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衰えません、死ぬまでは。

2024.05.29 公開 ツイート

第15話 いくつになっても進歩しない 後半

新NISAで株を買えだの、分散投資せよだの、毎日8000歩歩けだの言われてきたのに、してこなかった… 宮田珠己

「ダッシュ」して体を鍛えようと思ったが、老人にダッシュは無理だった…。さて、宮田さんの次の手は?

*   *   *

筋トレをやるやると言いながら結局やらず、筋トレ代わりに何かやろうとしてやっぱりやらないまま、ここまで来てしまった自分。

好きなことはやるけれども、好きじゃないことは、やるべきことであってもできない。

この性格は、どうなんだ。

 

筋トレより、まず性格の改善を考えるべきではないか。

そんなことはわかっている。そう、わかっているのだ。

私に限らず、自分の性格を変えたい、と口にする人は多い。

むしろ、この世のほとんどの人は何かしら自分を変えたいと思っているのではあるまいか。

だがそれは無理である。たいていの人間の精神というのは、歳をとったからといって成熟したり、聖人になったりしない。それがようやく最近わかってきた。

(写真:宮田珠己)

去年だったか数年前だったか高校の同窓会に行ったとき、高校時代に自慢ばかりしていた男が、今も自慢ばかりしていた。人間は変わらない。

若い時、大人を見ると、みな成熟して見えたが、自分がそっち側になってみると、還暦だろうが何だろうが、中身はみんな子どもと同じだと発見してしまった。成熟した立派な大人もいるが、そういう人は大人になって変わったのではなく、子どものときから立派な性格だったのだ。

つまり私は、昔から好きなこと以外は何も行動しない性格であり、それは還暦になったからといって変わらないということだ。

思い返すと、やるべきことや、やったほうがいいこと、そういったすべてをわかっていながら放置してきた人生であった。

よく「宮田はわがままだ」と言われる。

自分ではなぜわがままと言われるのか、よくわかっていなかった。他人の悪口を言うとか、やたら自慢するとか、人のモノを横取りするとか、責任逃れをするとか、そんな酷いことはしていないと思うのに、わがままと言われるのはなぜなのか。

最近やっとわかった。人のアドバイスを聞かないからだ。

私は恒常的に金がないのだが、金がないと嘆くと、人はこうすればいいああすればいいと、親切にアドバイスをくれる。たとえば資産を分散して投資せよとか、新しい金融商品を薦められたり、自分の書くものにもっと専門性を持たせよと、有意義な助言をしてもらったこともある。

私はあるテーマで本を書くと、次はまた別のテーマで書く癖というか、飽きっぽさがある。なので、いつまでたっても裾野を広げるだけで、話が深まっていかない。

そうではなくて、何かひとつ決めて、それについて深く勉強し、その専門家になれば仕事がくると、実に理にかなった反論の余地のない助言をされたのだ。その時はまったくその通りだと思ったけれども、じゃあ、何を掘り下げるかとなったときに、そこまで興味を持ち続けられるものが見つからず、結局また別のことを始めてしまった。

アドバイスをした側からは、せっかく本質を突いた提案をしたのに、無下にされたと思ったにちがいない。当然だ。

でも、ダメなのだ。わかっているけど、ダメなのだ。

(写真:宮田珠己)

今回の筋トレについても、結局好きなこと、興味のあることしかしないし、誰かにもっともなことをアドバイスされても、たぶんやらない。だからわがままと言われる。

残念ながら、これはもう直らない。なぜなら今まで60年間そうだったから。60年も変わらなかったものを、今から急に変えようとしたって、簡単に変わるはずがない。私はそういうふうにつくられた人間なのだ。

ドジャースの大谷選手のように、若いときから自分の人生を設計し、その設計図に従い常に自分を律して生きるような、そういう人間に生まれなかった。

DNAで決まっている以上、生まれた後で、そんな人間に変わることはますます不可能である。

何を情けないことを言っている、努力しろよ、と言われても、こればかりは覆らない。

たとえば自分が大谷選手の後に生まれて、大谷選手の活躍に憧れ、大谷選手が自分に課した練習プログラムをすべて入手できたとしよう。自分はそれをマネするだろうか。

しないと断言できる。

そこまで自分を追い込むのはきつい。ごめん、そこまではできない。そう運命の神様に謝ることだろう。

同じように、還暦を迎える前から、将来に備えてなすべきことを、本やテレビやインターネットからあれこれ教えられたが、結局何ひとつ手をつけなかった。

たとえばお金のことでいえば、新NISAで株を買えだの、分散投資せよだの、さまざまなアドバイスが巷にあふれている。老後に備えて貯えろと国にまで言われてきた。

健康面で言えば、毎日8000歩歩け、ただしだらだら歩くのではなく、息が切れるぐらい早足で歩いて、その後ふつうに歩いて、また早足で、これをくりかえすと健康寿命が延びるぞ、とか。

歳をとって寂しくなったときのために、友人を大切にせよとか。

相当昔から言われていて、周到に準備すれば将来ハッピーな老人ライフが送れるかもしれないのに、なあーんにもしなかった。

だから老後はきっと苦労するだろう。お金も健康も友人についても。わかっているのに準備できない。

なんとかなるだろうと思っているわけではなく、何も考えていないのだ。将来のことより、今現在のことしか考えない。アリとキリギリスでいうところのキリギリスである。

そうして今、運気が下がっているとか文句を言いだしているのである。

こうなることは何年も前からわかっていた。それなのに手をこまねいていた。

(写真:宮田珠己)

いや、べつに自己否定しているのでも過去を悔やんでいるのでもなく、ただそういうものであると説明しているのだが、なぜ私はこんな陰気な話をしているのだったか。そうだった、筋トレしない言い訳をしているのだった。言い訳も昔から得意だった。

とか言ってると、歯の詰め物がとれたので、ひとまず歯医者に行ってくる。

(本連載は「小説幻冬」でも掲載中です。次号もお楽しみに!)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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