『ニッポンのおじさん』『往復書簡 限界から始まる』(共著)『娼婦の本棚』『8cmヒールのニュースショー』『「AV女優」の社会学 増補新版』『浮き身』などがある。

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