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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.09.15 公開 ポスト

第231回 車椅子の旅いとうあさこ

今年の「24時間テレビ」で私、“車椅子二人旅”してまいりました。

一緒に旅ロケをしたのは、葦原(あしはら)海(みゅう)ちゃん。モデルさんで、ミラノコレクションやパリコレにも出演。2021年東京パラリンピックの閉会式でもパフォーマンスしていて、今回お会いする前に、その時のVTRを拝見して「あ! あの方が海ちゃんだったんだ!」と。こんなにいろんな事忘れちゃう私が、めっちゃ覚えていた。海ちゃんは16歳の時に事故で両足を切断。10年間車椅子の生活をしている。海ちゃんが言うには、やはり出来ないことが多いと思われる、と。今回は一緒に体験する事で、車椅子ユーザーの方のリアルを“知る”。そんな旅ロケでございます。

ということでわたくしにも車椅子をご用意いただきました。最初座面が小さいもんで「これ乗れる?」とめっちゃドキドキ。なんとか座れまして、あら。むしろ体にフィットして動きやすい。海ちゃんの車椅子は電動アシスト付きのもので、電動自転車と同じく漕ぎだすと自然にアシストが働いて進みやすくなる。私の車椅子には外付けの電動アシストの機械をつけていただいた。ただこちらはスイッチのオンオフが必要な為、上り坂で利用する事に。基本は手で漕いでいくことに。

出発してすぐ事件は起こりました。海ちゃんとの待ち合わせの名古屋の広場から、電車に乗るべく移動し始めたら、どんどん思った方向と違う方に私の車椅子が加速。実はそこ、普通に歩いていたら気づかないくらいほんのちょっと斜めな場所。本当にちょっと。それが車椅子だと信じられないくらいスピードが出てしまう。それを抑える為になんとか車輪を手で持って調節。8月のお天気よい日だったのもありますが、スタートして数分で、信じられないほどの大汗状態。不慣れな車椅子の操作も原因の一つですが、シンプルに地面に近い分、あの地熱のヤツが容赦なく襲ってくる。くっそー。ヤバし。

駅が地下にある為、広場から地下に向かうエレベーターのところまで移動。そのエレベーターのある所が緩やかな坂の上。電動アシスト、オン。スイスイ。あら、いいじゃない。そしてエレベーター。確かに今まで車椅子の方用のボタンが低い位置にあるのは目に入っていた。ただ実際乗るとなるとですよ? どなたか降りて来たり、他に乗る方がいらしたらドアの“開”のボタンを押しててくださるかもだけど、どなたもいらっしゃらなかったら出来るだけ外のボタン押しながら中へ。操作がまだまだもたつく私にとっては、ちょっとだけ、勇気。そして一番の難関は段差。海ちゃんによると、この段差を乗り越える、車椅子の“ウィリー”が出来ないと退院させてもらえない程、大事な技術だそう。背中を後ろに押し付ける感じで、タイヤをグッと前へ。チャレンジ。後ろにちゃんと、ひっくり返りました、私。ゆっくりと。よくあるじゃないですか、自分ではスローモーションに感じたって。周りから見ていてもスローモーションだったって。なすがまま状態。海ちゃんに「あさこさん、咄嗟に立てばよかったのに」と笑われた。ホントだね。

あと感動したのが切符売り場。正直、最近はSuicaでピッになったのもあって券売機周りをちゃんと見ていなかったのですが、そのカウンターの下に空間があって車椅子がもう少し奥まで入れるって言うんですか。まさに机と椅子の関係になれる。それと電車に乗り込む時に駅員さんがスロープをかけて介助している光景を見たことありましたが、最近では一部ホームを電車側に数センチ伸ばす事で電車とホームの隙間が狭くなり、スロープ無しで乗り降りが出来るように。まあ初心者あさこは結局それでもうまく乗れず、発車のベルが鳴り始め、結局先に乗った海ちゃんに引っ張ってもらってなんとか間に合った。海ちゃんありがとう。

あちこち行きました。恋愛成就を祈る為にまず山田天満宮へ。ここでは“よりそい石”という女の子と男の子をかたどった石を撫でてお参りする。その石の周りは砂利。海ちゃんでもさすがに砂利はタイヤが取られちゃって難しそう。でも上手に石の前へ行きナデナデ。「第一条件は?」と聞くと撫でながら海ちゃん。「虫が退治出来る人。」わかるぅ。虫が大の苦手な私は、わかるぅ。お次は私の番。本当にほんのちょっとだけですが、車椅子が少し上達。海ちゃんの見様見真似でなんとか石の前へ。「あさこさんの第一条件は?」ん-、お酒が飲める人。ふふ。

その次に大須商店街へ。写真見たとたん2人して「食べたい!」とテイクアウトの肉寿司屋さんへ。うちらが行くと、お店のお姉さんが台のところに置かれたメニューを「どうぞ」と。海ちゃんは「こういうメニューが台にくっついていて見えない事もある。ここはくっついてなかったので見やすい」と。確かに。本当だね。海ちゃんと行動してなかったら私、こういうちょっとした事の気づきはないよね。さて、食べ歩き、といきたいところですが、うちらは車椅子を漕ぐため、“食べながら”が出来ないので、道の端っこへ移動。ただ肉寿司3個セット中、1つが軍艦で真ん中に黄味が乗っている。ヤバいぜ、黄味、こぼさせないぜ。膝にお寿司をのせて信じられないほど、そろりそろりよ。スリル満点で運べたお寿司の味は、美味しさ倍増だわよ。満足。

他にも甘栗屋さんのかき氷食べたり、ガチャガチャ専門のお店でなかなか思うものが出ずずっとガチャガチャしたり。レゴランドでは一緒に乗り物乗ってビチョビチョになったり。スタバのキャラメルフラペチーノの“生クリーム抜き・キャラメル多め”と言うめっちゃくちゃ私好みの無料カスタマイズを教えてもらったり。とにもかくにもいっぱい笑った、楽しき一日でした。

海ちゃんは“エンタメの力で障碍者と健常者の壁を壊す”がモットー。「多様性って言葉が今は結構出てきてるけど、現状多様性じゃないから多様性って言葉があると思う。あえて使わなくても多様な社会に。」とおっしゃっておりました。本当にそうだな、と。本当にまず第一歩は“知る”かな。あ、私が一つ“知った”こと。地熱はかなり暑かったけど、商店街はお店から、クーラーの冷気が下からきてるでしょ。「絶対うちらの方が、涼しいよ!」海ちゃん「そうかなぁ。」大笑い。ああ、楽しかった。

【本日の乾杯】韓国の海沿いの町にて。ワカメスープ。まさかのウニ入り。ワカメとウニの組み合わせなんて思いもしなかったけれどこんなに美味しいなんて。異国の食文化、すんばらしい。

 

 

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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