オリジナルな人生への憧れ
「おばさん、人生を二度生きる!」
そんなテーマを冠した愉快な会に参加してきた。幻冬舎カルチャー(幻冬舎大学からリニューアル)主催の、稲垣えみ子さん×堀井美香さんの二人が登壇するトークイベントである。
何を隠そう、私はお二人が大好き。あちこちで書いている読書コラムでも、お二人の著作を何度も紹介している。
- 「丁寧な暮らし」がうっとうしい私が探す“自分”と“ごはん”の良い関係(幻冬舎plus)
- 「私のものさし」を持つ女性5人の穏やかな魅力。私たちはなぜ、堀井美香さん・佐藤友子さんに惹かれるのか?(mi-mollet)
- 「人気アナウンサーが独立してフリーに」あるある展開に、私たちがここまでときめくワケ『一旦、退社。50歳からの独立日記』 (Paranavi)
私にとってお二人の魅力は、「大企業勤めという既得権益をふわっと手放し」「50歳から、手作りでオリジナルな人生を築いており」「なんだか朗らかで楽しそう」なこと。
……見事なまでに、私自身のコンプレックスや悩みと呼応していて笑っちゃうな。でもきっと、私と同じような人は多いのだろう。日曜夜の幻冬舎本社前にはイベントに参加する人の長蛇の列ができていた。
今回のイベントは、稲垣さんの『魂の退社』『寂しい生活』『人生はどこでもドア』の三部作が文庫化したことを記念したもの。私は全作読了済(なんなら『魂の退社』はKindleと紙を両方保有)だが、稲垣さんと堀井さんの二人の話が聞けるなんてチャンスは逃せない!
50歳で朝日新聞社を退社し、夫無し・子無し・冷蔵庫無しの生活に移行した稲垣さん。そして同じく50歳でTBSを退社し、ラジオのパーソナリティや朗読会を中心に活動されている堀井さん。お二人はとても仲がよさそうで、キラキラした目で二人を見つめる観客の皆さんと共に、最初から最後まで笑顔にあふれたあたたかい雰囲気に包まれたイベントだった。
「おばさん、人生を二度生きる!」は、稲垣さんがつけたトークテーマとのこと。人の寿命が伸びる中、50歳くらいで人生をゆるやかにシフトチェンジして、自分の好きなこと・快適なことを大切にする「第二の人生」を拓いていってもいいのではないか……そんなメッセージだ。
会の中でとても盛り上がったのが、「人とカネ」の話。
「定年前に会社を辞めるには、どのくらいお金を貯めておけばいいのか?」
「“人付き合いがあればお金はいらない”と稲垣さんは書いているけれど、コミュ障の私には無理かも…」
そんなミドル世代の声がそこかしこで聞こえ、まったく同じ不安を抱えていた私は内心うんうんと全力で同意。
「必要なお金って、人それぞれじゃないでしょうか」
ふわーんとした声で、質問に答える稲垣さん。
お金をたくさん必要とする生活をするのも、(稲垣さんのように)最小限しか使わない生活をするのも、その人の選択次第。朝日新聞社時代は豪華マンションに住んで美食や服に高額を費やし、今は最小限の持ち物でワンルームで暮らすという落差の大きいチェンジを実行した稲垣さんが言うと説得力がある……。
「私は10年かけて生活をコンパクトにして、(第二の人生の)準備をしてきたと言えるかもしれません」
勢いで行動しているようで、実は違う。人生の舵取りを他人に任せない、という意思を感じるお話だった。
人付き合いに関しても、「会社を辞める前に、“これまでは大企業の名刺で人に会えていたんだぞ”と言ってくる人がたくさんいたが、辞めた後の方が素敵な人にたくさん出会えている」とのこと。堀井さんも、「むしろ余計な人付き合いがなくなって、好きな人とだけ仕事できるようになった」と横でうなずいている。
「人付き合いといっても、別に飲みながら朝まで人生を語るとかそんなことじゃなくていいんですよ。ちょっと笑顔を交わす人が近所にいるとか、他人の幸せを素直に喜べるとかそんなところで」
『人生はどこでもドア』でも、一人でリヨンに滞在した14日間、「誰かとニッコリ笑い合う」ことに奮闘する稲垣さんの姿が。人と笑い合い、さりげなく思いやり合い、相手の幸せを願う……、人付き合いを大げさに考えすぎないようにする姿勢も、自然体でいいな。
