モンゴルマン、ついに冷蔵庫の上に登頂。
頂からムササビのように背中に飛びつかれると、とても痛い。でも元気に飛び回る子猫を見るのは幸せだ。
ラーメンマンは最後、猫トイレの段差も越えられなくなったから。
活発なモンゴルマンの首輪には、脱走に備えてエアタグをつけている。完全室内飼いなのでリスクは低いが、万一のお守りみたいなものである。
もし愛猫が行方不明になったら、私は心配のあまり気が狂うんじゃないか。迷子猫のチラシを見ると「飼い主の心痛やいかに……」と心臓が痛くなる。
去年、わが家の郵便受けに迷子インコのチラシが入っていた。
「名前はピーコちゃんです。ミッキーマウスマーチが得意です」と書かれたチラシを夫に見せたら「ピーコちゃんを探しに行く」とヒマワリの種と虫取り網を持って出かけて行った。
5日間ほど捜索したが、ピーコちゃんは見つからなかった。
帰巣本能を発揮して自宅に戻ってますように……と祈っていたら、今度は夫の友人宅の猫が脱走したとの知らせが入った。
「これが役立つ時が来た」と暗視スコープを頭に装着する夫。彼の部屋には謎グッズがいっぱいある(巨大ヌンチャクとか)
「ギリースーツを着ていこうかしら」と言うので「おまえが捕まるぞ」と制止した。
それから3日間ほど現地に通い、茂みに潜んでいた夫。近隣住民にお知らせのうえエサ入りの捕獲器を仕掛けて、ひたすら待ち続けたそうな。
「つらくないの?」聞くと「めっちゃ楽しい」とのこと。なにがどう楽しいのか……と思っていたら「イタチが捕まった!」とLINEしてきた。イタチはめっちゃ臭かったそうだ。
その後、無事に猫さんは捕獲されて、夫は飼い主に一生分の感謝をされていた。
夫は親切なオタクなのである。私は親切な人が好きで、ジョジョでは仗助推しである。
仗助は「人の傷をなおす」という親切なスタンドの持ち主で、承太郎から「何かを破壊して生きている人類の中で、この世のどんなことよりもやさしい能力」と評されていた。ケア能力の高いスタンドと言えるだろう。
うちの夫もケア能力の高いオタクで、老猫&老親のW介護をがんばっていた。
母親の介護は現在も継続中で「ババアが100まで生きたらどうしよう」とボヤきながら、淡々とケアをこなしている。
体が思うように動かない義母は「ほんま年取るのって嫌やわ」「自分が情けない」「さっさと死にたい」と愚痴を連発しているらしい。
そりゃ愚痴りたくもなるよな……と思いつつ、人間ってせつない生き物だなと思う。
今を生きる猫は「昔は冷蔵庫の上にも乗れたのに情けない」とか考えないようだが、人間は過去の自分と比べてしまう生き物。
おまけに義母は活発なおばあさんだった。出歩くのが大好きだったぶん、自由に動き回れない今がつらいのだろう。
一方、家にいるのが大好きな私は「ポンチさんて岩みたい」と夫に言われるぐらい、動かない。そのうちアンジェロ岩になれるんじゃないか。
私は出不精の面倒くさがりやで、スポーツクラブなどに入会しても続いたためしがない。これは自分の欠点だと思っていたが、意外と助かっている部分もあるかもしれない。
たとえば私がエステや美容医療や美容整形などに一切縁がないのは、面倒くさいからだ。
ネットやSNSで情報収集して予約を入れて外出する……というプロセスを考えただけで、面倒くさい。おまけに痛いのが無理だし我慢が苦手。
その結果、お金のかからない生活をしている。ちなみにブランド品やジュエリー類にも興味がない。
なによりネットやSNSで美容情報があまり入ってこないため、「若く美しくならなきゃ」「あれもこれもやらなきゃ」と思わされずにすんでいる。
私のタイムラインに出てくるのはフェミニズム、政治、猫である。
