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きょうだいコンプレックス

2024.04.24 公開 ツイート

「母を独占したい!」弟殺し織田信長も抱えていた“きょうだいコンプレックス” 岡田尊司

きょうだい(兄弟・姉妹)といつも比較されて育った。嫉妬や怒り、憧れをおぼえる。特別扱いされていると感じる。きょうだいのために我慢してきた……。少しでも当てはまると思ったあなたは、「きょうだいコンプレックス」を抱えているかもしれません! 精神科医、岡田尊司さんの『きょうだいコンプレックス』(幻冬舎新書)はそんなコンプレックスの実態と克服法を教えてくれる一冊です。一部を抜粋してご紹介します。

弟を殺した織田信長

歴史上には、きょうだい間の確執がやがて殺害に至るというケースが少なくない。その一つ、よく知られているのが織田信長と弟信行の確執である。この確執の背景にも、やはり母親の不公平な愛情が絡んでいた。

狩野元秀 画「織田信長像」

信長と信行は、ぜんを母にもつ兄弟であったが、土田御前は、行儀作法もわきまえない、暴れん坊の信長を疎んじ、品行方正な優等生であった信行の方をちようあいした。夫が亡くなってからも、信行の方とばかり一緒に暮らした。信長のぎようせきに不安を感じた家臣団の一部が、信行を担いでほんくわだてたとき、信長に追い詰められた信行の命乞いをして助けたのも、土田御前だった。

信長は、このとき母の願いを受け入れて、信行をいったん許すが、その心には、いっそう不信感が募ったであろう。結局、再度、信行は謀反を企て、信長は密告によってその事実を察知すると、病気を装って見舞いに来させ、信行を暗殺したのである。

その後、母親の土田御前は信長のもとに引き取られ、孫たちの面倒を見たりして余生を過ごしている。信長は力ずくで、母親の関心を独占したと言えるだろう。それにしても、母親から可愛がられたばかりに他のきょうだいから憎しみを買い、窮地に陥るという皮肉は、今日も繰り返されている。

愛情に差があると嫉妬が生じる

この兄弟殺しのエピソードからも見て取れるように、きょうだい間の葛藤や反目は、しばしば自分の方が愛されなかったという嫉妬に由来している

嫉妬という感情に着目し、それが社会悪の起源ではないかと考えたのが、フランスの思想家ジャン=ジャック・ルソーである。ルソーは、その著『人間不平等起源論』の中で、人類は、もともとの自然状態においては、「れんびんの情」により他人を自分と同一視して、わけ隔てのない状態にあったが、所有やグループが生まれるとともに、優劣や嫉妬が生じて、それが「不平等への、また同時に悪事への第一歩」となったのだと論じた。

モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール 画「ジャン=ジャック・ルソー」

そのおおもとは、家族というグループ内で、優れているとされた子と劣っているとされた子、親に愛された子と愛されなかった子の間の不公平感であったと言えるだろう。

自分も同じように認められ愛されたいと思い、それもできることなら自分が一番認められ愛されたいと願う──。しかしそれがかなわず、認められなかった子、愛されなかった子は、悲しみや怒りや願望がない交ぜになった感情を引きずることになる。

 

ちなみに、ルソーも不遇な子ども時代を過ごしたことで知られる。母親はルソーを産むと、その直後、身代わりのように亡くなってしまったのだ。母親のことを大そう愛していた父親は、愛妻の形見となったルソーを溺愛する。

その割を食ったのは、ルソーの兄である。兄は母親を失っただけでなく、父親にも放っておかれたのだ。この兄は、十七歳のときに家出したまま、二度と戻ってこなかった。ルソーが、多くの人のを受け、世界的な思想家として名を残すことができたのとは対照的に、兄はこの世の闇に消えてしまったのだ。

兄の心にあったのも、弟ばかり可愛がってという恨めしい思いだったに違いない。その弟が、『人間不平等起源論』という本を書くのも、また皮肉な話である。

関連書籍

岡田尊司『きょうだいコンプレックス』

きょうだいは同じ境遇を分かち合った、かけがえのない同胞のはずだ。しかし一方では永遠のライバルでもあり、一つ間違うと愛情や財産の分配をめぐって骨肉の争いが起こることもある。実際、きょうだい間の葛藤や呪縛により、きょうだいの仲が悪くなるだけでなく、その人の人生に暗い影を落としてしまうケースも少なくない。きょうだいコンプレックスを生む原因は何なのか? 克服法はあるのか? これまでほとんど語られることがなかったきょうだい間のコンプレックスに鋭く斬り込んだ一冊。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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