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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2024.05.24 公開 ツイート

「仕事の自分は本当の自分」と言えない会社員が“弱いまま”で生きていく勇気 梅津奏

絶不調の妹に大好物のかりんとうを差し入れてくれた兄。お返しに、甥に絵本をプレゼント

「元の人生」なんてあるのかな?

「最近忙しくて」「疲れがとれません」「気圧の影響で頭痛が…」

そんな書き出しでものを書くことに、いい加減ウンザリしてきた今日この頃。

 

私のささやかな物書き業は、自分を起点に書くものと本を起点に書くものに二分される。幻冬舎plusのこの連載は前者だし、書評記事は後者。割合としては前者が多い。

自分について書くときは、書き出す前にまず自問自答する。

「えーっと、最近の梅津さんは~?」

目をつむって意識を自分の内側に集中すると、浮かび上がってくるのは「疲れた」「頭痛い」「だるい」「辛い」。それを無視して元気いっぱいに書き出すのは難しいので、とりあえず「最近疲れていて…」と書いてみる。そしてその文字列にウンザリする。……ここ半年くらい、ひらすらこの繰り返し。

 

これまでの自分であれば、調子が悪くなっても一か月くらいあればなんとか自分をなだめられた。なのに最近は、ずっと調子が戻らない。ちょっと贅沢して美味しいものを食べたり、部屋の掃除をしたり、おしゃれして観劇したり音楽を聴きに行ったり……。効果がないわけではないけれど、元気メーターは「いきつ戻りつ」という感じ。なんなら、「調子が悪い」とあちこちで言っているくせにずいぶん楽しそうだね? なんて読者に思われているんじゃないかと妄想して、勝手に落ち込んだりもしている。

あーあ、早く全快して「元の人生」に戻りたいな。
元気になったら、不調な私は「なかったこと」にできるのに。

そんな風に鬱々としていたとき、久しぶりに読み直した漫画にこんなセリフを見つけた。

お願いです
「今の自分は本当の自分じゃありません」
―――みたいな仕事の仕方はやめましょう
――『Real Clothes 12巻』(槇村さとる/集英社)

主人公は、百貨店の布団売り場で働いている地味で真面目な天野絹恵。「堅実に生きる」が人生の目的だった絹恵が花形部署の婦人服売り場に異動したことで、ファッションの力に目覚め、仕事の面白さに目覚めていくザ・ビルディングスロマンな物語。

目に留まったのは、管理職になった絹恵が、部下の女性社員・吉永に対峙するシーン。吉永は意欲もセンスもある優秀な社員だが、「今はコネづくりの時期」「いつかステップアップして独立したい」と先のことばかり気にしている。そんな吉永に、絹恵はあえて厳しい言葉を向ける。

 

シチュエーションは少々違うけれど、私も同じような視野狭窄に陥っているのではないだろうか。「今の私は仮の姿。いつか本当の自分に戻るはず……」いつの間にか、そんな風に現実逃避していたのかもしれないな。

私の不調は、たぶんそう簡単には完治しない。「調子が悪い私」「弱い私」のままで生きていかないといけない。人生に「一時停止」なんてない。

そんなことを考えながら、「弱いまま生きる」勇気をくれる本を探しに本棚に向かう。

元気じゃないけど悪くない 』(青山ゆみこ/ミシマ社)

でも「回復」とは異なるカタチで、わたしは自分の人生を新たに立ち上げて生きている。そういうの、まったく悪くない。むしろ、悪くないと思うのだ。――『元気じゃないけど悪くない』より

50歳を目前にして、愛猫を亡くし体調不良に気づき、そしてなんだか心がグラグラ……。自分が「元気じゃない」ことに気づいたライターの青山ゆみこさんが、七転び八起きな日々を描いた私小説のような一冊。エッセイ『ほんのちょっと当事者 』では、社会問題を自分事として考えてみることで、社会と個人をぐっと引き寄せてみせた青山さん。あっけらかんとさえ見える自己開示っぷりは本作でも。セルフ・リハビリこそが人生なのかもしれないと思わせてくれる、重いのに軽い本。

不完全な司書 』(青木海青子/晶文社)

自分自身も課題を抱えたまま、誰かの課題を手伝っている文字通りの「不完全な司書」です。――『不完全な司書』より

奈良の東吉野村にひっそりとたたずむ、私設図書館「ルチャ・リブロ」。大学図書館の司書だった青木海青子さんが夫の真兵さんと共に、自宅の古民家で蔵書を開放している場所だ。青木さんは自身の精神障害や過去に経験してきた苦しい体験を公開し、「問題意識を共有したい」という思いで本を通して人々と繋がる活動をしている。自分ができないことは素直に助けを求め、自分ができることはできる範囲でルールを決めて……と、自分を消耗させない働き方を模索する姿は、それ自体が小さな社会実験のよう。

しあわせは食べて寝て待て』(水凪トリ/秋田書店、4巻まで発売中)

わたしってあんなトンチンカンなお年寄りとあっている人間に見えるんだ――『しあわせは食べて寝て待て 1巻』より

バリバリ働く会社員だったのに、免疫系の病気にかかってしまったアラフォー女性・麦巻さとこ。週4回のパートに切り替えたら生活はカツカツ、マンションを買う計画はあきらめて団地に引っ越し。母には「人生つまずいちゃったわね」と言われ、落ち込むさとこ。しかし、団地で出会った大家さんと息子(?)から、漢方の考え方を生活に取り入れることを教えてもらい……。いつもしょんぼりしていたさとこさんが少しずつ生活に対するオーナーシップを取り戻していくのが、じんわり嬉しい。

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の虫観察日記

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