以前、夫が「世の中の人はみんなサメが好きだなあ、サメの動画ばっかり出てくる」と言うので「フィルターバブルを知らんのか」とびっくりして説明した(※フィルターバブル/インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムによって、同じような情報ばかり表示されてしまう結果、まるで「泡」の中にいるように、自分が見たい情報しか見えなくなってしまうこと)。
こちらのコラムに『我々中高年の陰毛が狙われているのは、金になるからだ。脱毛ビジネスにのせられてケツの毛まで抜かれないようにしよう(うまいこと言った)』と書いたが、資本主義社会で搾取されないよう自分のケツ毛を守ってほしい。
ネットやSNSだけじゃなく、この世には「いつまでも若く美しく」というメッセージが溢れ、ルッキズム(容姿差別)とエイジズム(年齢差別)の呪いに満ちている。
その呪いは女性により強く向けられる。拒食症で亡くなった母もその犠牲者なのだろう。
就活メイクやヒールの着用を強いられるのも女性だけだし、女性が見た目で評価される文化は根強い。
以前、57歳の男性有名人がYouTubeで「深キョンはもうババアだろ」「内田有紀はもうおばあさんでしょ」などと語って炎上した。
還暦近い女性が自分よりずっと若い男性を「ジジイ」「おじいさん」とディスるのは見たことがない。
この手のおじさん目線にうんざりして、ルッキズムとエイジズムにげんなりして、48歳の私は「普通に老けたい」と思うようになった。
振り返ると、30代後半は老いに対する焦りや不安が強かった。
まだ老化に不慣れで肉体の変化にいちいち動揺したし、「若い女」の土俵にまだ片足載っている状態でぐらぐらと不安定だった。
一方、48歳になると老化はぐっと身近な存在になる。
肉体の変化や体調不良にもあまり動じないし、膝や腰が痛いことにももう慣れた。
健康>>>>>>美に優先順位が入れ替わり、「顔がキレイ」よりも「歯周ポケットがキレイ」と言われる方が嬉しいし、体重よりも骨密度が気になる。
婦人科医の友人から「子どもの頃に太ってた人は骨粗しょう症になりにくいよ」と言われて「太っててよかった……!!」とガッツポーズした。肥満少女と呼ばれて傷ついた過去が浄化された気がした。
ともに老いていく友がいることも大きいだろう。
中学からの同級生たちと「最近は早朝4時にトイレに起きる」「私は3時に起きるよ」と頻尿トークして、「私はフェスにおむつを履いていった」「マジで?」と盛り上がるのは愉快なもの。
先日うちで集まったときは、トイレから帰ってきた友人に「ごめん、ナプキンある?」と聞かれた。
「いきなり生理になっちゃって。閉経前で蛇口がバカになってるらしく、3か月ご無沙汰かと思ったら突然ドバッと来るんだよ」とのこと。
「ナプキンある? って聞かれるの、中学時代に戻ったみたいやわ~」と懐かしがる私たち。
「マジさっさと閉経してほしい」「わかる! みんなで閉経パーティーしよう」と話しながら、少女の頃から一緒に年を重ねられたことをありがたく思った。
還暦パーティーでは皆で赤いドレスを着て合唱するのもいいだろう。『少女A』の替え歌でこんなのはどうか。
膝いたい 膝いたい
いくつに見えても私誰でも
腰いたい 腰いたい
私は私よ関係ないわ
特別じゃないどこにもいるわ
ワ・タ・シ 老女A
肉体の衰えは不便ではあるが不幸ではない。一方、内面の変化でいうとポジティブな面が多いと思う。
若い頃はメンタルジェットコースター状態でつらかった。
今は物事に動じない図太さが身について「まあえっか」「まあなんとかなるやろ」と思えるようになった。
経験値が増えたことで自信もついて、新しいことにも気負わずチャレンジできるようになった。
自信がついたぶん無駄なプライドがなくなり、「できないから助けて」「わからないから教えて」と素直に人に頼れるようになった。