幸せな2時間を過ごし、お二人を拍手で送りだした後売店スペースに駆けつける私。繰り返しますがすでに3作とも持っている。でもこれは誰かにプレゼントしたい本だなと改めて感じたので、『人生はどこでもドア』を購入。
買ったときには「誰にあげようかなぁ」とワクワク考えていたはずなのに、帰りの電車の中でつい読み始めてしまって帯がくちゃくちゃに。……うん、実家のお母さんにあげよう。
『魂の退社 』(稲垣えみ子/幻冬舎文庫)
あえて一言でいえば、私はもう「おいしい」ことから逃げ出したくなったのだ。――『魂の退社』より
朝日新聞社勤めのバリキャリだった稲垣えみ子さんが、50歳で早期退職するまでの足取りを追った元祖(?)「退職エントリ」。「もっと出世したい!高い給料がほしい!いい生活がしたい!」そんな果てない欲望からの卒業。「大企業勤め」という“おいしい”立場から、どうして自ら脱出するにいたったのか、読者も自身の人生後半戦を考えてみたくなる、刺激と発見に満ちた一冊。
『寂しい生活 』(稲垣えみ子/幻冬舎文庫)
もしかして「ない」ということの中に、それが何かはよくわからないけれど、別の可能性みたいなものが広がっているんじゃないか?――『寂しい生活』より
大企業を卒業し、築50年近いワンルームに引っ越し、冷蔵庫を持たない・電力も最小限しか使わない「寂しい生活」に突入した稲垣さん。これまで自分が抱えていた、便利や効率を求める気持ち、「もっと評価されたい」「もっとお金が欲しい」という願望から離れてみたら、見えてきたものとは。「豊かな生活」の幻想がひもとかれていくエッセイ。
『人生はどこでもドア 』(稲垣えみ子/幻冬舎文庫)
いつもすれ違う近所のおばあちゃんにニッコリと挨拶をして、ニッコリと笑顔が返ってきさえすれば「生きてて良かった」と思える自分であることを、あのリヨンでの日々が私に教えてくれたのだ。――『人生はどこでもドア』より
「海外で一人、“生活”をする!」そんな意気込みで単身、フランスのリヨンに旅立った稲垣さん。フランス語できない、現地に知り合いもいない、旅慣れているわけでもない……ないない尽くしの中でなんとか「(東京でしているいつもの)生活」を実践しようとする試行錯誤の日々。毎日マルシェに突撃して食材を買い、なかなか笑顔を見せてくれないフランス人に果敢にトライ&エラーを繰り返す中で、「自分の幸せ」の根源を再発見していく。
コンサバ会社員、本を片手に越境するの記事をもっと読む
コンサバ会社員、本を片手に越境する
筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。
- バックナンバー
-
- 「人間は、一回壊れてからが勝負?」理想の...
- 「50歳からの二度目の人生は、“人とカネ...
- 「いつかこんな素敵な女性に!」うっかり寝...
- 週半分は化粧したまま寝落ちする“激務系会...
- 水俣、沖縄、アイヌ…自身のルーツに根差し...
- 「40歳まで、あと3年」これからの“キャ...
- 麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』の“得...
- 繰り返すギックリ腰はアラーム信号?「歩く...
- スピードを出しすぎる“激務系サラリーマン...
- 「働いていると本が読めなくなる」への抵抗...
- 「仕事の自分は本当の自分」と言えない会社...
- “本を贈る日”サン・ジョルディが過ぎても...
- 「自分を花にたとえると?」植物苦手人間の...
- 「コンサバ会社員」から「激務系サラリーマ...
- 2023年に読んだ本が212冊に減ってわ...
- 私の“生きづらさ”を救うのは「心温まる物...
- 「しりとり読書」は本好きあるある?“シャ...
- 「名前負け」と「音楽コンプレックス」を脱...
- 40歳までに叶えたい夢は「理想の書斎を持...
- 「自分を構成する要素を戦わせない」新しい...
- もっと見る