新生活が始まってはや一ヶ月。皆さん元気は残っていますか? 私はというと、大きな環境の変化もなく呑気に過ごしています。毎月「はじめまして」「また会う日まで」が起きる新陳代謝の激しい働き方だからか、年度はじめにこれといった感慨も持てなくなってしまいました。
そんな生活にも慣れに慣れた現在の私が最もモヤモヤしていること。それは「どうせもう会わないしいいや」って投げやりになってしまう己の気持ち。
どうせもう会わないんだから黙ってようとか、何も思うなとか、言い聞かせてるうちに頭上で交わされる会話。そこに紛れる、何か思わずにはいられないフレーズ。「こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ?笑」ふぅーとゆっくり息を吐いて、私は集中しているふりをする。実際、自分の気持ちに集中する。何がこんなに不愉快なのか?
というわけで今回は、皆さんも一度は聞いたことがある、もしかしたら言ったこともあるフレーズ「こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ? 笑」について、筆圧強めに書きなぐります。
いや、普通に昔からダメだったんですけど?
誰だったか忘れたけれど、袖振り合った程度の女性が、
「だから私、早く彼女作れってあの子に言ったのよ~。あ、こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ?笑」
と笑っていた。
私は目を閉じてその声を聞きながら「今とかではない」とツッコミを入れていて、でも何も言わなかった。
誰だったか忘れたけれど、袖振り合った程度の男性が
「飲みとか誘いたいんだけどさ~でも今ってそういうのダメなんでしょ?笑」
と笑っていた。
私はスマホを見ながら「古(いにしえ)から常に場合によるな」とツッコミを入れていて、でも何も言わなかった。
「何が地雷かわかんないからさ~何も話せないよ」
と笑っていた男性には心の中で「じゃ考えれば?」と吐き捨てたけど、やっぱり何も言わなかった。
ある人たちにはここ数年で、突然禁止された色々があるらしい。年上が後輩を誘うこと。恋人の有無などプライベートな質問をすること。大きな声で乱暴な言葉を使うことやボディタッチ。へぇ~。それらがOKだった時代があるって認識なんだ。
私はなんだか、自分が別の世界から来た人間のような心地になる。それが、OKだった時代があるって、本当にそういう認識なんだ。私はてっきり、昔からやめた方がいいな、良くないなって心の中で思ってたけど言えなかったあれこれが、やっときちんと「やめた方がいいこと」になったんだと思っていたよ。若い頃「嫌だな」って感じたけどどうしようもなかったこと、ない感じ?
今まで誰も大きな声で言わなかっただけで、良くないことは昔から良くないことだったはずだ。生徒を木刀で打つことが、ど肯定されていた時代があったとしても、それはみんながなんとなく声を上げられなかったり、当たり前とされてしまっていただけで、基本的に人が人に棒を振り上げることは良くないこと。
他人の身体についてとやかく言うのはいつの時代でも失礼なことだし、怒鳴り声で人を萎縮させるのもずっとよくない。それこそ、長く生きている人こそそういう嫌な思いをしているはずだ。していればしているほど、最近できた「ルール」にホッとするもんだと思っていた。
だけど何故か、ある人たちには「最近突然禁止されたこと」という認識になっていて、なんなら「自由を奪われた」と感じているようだ。それ何でできてる?
「早く彼女作れ」って言っちゃいけません。
「今日飲もうよ」って言っちゃいけません。
「彼氏いるの?」って聞いちゃいけません。
「子供は?」って聞いちゃいけません。
そういうことじゃねんだよ、と思う。
小学校にはよく「廊下は走ってはいけません」って張り紙がしてあるけれど、そこには「基本的には」って意味が含まれているわけで、だからって右下に「わるいひとがいるときは、はしってよい」なんて注意書きはない。「彼氏いるの?」って聞いちゃいけないというのも同じで、そういうプライベートな質問をしても不自然でない関係性になるまでは、お互い気をつけましょうっていう話だ。急に踏み込まないようにねっていうだけの話である。リスペクトなんていつの時代でもした方がいいに決まってる。
図々しすぎるんだよ、そのセリフ。
「こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ?笑」の悪質な点は「こういうの」に含まれている発言だけではない。「彼氏いないの? あ、こういうの今って言っちゃダメなんだっけ? 笑」ってフレーズの中で私が最も腹立たしいのは「彼氏いないの?」ではなく、あくまで「こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ?笑」の方だ。
さも今思い出したかのようにとって付けられたフレーズには、きちんと考えることを放棄して、無理やり許しを求める図々しさがある。「令和のルール、一応わかってますよ?」っておもねりも腹立たしい。だったらむしろ堂々と「彼氏いないの?」と聞いてくれた方がいい。
そしたらこっちも「あんまそういうの聞かない方がいいっすよ」と伝えやすくなるし、この人は本当にわからないんだなって認識できた方がコミュニケーションも取りやすいのだ。「今ってこういうの言わない方がいい、ということは知ってるんですよ?」チラチラ見てくる視線のせいで注意しにくくなることを、あの人たちは骨の髄までわかっているんだ。そういう狡猾さがある。だから嫌なのだ。「知ってるけどやっちゃう俺」じゃねんだよ。はしゃぐな初対面で。それはクールな無骨さとか、親しみやすいガサツさではない。あまりにも一方的な理想のあなたに付き合わせないでほしい。
あと「笑」じゃない。それ、おもしろになってないですよ。時代いじれてないですよ。
関係性を育むことから、逃げないでもらえますか?
久しぶりにフルスロットルで文句を書いて不安です。
でも、マジでやめた方がいいと思いますよ。「こういうの、今って言っちゃダメなんだっけ? 笑」って言えるってことは、やらない方がいいって、あなた知ってるんですよね。でもそのフレーズを使えば許される、そう思ってるんなら、
「勝手に触らない方がいいんでしたっけ?笑」って言いながら他人を触ってみてくださいよ。
「これ食べない方がいいんでしたっけ?笑」って言いながら店先のパン食べてみてくださいよ。
「あなた殴らない方がいいんでしたっけ?笑」って言いながら殴ってみてくださいよ。
許されませんよ別に。
だけど許しを請わなくったって、恋人同士でお互いに安心していれば相手に触れることができる。お金を払えばパンは食べれるし、格闘技ジムでなら人を殴れる。だってそういう関係性だから。
育もうってことじゃないんですか単純に。育むのは大変で疲れる。だけどだから相手のことがだんだんわかっていくわけで、それって幸せなことだ。もう二度と会わないかもしれないけど、それでも。私ももっと育みを考えながら生きていこうと思う。
キリ番踏んだら私のターン
相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!
※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。
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