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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.08.13 公開 ポスト

編集者という概念を憎み続けてる漫画家がリアル編集者と打ち合わせした日カレー沢薫

今週、取材と打ち合わせのため東京に行ってきた。

私は生粋の田舎者だが属性としては「吉幾三オルタ」なので、東京にいくと「私、こんな大都会嫌です」と言ってすぐ帰りたがる。

よって東京出張はほぼ日帰りな上、できるだけ遅い飛行機で行って、できるだけ早い飛行機で帰ると言う東京脱出RTAをしているのだが、今回は用事が多かったので痛恨の一泊をすることになった。

しかも、いつも日帰りだったため、帰りの飛行機をいつも通り日帰り仕様で予約してしまっていた、気づいてから急いで次の日の飛行機を取ろうとしたが時すでに遅く、満席であった。

もう1泊を考えたが、東京RTAプレイヤーが「2泊」というのは実質「引退」を意味する、これから盆になろうかというのにご先祖様に申し訳が立たない。

結局その日の内に帰るため、新幹線を利用することにした。

幸い新幹線は空いていたが、飛行機が2時間なのに対し、新幹線での帰宅は4時間以上かかる、これはドラクエ3でいうと、エジンベアの岩パズルをミスるレベルの致命的タイムロスだ。

これは先日「東京滞在4時間」という新記録を出したことで生じた慢心に対する戒めだろう、「飛行機予約時間ダブルチェック」という初心に戻らなければいけない。

そう思ったのだが、帰宅後ニュースで突然の豪雨と雷発生により、羽田便が遅延を出したということを知った。

つまり、予約が正常に取れていたら、今頃羽田空港内でトムハンクスだったかもしれない、ということである。

交通機関の発着時間が決まっているように、RTAというのは、すでにチャートが決まっている、つまり最終的に記録を左右するのは「運」である。

どれだけ完璧に立ち回っても、エンカウントがやけに多かったりオルテガが全然死なないという不運に見舞われて記録が伸びないこともある。

そういう意味では、私は東京脱出RTAプレイヤーとして「持っている」としか言いようがない。

そんな私の才能と豪運を見せつけための旅となったが、出張の目的は打ち合わせであり、今回は二社の担当と会ってきた。

一社とは長い付き合いだが、もう一社の担当とはじめて会った。

リモート化が進んだのと私が上京したがらない、しても秒で帰ろうとするため、会ったことがない、実在するかさえ不明の担当が増えて来たが、おそらく一番実在を疑われているのは私だろう。

編集者という概念を憎み続けている私だが、編集者は基本的にコミュ力と社会性が極めて高い、

だが、そちらのパラメーターが高い分、倫理や道徳、弱者に対する理解力が他のパラにめり込むレベルでへこんでいるため、結果的にバイオに出て来そうな右腕と大脳だけが極端に肥大化したクリーチャーみたいな凄みが出てる奴が多いのだ。

つまり何かがハザードした場合、即刻かゆとうまのマリアージュされるので全く心を許せないのだが、平時は高いコミュ力と接待スキルを使ってくるので、こちらは快適だったりもする。

よってホテルの予約は担当に任せたところ、池袋のホテルを指定された。

私にとって東京は1秒でも早くスタローン&シュワルツネッガーする場所なので、何故池袋なのか考えもしなかったが、そういえば池袋は女オタの聖地だと聞いたことがある。

もしかしたら、私がオタクであることを鑑みて池袋だったのかもしれない、実際会った時も「この近くに、乙女ロードと、でかいアニメイト、でかいジュソク堂があるけど、どれか寄りますか?」と聞いてきたので、当然ジュソク堂を選んだ。

このチョイスは「逆張り」という、まさにオタクしかしない習性の一つなのだが、私はオタクだからこそ、推しのグッズは買わないと決めている。

整理整頓ができない汚部屋の住人なので、推しのグッズを買ったところで大事にできる気がしないのだ。

腐海に飲み込まれる推しの姿を見るくらいなら、最初から持たない方が良い良

セーラープルート大パイセンも「抱きしめてキスするだけが推し活じゃない」と言っている、グッズを集めるのも推し活だが、あえて集めないのも推し活だ。

そんなわけで、アニメイトは辞し、売れている本が平積みされ、私の本が1冊棚に刺さっている書店に特攻する自傷行為を行ったあと、かなり久しぶりにK談社へと向かった。

K談社は訳が分からないほどでかく、何者かわからない人間が闊歩している場所だが、その中に中高生ぐらいの女子集団がいた。

どうやら職場見学に来た学生のようである。

その中にはカバンに缶バッチやぬいを装備した、明らかにこちら側の女子もいた。

つまり「推しが出ている漫画を発行している会社に行く」という、ある意味聖地巡礼であり、これも推し活と言える。

もしかしたら夏休みを利用して来ている地方の学生なのかもしれないが、職場見学に出版社という選択肢が普通に出てくるのは東京住みの特権である。

私が学生のころに行った職場見学と言えば、かまぼこ工場やパン工場であり、都会の子供は人気漫画の編集部に行けると知ったら死ぬほど羨ましがっただろう。

しかし、現在の私にとって、出版社は売れている漫画の巨大ポスターや等身大ポップが隙あらば置いてある場所であり、そこに行ったせいで「あの作品こんなに売れているんだ」と知って新たな傷を作るなど、書店に並んでいきたくない場所である。

正直パン工場見学をしてレアラソチパックを買って帰る方に魅力を感じる。

 

何故欲しいものは、欲しいと思ううちに手に入らないのだろう。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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