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うかうか手帖

2024.06.09 公開 ポスト

母との倉敷ふたり旅益田ミリ(イラストレーター)

 

初夏の倉敷。母とのふたり旅である。

新幹線で岡山駅へ。お土産を買うのが大好きな母のために、まずは旅のはじめに土産売り場を偵察である。

もっとも売り場面積をとっているのは「きびだんご」である。桃太郎のかわいいイラストのパッケージの商品が並び、少量サイズから大箱までいろいろ。

「お母さん、帰りにここで買えるから安心して」

というと母は安心していた。

岡山駅の新幹線の改札近くで手荷物をホテルに500円で届けてくれるサービスがあり、宿泊先のホテルも対象になっていたのでキャリーケースを預ける。いっきに身軽になり、在来線に乗り換え倉敷駅まで。

観光名所の美観地区へは、母とのんびり歩いて20分ほど。

倉敷川が見えた。白壁の街並み。揺れる新緑の柳。修学旅行の男の子たちが飲んでいた真っ青な飲み物(ラムネ?)までもが美しく見える。

まずは昼ご飯。大原美術館の向かいにある「亀遊亭」へ。明治時代に立てられた瓦屋根の洋食レストランだ。母はカツレツ。わたしはカツカレー。食べ終えて倉敷美観地区観光。あいにく風が強く、倉敷川を船にのって観光できる「くらしき川船流し」はお休みだった。

土産物屋を出たり入ったりしながら白壁の街を散策する。

「倉敷民芸館」にも入ってみた。民芸。柳宗悦が中心となり、人々の暮らしの中で使われてきた生活道具の中に美しさを見いだし、それを民芸と名づけた運動である。

母は驚いていた。

「なんでこれ見るの?」

母の子供時代に普通に家にあった竹カゴや和箪笥が展示されているわけだから、なんのことやらわからないのである。

「お母さん、こういう昔のもんを今はお金払ってありがたく見るんやで」

と言うと「へー」とまた驚いていた。

これおじいちゃん作ってたで、これもうちにあったわ。

母はいきいきと民芸を紹介してくれた。

「これ、ご飯いれるやつや。おばあちゃん、入れとった」

飾りと思って見ていたかわいいカゴの用途を教えてくれたとき、ふいに小さい女の子だった頃の母を想ったのである。

観光を終え、ホテルで一泊。

朝食を済ませたあと、母を部屋に残し、昨日、強風で乗れなかった川船流しの予約を取りにく。開館前だというのに倉敷館観光案内所にはすでに長蛇の列。みな船の予約のため早くから並んでいたのである。

やばい出遅れた!

しかし、ギリギリ午前中の予約が取れ、ホテルに戻ってチェックアウト。

母と船に乗り込む。船頭さんの説明を聞きつつ、岸辺を歩く人々に手を振り返りつつ、20分ほどで終了する。平和なひとときである。倉敷美観地区は新郎新婦の撮影スポットとしても人気のようで、あちこちに色打ち掛けの新婦と羽織袴の新郎がいて、「おめでとう!」と声を掛けられてはにかんでいた。

帰りの岡山駅で、母はご近所さんたちへのお土産に大量のきびだんごを買っていた。

「お母さん、鬼退治できるな」

わたしは笑った。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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