なにもない部屋に憧れる。
ショールームみたいに白くてつるりとした部屋。
されど、多少モノを処分したくらいでは部屋の景色はほぼ景色は変わらず、
「まーまー捨てたのになんで?」
書類の山を見て首をひねる。
漫画の原画はどうすればいいのだろう。
印刷して本になっているのでもう必要ないっちゃないのだけれど、編集者に聞くと捨てないほうがいいらしい。捨ててOK! とは言いにくいのかもしれない。一応、封筒に入れて保存してある。
確定申告の書類は8年以上前のものは処分していいと税理士さんに言われ、クローゼットの奥でかなりの場所をとっていたファイルを少しは処分できた。しかし、それらを捨てるためのシュレッダーが必要になり、2枚、3枚ノロノロ破棄するのは面倒なので業務用のデカいヤツを買ってしまった。なにもない部屋への道のりがまた遠のいた。
そういえば夏に帰省したとき、あらゆる証書を捨ててきたのだった。母が押し入れにしまっていた箱からわたしのこれまでの卒業証書、なんらかの賞状などなど。母とあれこれ思い出話をしながらビリビリ破いて捨てたひとときもまた、思い出になるのであろう。
捨てたい。
いらない気がするモノ。
普段から部屋は片付いているほうだとは思う。なのに、いらない気がするモノはそこここにあった。
たとえば、指のサイズを計る輪っか。1~28号の28個の鉄のリングがおもちゃのチェーリングみたいにまとめられている。
この先、わたしは自分の指を計ることがあるのだろうか?
いや、もしかしたら、それは「今」なのかもしれない。
わたしは自分の両手の指を1本ずつ計ってみることにした。
左手 小指7号、薬指11号、中指14号、人差し指15号、親指15号
右手 小指8号 薬指13号 中指16号 人差し指17号 親指17号
利き手の右の指のほうが太いとは思っていたが、右手の人差し指が左手の親指より太いのは発見である。両手とも、人差し指と親指が同じ太さなのも意外だった。長さで錯覚していたが人差し指は月日とともに太っていた。20代の頃、わたしの左手の薬指は7号だった。
また10年したら計ってみようか?
とか思うから、なにもない部屋にたどり着けないのであった。
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うかうか手帖
ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。