無駄なプライドや自意識がなくなったことで、他人の評価も気にならなくなった。多少失敗してもくよくよ悩まなくなったし、悩んでいてもすぐ忘れるので便利。
また、若い頃は無駄に体力があるぶん無理しがちだった。もっとがんばれるのにサボってるんじゃと自分を責めていたけど、今はがんばれないので楽である。
20代の私はリアルを充実させなければと焦っていたが、今はきらびやかなパリピ系の皆さんを見ても「体力があってすごいなあ」「自分には無理、とにかく横になりたい」と思うようになった。
当時は退屈に耐えられず刺激を求めていたが、あれはホルモン過多だったのだろう。今はまったり平穏な日常が一番、と心から思う。
そんなふうに順調に枯れてよかった。エイジング万歳である。
シングルの初老フレンズたちは「結婚は? 出産は? とか言われなくなって楽」と声をそろえる。
一昔前はオールドミス、いかず後家、負け犬などと揶揄されたが、今は阿佐ヶ谷姉妹に憧れる若い女性も多い。楽しそうな中高年シングル女性のロールモデルがどんどん増えてほしい。
昨今は「写真の修整はしないでほしい」「しわや白髪をちゃんと見せたい」という女性有名人も出てきた。多様なロールモデルが増えることで、エイジズムの呪いが滅びればいいと思う。
私自身は素敵なフェミ先輩たちの存在に励まされている。
福島みずほさんなんて元気すぎて心配になるレベルだが、あんなおもしろキュートな68歳を見ていると、自分の20年後も楽しみになる。
一方で、男性たちはどうなのだろう? こんなふうになりたい、という初老のロールモデルはいるのだろうか?
キムタクみたいな死ぬまで現役の不老不死系や、にんにく卵黄のおじいさんみたいなムキムキ系を目指すのはしんどいんじゃないか。
肉体が衰えるのは自然なことだし、普通に老けていい、老けるのも悪くない、と思える存在がもっと必要なんじゃないか。
個人的には『ビーチボーイズ~初老編~』みたいなドラマを見てみたい。
反町と竹野内が海に入って足をつるとか、砂浜で足をとられてすっ転ぶとか。バーベキューの肉のすじが歯に挟まってとれないとか。
でも男同士で愚痴りながらわりと愉快に暮らしているとか。
そういう姿を見れば「誰だって年をとるよな」と安心するし、「加齢って案外おもしろい」と思えるんじゃないか。
ビーチバレーで負傷する反町と竹野内は「過信してはいけない」という教訓にもなると思う。
子どもの運動会で転倒するお父さんは「自分はまだまだイケる」という過信ゆえに、張り切りすぎて転ぶのだろう。
注意一秒怪我一生。私は「青信号 点滅したら 渡らない」を標語にしている。
数年前、駆け込み乗車しようとする高齢のご婦人に遭遇した。
電車の扉付近に立っていた私は「おばあさん無茶だ!」と身を挺してご婦人をかばい、北斗の拳のトキみたいになった。
電車の扉に挟まれる私を見て「トキみたいな姿に一目惚れしました!」とエルメスの茶碗を送ってくれる人はいなかった。
皆さんは『電車男』を覚えていますか?
私のデビュー作『59番目のプロポーズ』は『電車男』とよく比較されたが、あんなに売れなかったし、ドラマ化されたけど視聴率はイマイチだった。その超つまらないドラマは諸事情により二度と放映されないだろう、永遠にともに。
あれから月日は流れて、夫とは20年近い付き合いになる。
出会った当初、夫がデートに上下迷彩服で現れた時はひるんだが、試しに付き合ってみてよかった。でもギリースーツで現れていたら、どうなっていたかわからない。
つい最近、近くの電柱に雷が落ちて家が停電になった。私はひとりで在宅していたが、夫の部屋にあった手回し充電器付きライトがものすごく役に立った。
巨大ヌンチャクが役に立つ日は来るのだろうか。
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